建設業界では近年、深刻な人手不足が続いています。
その解消策として注目されているのが、外国人材の受入れをめざす特定技能制度です。
本記事では、建設業における特定技能制度の現状や業務区分、取得要件などを詳しく解説します。
目次
特定技能「建設業」分野とは?
建設業の特定技能制度とは、建設分野で一定の専門性・技能を持つ外国人材に、特定技能外国人として在留資格を与えて労働者として受け入れるための制度です。
深刻化する建設業界の人手不足を補うことを目的としています。
建設業で特定技能制度を利用して外国人を雇用することで、技能実習生より高度な仕事を任せられる人材を確保できるようになるのです。
建設業界の現状・人口不足について
建設業就業者数は、1997年には685万人でしたが、2010年には504万人、2022年には479万人と減少を続けています。
建設業の労働人口が減少している背景には、屋外や高所での作業などの危険な印象や、長時間労働といった、業界へのネガティブイメージが考えられます。
建設業は他産業と比べて高齢化が進んでおり、若手の担い手不足が深刻です。
人口減少社会のなかで建設需要に対応するには、生産性の向上とともに外国人材の活用が不可欠でしょう。
特定技能「建設業」の在留外国人数
出入国在留管理庁が公表している2023年12月時点の資料によると、建築業の特定技能1号在留外国人数は24,433人となっています。
2022年12月時点では12,768人であり、増加傾向にあります。
特定技能「建設業」の業務は3区分
特定技能「建設業」の業務区分は、土木、建築、ライフライン・設備の3つに分かれています。
それぞれの区分で求められる技能や知識が異なるため、外国人材を雇用する際は業務内容を明確にしておく必要があります。
土木
土木業務は、指導者の指導や監督を受けながら、土木施設の新設や改築、維持や修繕にかかる作業に従事することを指します。
おもな業務内容は、型枠施工やコンクリート圧送、トンネル推進工や建設機械施工などです。
土木工事は建設業のなかでも特に高い専門性が求められ、技能者の育成には時間がかかります。
熟練技能者の高齢化が進むなかで、特定技能外国人への期待は大きいといえるでしょう。
建築
建築業務は、指導者の指導や監督を受けながら、建築物の新築や増築、改築や模様替えなどの作業に従事することを指します。
おもな業務内容は、屋根ふきやとび、左官、鉄筋施工、内装仕上げなどです。
日本の建築物は木造住宅から高層ビルまで多岐にわたります。
そのため、建築業務に従事する特定技能外国人には、幅広い知識と技能が求められます。
ライフライン・設備
ライフライン・設備業務は、指導者の指示や監督を受けながら、電気通信やガス、水道、電気などのライフラインや設備の整備や設置、変更にかかる作業などに従事することを指します。
おもな業務は、電気通信や配管、建築板金、保温保冷です。
ライフラインは国民生活や経済活動の基盤であり、災害時の復旧などでも重要な役割を担っています。
設備工事は建築物の機能や快適性を支えるうえで欠かせない仕事です。
特定技能「建設業」の取得要件
外国人が特定技能「建設業」で働くためには、まず在留資格の取得が必要です。
そのためにはいくつかの要件をクリアしなければなりません。
ここでは特定技能の取得に必要な試験や技能実習2号からの移行、1号から2号への移行について解説します。
試験について
特定技能1号「建設業」を取得するには、国土交通省の定めている建設分野特定技能1号評価試験に合格しなければなりません。
日本語能力も必要となるため、日本語能力試験(JLPT)でN4以上、もしくは、国際交流基金日本語基礎テストに合格する必要があります。
どちらも一定の水準に達していることが求められます。
建設分野の専門知識だけでなく、業務に必要な日本語コミュニケーション能力も重視されているのです。
技能実習2号から移行できる
技能実習2号を良好に修了し、技能実習での職種や作業内容と特定技能1号の区分が一致していれば、特定技能1号へと移行することもできます。
技能実習2号を良好に修了した場合、技能試験や日本語能力試験は免除されます。
ただし、移行するには技能実習計画の認定職種・作業と、特定技能1号での業務内容が対応していることが必要です。
技能実習で学んだ知識や経験を特定技能でも活かせるようにするための措置です。
特定技能1号から2号になるには
特定技能2号は、より高度な技能が求められる在留資格です。
特定技能1号から2号に移行するには、建築分野特定技能2号の試験に合格する必要があります。
型枠施工や左官、コンクリート圧送やトンネル推進工などの業務区分ごとに、建設分野特定技能2号評価試験の合格が求められます。
特定技能2号では、特定技能1号で求められる技能よりさらに専門的で応用的な能力が必要です。
建設業で即戦力となる外国人材を確保したいなら、特定技能2号の条件を満たす人材を求めるのも良いでしょう。
特定技能「建設業」の外国人受入れにおける企業の条件
建設業で特定技能外国人を雇用するには、単に特定技能在留資格を得た外国人を採用するだけでは不十分です。
受入れ企業側にも、いくつかの条件が課されています。
外国人が安心して働ける環境を整備するために、条件を満たさなければなりません。
建設業許可を受ける
本来、軽微な建設工事を行う建設会社であれば、建設業法第3条の許可は必須ではなく、任意とされています。しかし、建設分野の特定技能外国人を受け入れる際には、建設業法第3条の許可を受ける必要があります。
許可は国土交通大臣または都道府県知事から受けるもので、技術者の人数や資本金など一定の要件を満たす必要があります。
建設業の健全な発展を目的とした許可制度であり、許可なく一定以上の規模の工事を請け負うと、罰金や懲役の対象になってしまいます。
受入計画の認定を受ける
建設業では、ほかの産業と比べて受け入れた技能実習生が行方不明になることが多いため、特定技能外国人を受け入れる前に、国土交通省から建設特定技能受入計画の認定を受けることが義務づけられています。
技能実習として建設業に従事してきた外国人を、特定技能枠であらためて採用する場合でも、国土交通省による認定が必要です。
受入計画には、建設特定技能外国人を直接雇用し、報酬を支払うことなどが定められています。
外国人の適正な雇用管理のために設けられた条件であるといえるでしょう。
建設技能人材機構に加入する
特定技能外国人の受入れ企業は、建設技能人材機構(JAC)に加入する必要があります。
JACは特定技能外国人の受入れ支援を行う団体で、制度の適正な運用に重要な役割を果たしています。
建設業の人材確保を推進するために設立された組織です。
JACの正会員団体の会員または賛同会員になると、どの職種でも特定技能外国人の受入れが可能になります。
建設キャリアアップシステムに登録する
建設業振興基金が運営する建設キャリアアップシステムに、事業者登録を行う必要があります。
建設キャリアアップシステムでは、事業者が技能者の就業状況を確認し、現場の効率化を図ることが可能です。
システムへの登録・利用は建設業の生産性向上につながると期待されています。
技能者の処遇改善を通じて、建設業の魅力度アップにも寄与するでしょう。
特定技能「建設業」受入れにかかる費用
特定技能1号外国人を雇用するには、基本給、手当ともに同等の技能を持つ日本人従業員と同等以上で、就労する地域における建設業の賃金水準よりも低くならないようにする必要があります。
また、受入れ企業は、「受入れ負担金」と呼ばれる月額の費用を建設技能人材機構(JAC)に支払わなければなりません。
例えば、JACが指定する海外教育訓練を受けた場合の海外試験合格者は、1人あたり月額20,000円で年額24万円となっています。
負担金は外国人の適切な受入れ環境の整備に使われ、間接的に建設業の人材不足解消につながる仕組みです。
企業にとっては新たなコストですが、外国人活用のための投資ととらえることもできます。
特定技能「建設業」分野の業務区分や取得条件を知って参考にしよう
本記事では、特定技能「建設業」の業務区分や取得要件、企業の受入れ条件などを詳しく解説してきました。
建設業就業者数は減少して人手不足となっているものの、建築業の特定技能在留外国人数は増加傾向にあります。
建築業の特定技能の業務区分は、土木、建築、ライフライン・設備の3つの区分となっています。
外国人、企業双方に課される条件は、ハードルが高いと感じるかもしれません。
しかし、建設業の発展と外国人の適正な待遇の確保を両立するための規定だといえます。
制度への理解を深めることが、建設分野における特定技能の普及につながるはずです。
建設業の人手不足は今後も続く見通しであり、特定技能制度による外国人の活用に注目が集まっています。
外国人の力を借りて、建設業の未来を切り拓いていくことが期待されます。