外国人労働者の採用が増えるなか、企業が外国人を雇用する際に文化や言語の違いから生まれるコミュニケーションの問題や、在留資格の確認不足などのトラブルが発生してしまうかもしれません。
外国人を採用する企業は、トラブルを未然に防ぐためにも、事前に対策をとることが重要です。
本記事では、外国人労働者を採用する際によく起こるトラブルの事例と、その対策について解説します。
目次
外国人とのコミュニケーションに関するトラブルの事例
外国人労働者を採用する際に特に気になるのが、コミュニケーションに関するトラブルです。
言葉の壁や文化の違いから、意思疎通がうまくいかないケースが少なくありません。
ここでは、代表的なコミュニケーションのトラブル事例を紹介します。
事例:言語や日本の文化を受入れることが難しい
日本で働く外国人労働者のなかには、来日前に日本語を学んでいる人もいますが、実際の会話をすべて理解することは容易ではありません。
言語の問題に加え、そもそも挨拶をする文化がない国もあるなど、日本特有の習慣になじめないケースもあります。
例えば、タイ・ミャンマー・ベトナムなどの東南アジア諸国では、会社で毎日顔を合わせる程度の関係であれば、あいさつをしないのが一般的です。
黙って職場に入り、黙って去るといったことが日常的に行われています。
こうした文化の違いから、報連相が遅れたり、指示がうまく伝わらないといった問題が発生することがあります。
対策:視覚的に理解できるマニュアルを作成する
外国人労働者とのコミュニケーションを円滑にするには、言葉だけに頼らず、視覚的に理解できるマニュアルを作成することが効果的です。
日本語だけでなく、労働者の母国語で専門用語などを解説したり、イラストや写真を多用したわかりやすい資料を作成しましょう。
また、安全面に関わる重要な注意点は、必ず母国語でも明記するようにしてください。
視覚情報を活用することで、言葉の壁を越えて、的確に情報を伝えることができます。
対策:事前に文化の共有をして日本語勉強会を行う
外国人労働者が日本語学習を継続できるよう、定期的な社内勉強会を開催しましょう。
オンラインでの勉強会や、日本語学習教材の提供も効果的です。
また、あいさつの習慣など、日本特有の文化についても丁寧に説明し、理解を促します。
挨拶は、日本のビジネスシーンで欠かせないコミュニケーションツールであることを伝え、積極的に実践してもらいましょう。
社内でルールを決めて、あいさつを習慣化することも一案です。
対策:曖昧な指示を出さない
日本人同士のコミュニケーションでは、「空気を読む」ことや婉曲的な言い回しが多用されますが、外国人労働者にはわかりにくいものです。
YesかNoかをはっきりさせる、具体的に何をどのようにしてほしいのかを明確に伝えるなどして、曖昧な指示は避けましょう。
また、一度に多くの情報を与えるのではなく、重要度に応じて優先順位をつけ、段階的に指示を出すのも効果的です。
指示を出す際は、相手が理解したか必ず確認し、必要であれば言い換えや補足説明を行いましょう。
こうした心がけが、ミスコミュニケーションを防ぐカギとなります。
外国人の認識の違いによって起こるトラブルの事例
外国人労働者の常識が、日本人の常識と異なることで起こるトラブルも少なくありません。
ここでは、外国人特有の認識の違いから生じる問題事例を取り上げます。
事例:気付かずに違法行為を行ってしまっていた
外国人労働者のなかには、「これくらいなら大丈夫だろう」と独自の判断で行動し、結果的に日本では違法となる行為を行ってしまうケースがあります。
ストレスなどから器物破損や窃盗に及ぶトラブルも報告されています。
悪気はなくても、会社の備品を持ち出したり、知的財産を無断で使用したりといった行為は、処罰の対象となる可能性があるものです。
最悪の場合、懲役刑に処せられるなど、取り返しのつかない事態を招くこともあり得ます。
外国人労働者の認識不足が、重大な問題につながるリスクを孕んでいるのです。
対策:契約時に危険なことについて説明する
違法行為を未然に防ぐには、雇用契約の段階で注意喚起を行うことが重要です。
SNSへの機密情報の投稿や、著作権侵害など、具体的に禁止事項を列挙し、違反した場合の罰則規定についても説明しましょう。
その際、難解な日本語は避け、わかりやすい表現を心がけてください。
また、外国人労働者の母国語で注意点を記したリーフレットを配布するなど、理解度を高める工夫も必要です。
イラストや図表を活用し、視覚的にも訴求することで、注意事項がより確実に伝わるはずです。
労働環境・雇用形態に関するトラブルの事例
外国人労働者を採用する際は、労働環境や雇用形態のミスマッチがトラブルを招くことがあります。
こうしたミスマッチから起こるトラブルと、それを防ぐための対策を解説します。
事例:雇用形態に納得が行かず、音信不通になってしまう
採用時に雇用形態を説明していても、実際の労働環境や待遇に不満を抱き、失踪したり音信不通になる外国人労働者が一定数存在します。
例えば、多額の借金を抱えている労働者が、低賃金では返済が困難だと判断し、より高い収入を求めて職場から姿を消すケースなどです。
また、伝えていた労働内容と実際の業務が大きく異なることに不信感を募らせ、途中で職場を離れてしまう人もいます。
いずれも、企業側の説明不足や待遇面の問題が原因となっているケースが少なくありません。
対策:労働環境や雇用形態を見直す
トラブルを防ぐには、外国人労働者に適した労働環境と雇用形態を整備する必要があります。
まずは、職場の労働実態を細かくチェックしましょう。
外国人材が働きやすい環境が整っているか、雇用契約書の内容と実際の仕事内容に乖離がないかなど、入念な確認が欠かせません。
改善すべき点があれば、速やかに是正措置を講じてください。
万一、失踪者が出てしまった場合は、出入国在留管理庁への報告など、適切な手続きを取ることが求められます。
外国人の在留資格に関するトラブルの事例
外国人を雇用する際には、在留資格の確認が不可欠です。
在留資格をめぐるトラブル事例とその対策を見ていきましょう。
事例:在留資格の期限が迫っていた
在留資格の確認を怠ると、想定外のトラブルに見舞われることがあります。
外国人労働者本人だけでなく、企業側の確認不足が原因で、在留期限が切れそうになっていたり、就労可能な在留資格でないことが発覚するケースがあるのです。
なかには、人手不足を理由に、在留資格の問題があることを承知で外国人を雇用し、結果的に入管法違反で摘発されるなど、重大な事態を招いた企業もあります。
在留資格の不備は、外国人個人だけでなく、企業経営にも大きなダメージを与えかねません。
対策:契約時に必ず在留資格を含めた確認を行う
在留資格関連のトラブルを防ぐには、採用時の確認を徹底することが何より重要です。
在留カードの有効期限や就労可能な在留資格であるかを必ずチェックし、その他の提出書類にも不備がないか細かく確認しましょう。
「後日提出する」といった申し出には安易に応じず、必ず期限を区切って提出を求めることが肝心です。
在留資格は採用後も定期的に確認し、更新漏れがないよう注意を払いましょう。
外国人労働者に対して、在留資格の重要性を繰り返し伝え、意識を高めてもらうことも大切です。
外国人労働者の解雇時に発生するトラブルの事例
外国人労働者との雇用契約を終了する際にも、トラブルが発生するケースがあります。
離職時の問題事例とその対策について解説します。
事例:解雇理由に納得できず問題になってしまう
外国人労働者を解雇する際、企業側に正当な理由があっても、本人が納得しない場合は大きなトラブルに発展する恐れがあります。
解雇の理由が言語の壁などから十分に伝わらず、「不当解雇だ」と主張されるケースも少なくありません。
最悪の場合、労働審判や裁判沙汰になるなど、企業側の負担が膨らむリスクも孕んでいます。
離職のプロセスを慎重に進めなければ、思わぬ展開を招きかねないのです。
対策:解雇理由を明確にする
トラブルを未然に防ぐには、解雇の理由を労働者本人に丁寧に説明することが重要です。
解雇に至った経緯を時系列で整理し、関連資料とともにわかりやすく伝えましょう。
説明の際は、労働者の理解度を確認しながら進めることが肝心です。
契約内容との齟齬がある点は具体的に指摘し、改善の機会を与えたにも関わらず改善が見られなかった旨を伝えるなど、客観的な事実を淡々と述べるよう心がけましょう。
感情的にならず、事実関係を明確にすることが、納得を得るカギとなります。
また、解雇予告の手続きなど、労働基準法を遵守することも重要です。
コンプライアンスを疎かにすると、企業側の立場が不利になることを肝に銘じておきましょう。
トラブルの事例を参考に外国人と友好な関係を築こう
外国人労働者を採用する際のトラブル事例を見てきましたが、異文化コミュニケーションの難しさが根底にあることがわかります。
言葉や文化、価値観の違いを乗り越え、良好な関係を築くには、受入れ側の歩み寄りが欠かせません。
採用前の丁寧な説明、入社後の手厚いサポート、トラブル発生時の冷静な対応など、一つひとつの積み重ねが信頼関係を育むのです。
外国人労働者が定着し、力を発揮できる職場環境を整備することが、企業の発展につながるでしょう。