外国人労働者を雇用する場合、年金の支払義務が発生します。
しかし、国によっては年金の二重支払いになる可能性があるため、条件を確認して手続きを踏む必要があります。
外国人労働者は年金を受け取る前に帰国してしまう可能性がありますが、その場合にも外国人労働者の「払い損」を防ぐ制度があるため理解しておきましょう。
目次
外国人労働者は年金に加入する必要はある?
日本で事業を営む場合は、すべての法人事業所と、常時従業員を5人以上雇用する個人事業所は、厚生年金保険・健康保険の加入が義務付けられています。
また、日本国内に住所がある20歳以上60歳未満の人は、国民年金への加入義務があり、厚生年金の場合には70未満が対象となっています。
つまり、日本で外国人労働者を雇用する場合、上記の条件を満たすすべての従業員が年金制度に加入する必要があります。
外国人労働者に対する年金手続きについて
ここでは外国人労働者の年金手続きについて、日本人従業員との違いや必要書類、流れを紹介します。
日本人と同様の手続きで行う
外国人労働者の年金手続きは、基本的には日本の従業員と同様に行います。
ただし、外国人の場合は年金基礎番号が発行されていない可能性があるため、まずは本人確認を行う必要があります。
具体的には、在留カードや特別永住者証明書などの書類で本人確認を行ったうえで、年金手続きを進めていくことになるため、日本人従業員よりも時間がかかる可能性があります。
年金手続きの流れ
外国人を採用した際には、事業主が「被保険者資格取得届」を日本年金機構へ提出します。
被保険者資格取得届とは、厚生年金や健康保険などの社会保険に加入する際に提出する書類の一つです。
出典:被保険者資格取得届
被保険者資格取得届を提出する際には、資格取得時の本人確認を行う必要があります。
マイナンバーを持っていない短期在留外国人や海外居住者で、過去にも本人確認を行っていない方の場合は、資格外活動許可書や就労資格証明書など、別途書類によって本人確認を行うため、書類の写しの送付が必要です。
外国人労働者に対する年金の脱退一時金の措置とは?
脱退一時金とは、短期在留の外国人労働者が日本国内で働いて年金保険料を納めた場合に、その一部を払い戻しする制度のことです。
外国人労働者は、年金制度への加入が義務付けられていますが、年金を受け取る前に仕事を辞めて帰国してしまうケースが少なくありません。
そうなると、せっかく納めた保険料が掛け捨てになってしまいます。
そこで、年金をもらわずに帰国する外国人労働者のために、脱退一時金の制度が設けられています。
この制度を利用するためには、日本国籍を有していないことが条件となります。
企業としては、外国人労働者を雇用する際に、脱退一時金の仕組みをしっかりと説明し、労働者が不安なく年金制度に加入できるようサポートすることが大切です。
外国人労働者の年金が免除されるケース
外国人労働者のなかには、年金が免除されるケースがあります。
ここでは、免除になるケースや対象となる国について紹介します。
社会保障協定に該当する国の労働者のケース
社会保障協定に該当する国の労働者を雇用する場合、年金が免除される可能性が高くなります。
社会保障協定とは、外国人労働者の母国と日本の間で結ばれる協定で、年金の二重加入を防ぐために設けられています。
各国で国民年金や厚生年金など保障制度が異なるため、日本で働く外国人労働者が母国でも年金の支払い義務を負っている場合、二重の負担になってしまうのです。
社会保障協定は、そうした二重加入の問題を解消するための仕組みです。
社会保障協定に該当する国
日本が社会保障協定を結んでいる国は以下のとおりです。
発効済の協定を結んでいる国(23ヵ国) | ドイツ、英国、大韓民国、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー、インド、ルクセンブルク、フィリピン、スロバキア、中国、フィンランド、スウェーデン、イタリア |
署名済の協定を結んでいる国(1ヵ国) | オーストリア |
政府間交渉中の国(2ヵ国) | トルコ、ポーランド |
予備協議中等の国(3ヵ国) | ベトナム、タイ、ノルウェー |
出典:社会保障協定の締結状況
※2024年4月現在
各国の社会保障協定内容
社会保障協定を結んでいる国のなかでも、協定の内容は国によって異なります。
以下の表のとおり、年金のみが対象の国もあれば、医療保険のみが対象の国もあります。
年金制度の加入対象者 | |||
---|---|---|---|
被用者 | 自営業者 | 無業の人 | |
日本(参考) | 加入義務あり | 加入義務あり | 加入義務あり |
ドイツ | 加入義務あり | 職種により、加入義務あり | 一部加入義務あり |
英国 | 所得により、加入義務あり | 所得により、加入義務あり | 加入義務なし |
韓国 | 加入義務あり | 加入義務あり | 一部加入義務あり |
アメリカ | 加入義務あり | 所得により、加入義務あり | 加入義務なし |
ベルギー | 加入義務あり | 加入義務あり | 加入義務なし |
フランス | 加入義務あり | 加入義務あり | 一部加入義務あり |
カナダ | 所得により加入義務あり | 加入義務あり | 加入義務なし |
オーストラリア | (SG)所得により、加入義務あり (AP)加入義務あり |
(SG)加入義務なし (AP)加入義務あり |
(SG)加入義務なし (AP)加入義務あり |
オランダ | 加入義務あり | 加入義務あり | 加入義務あり |
チェコ | 加入義務あり | 加入義務あり | 一部加入義務あり |
スペイン | 加入義務あり | 加入義務あり | 加入義務なし |
アイルランド | 所得により、加入義務あり | 所得により、加入義務あり | 加入義務なし |
ブラジル | 加入義務あり | 加入義務あり | 加入義務なし |
スイス | (BP)加入義務あり (MOP)所得により、加入義務あり |
(BP)加入義務あり (MOP)加入義務なし |
(BP)加入義務あり (MOP)加入義務なし |
ハンガリー | 加入義務あり | 加入義務あり | 加入義務なし |
インド | (NPS)加入義務あり (EPF)所得により、加入義務あり |
加入義務なし | 加入義務なし |
ルクセンブルク | 加入義務あり | 加入義務あり | 加入義務なし |
フィリピン | 加入義務あり | 加入義務あり | 加入義務なし |
スロバキア | 加入義務あり | 所得により、加入義務あり | 加入義務なし |
中国 | 加入義務あり | 加入義務あり | 加入義務なし |
フィンランド | 加入義務あり | 加入義務あり | 加入義務なし |
スウェーデン | (所得に基づく年金)加入義務あり | (所得に基づく年金)加入義務あり | (所得に基づく年金)加入義務なし |
イタリア | 加入義務あり | 加入義務あり | 加入義務なし |
出典:主要各国の年金制度の概要
外国人労働者を雇用する際は、その労働者の母国と日本の間でどのような社会保障協定が結ばれているのかを確認し、二重加入とならないよう注意して手続きを進めましょう。
外国人労働者の年金加入については条件を確認しよう
日本で働く外国人労働者は、原則年金制度への加入義務が発生します。
年金の手続きは、日本国内の人々と同様に行いますが、社会保障協定を結んでいる国の場合は二重負担とならないよう注意が必要です。
また、年金制度や脱退一時金などについても、労働者にしっかりと説明することが大切です。
外国人労働者を雇用する際には、一人ひとりの条件をよく確認し、適切に年金の手続きを進めていきましょう。