少子高齢化が進み、労働力不足が深刻化する日本では、外国人労働者の受け入れが増加しています。
国が「特定技能」という在留資格を新設したことで、より高い専門性・技能を有する外国人労働者を即戦力として採用できるようになりました。
ただし、特定技能制度はどのような業界にも設けられているわけではなく、人手不足の状態にある特定産業分野12分野に限られています。
この12分野に該当する14の職種では、特定技能外国人を受け入れることが可能です。
本記事では、特定技能の対象職種をまとめて解説します。
特定技能制度について詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみてください。
目次
特定技能の職種一覧
特定技能外国人を受け入れられるのは、以下の12分野14職種です。
- 介護
- ビルクリーニング
- 素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業
- 建設
- 造船・舶用工業
- 自動車整備
- 航空
- 宿泊
- 農業
- 漁業
- 飲食料品製造業
- 外食業
素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業に関しては、1分野で3職種が該当します。
ここからは、特定技能12分野それぞれの仕事内容や特徴を見てみましょう。
介護
介護の特定技能では、高齢者や障がい者の方に対する身体介護、支援などに従事します。
入浴・食事・排泄などの日常生活のサポートだけでなく、身体機能を高めるためのレクリエーションの実施やリハビリ補助なども行えるのが特徴です。
2024年4月現在、訪問介護については対象外になっていますが、今後従事が認められる可能性があるでしょう。
外国人材が介護の特定技能を取得するには、介護技能評価試験と介護日本語評価試験、日本語試験への合格が必要です。
このうち日本語試験では、「国際交流基金日本語基礎テスト」または「日本語能力試験(N4以上)」の合格が求められます。
出入国在留管理庁によれば、2023年12月末時点で介護の特定技能を持つ外国人は28,400人おり、全特定産業分野のなかで3番目に多い割合です。
ビルクリーニング
ビルクリーニングの特定技能では、住宅を除いた多数の利用者が利用する建築物内部を対象に、衛生環境の保護や安全の確保などを行います。
一般的なビルの清掃だけでなく客室清掃業務も該当し、アメニティ補充やベッドメイキングまで、客室を提供するために必要となるさまざまな業務に従事できるのが特徴です。
特定技能外国人として認められるためには、下記の1号または2号の一定の要件を満たさなければなりません。
【特定技能1号】
- 「ビルクリーニング分野特定技能1号評価試験」に合格
- 「国際交流基金日本語基礎テスト」または「日本語能力試験(N4以上)」 に合格
(その他、「日本語教育の参照枠」のA2相当以上の水準)
※あるいは技能実習2号を修了(試験免除)
【特定技能2号】
- 「ビルクリーニング分野特定技能2号評価試験」または「技能検定1級(ビルクリーニング)」に合格
- 以下いずれかの実務経験
-建築物衛生法第2条第1項に規定する特定建築物の建築物内部の清掃
-同法第12条の2第1項第1号に規定する建築物清掃業
-同項第8号に規定する建築物環境衛生総合管理業の登録を受けた営業所が行う建築物(住居以外)内の清掃 - 上記の業務で複数の作業員を指導しながら現場管理を行った経験
2023年12月末時点でビルクリーニング分野の特定技能外国人は3,520人となっており、受け入れ人数はあまり多くありません。
素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業
製造分野の特定技能では、素形材製品や産業機械、電気・電子機器の製造に従事する外国人材を受け入れています。
機械加工や仕上げ、塗装、工業包装などのほか、フォークリフトやクレーンの操縦などの関連業務も、指導者のもとで従事が可能です。
製造分野の特定技能外国人も1号と2号に分けられ、それぞれ評価試験に合格するなどの基準を満たすことで在留資格を取得できます。
【特定技能1号】
- 「製造分野特定技能1号評価試験」に合格
- 「国際交流基金日本語基礎テスト」または「日本語能力試験(N4以上)」に合格
※あるいは技能実習2号を修了(試験免除)
【特定技能2号】
- 「製造分野特定技能2号評価試験」または「ビジネス・キャリア検定3級」に合格
- 日本国内の現場での3年以上の実務経験
工業分野は日本経済における重要性もあるため、2023年12月末時点で全特定産業分野のうち2割程度にあたる40,069人の特定技能外国人を受け入れています。
建設
建設分野での特定技能では、土木施設の新設や改築、維持、修繕に関わる作業へ指導者の監督下で従事します。
建設機械施工やとび、型枠施工などの業務をはじめとして、原材料の調達・搬送、機器の保守、足場の組み立てといった土木建設の関連業務にも携わることが可能です。
建設分野の特定技能にも、1号と2号があります。
【特定技能1号】
- 技能評価試験「技能検定3級」または「建築分野特定技能1号評価試験」に合格
- 「国際交流基金日本語基礎テスト」または「日本語能力試験(N4以上)」に合格
※あるいは技能実習2号を修了(試験免除)
【特定技能2号】
- 「建設分野特定技能2号評価試験」または「ビジネス・キャリア検定3級」
- 「技能検定1級」に合格および3年以上の実務経験
特定技能1号取得のルートとしては、技能実習2号からの移行よりは試験合格をめざすパターンのほうが現実的でしょう。
建設分野の受け入れ人数は2023年12月時点で24,433人と、全特定産業分野のうち4番目に多い結果となっています。
造船・舶用工業
造船・舶用工業は、溶接区分と塗装区分、鉄工区分、仕上げ区分、機械加工区分、電気機器組立て区分の6つの区分に分かれます。
従事できる業務が区分ごとに異なるため、造船・舶用工業分野で特定技能外国人を採用したい場合には事前に確認しておきましょう。
また、各区分ごとに試験内容も異なります。
旧試験区分 | 新試験区分 |
---|---|
造船・舶用工業分野特定技能1号試験(溶接) | 造船・舶用工業分野特定技能1号試験(造船) 造船・舶用工業分野特定技能1号試験(舶用機械) |
造船・舶用工業分野特定技能1号試験(塗装) | 造船・舶用工業分野特定技能1号試験(造船) 造船・舶用工業分野特定技能1号試験(舶用機械) |
造船・舶用工業分野特定技能1号試験(鉄工) | 造船・舶用工業分野特定技能1号試験(造船) 造船・舶用工業分野特定技能1号試験(舶用機械) |
造船・舶用工業分野特定技能1号試験(仕上げ) | 造船・舶用工業分野特定技能1号試験(舶用機械) |
造船・舶用工業分野特定技能1号試験(機械加工) | 造船・舶用工業分野特定技能1号試験(舶用機械) 造船・舶用工業分野特定技能1号試験(舶用電気電子機器) |
造船・舶用工業分野特定技能1号試験(電気機器組立て) | 造船・舶用工業分野特定技能1号試験(舶用電気電子機器) |
造船・舶用工業分野特定技能2号試験(溶接) | 造船・舶用工業分野特定技能2号試験(造船) 造船・舶用工業分野特定技能2号試験(舶用機械) |
造船・舶用工業分野特定技能2号試験(塗装) | 造船・舶用工業分野特定技能2号試験(造船) 造船・舶用工業分野特定技能2号試験(舶用機械) |
造船・舶用工業分野特定技能2号試験(鉄工) | 造船・舶用工業分野特定技能2号試験(造船) 造船・舶用工業分野特定技能2号試験(舶用機械) |
造船・舶用工業分野特定技能2号試験(仕上げ) | 造船・舶用工業分野特定技能2号試験(舶用機械) |
造船・舶用工業分野特定技能2号試験(機械加工) | 造船・舶用工業分野特定技能2号試験(舶用機械) 造船・舶用工業分野特定技能2号試験(舶用電気電子機器) |
造船・舶用工業分野特定技能2号試験(電気機器組立て) | 造船・舶用工業分野特定技能2号試 験(舶用電気電子機器) |
参考:造船・舶用工業分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針
特定技能1号では、日本海事協会による試験に合格するとともに、日本語試験として「国際交流基金日本語基礎テスト」または「日本語能力試験(N4以上)」の合格が必要です。
特定技能2号に関しては溶接の1区分のみです。
試験の合格だけでなく、監督者としての実務経験も求められるぶん、ハードルは高いといえるでしょう。
造船・船用工業分野の特定技能外国人の受け入れ総数は多くなく、2023年12月時点で7,514人に留まっています。
自動車整備
自動車整備に関する特定技能では、日常点検整備や特定整備などに従事できます。
【特定技能1号】
- 「自動車整備分野特定技能評価試験」または「自動車整備士技能検定試験3級」に合格
- 「国際交流基金日本語基礎テスト」または「日本語能力試験のN4以上」に合格
※あるいは技能実習2号を修了(試験免除)
【特定技能2号】
- 「自動車整備分野特定技能2号評価試験」または「自動車整備士技能検定2級」に合格
- 地方運輸局長による認証を受けた現場で3年以上の実務経験を積む
自動車整備分野で活躍する特定技能外国人はそれほど多くなく、2023年末時点で2,519人となっています。
航空
航空分野の特定技能は、空港グランドハンドリング区分と航空機整備区分に分けられます。
空港グランドハンドリング区分は、航空機の地上走行支援や手荷物の取り扱い業務などが中心です。
一方の航空機整備区分では、機体の整備などに従事します。
航空分野において、特定技能外国人として在留資格を得るためには、1号と2号の以下の要件を満たすことが必要です。
【特定技能1号】
- 各区分に応じた「特定技能評価試験」に合格
- 「国際交流基金日本語基礎テスト」または「日本語能力試験(N4以上)」に合格
※あるいは技能実習2号を修了(試験免除)
【特定技能2号】
区分 | 技能水準・評価方法 |
---|---|
空港グランドハンドリング | ・「航空分野特定技能2号評価試験(空港グランドハンドリング)」に合格 ・3年以上の実務経験 |
航空機整備 | ・「航空分野特定技能2号評価試験(航空機整備)」に合格 ・3年以上の実務経験 ・以下のいずれかの資格を取得 ● 一等航空整備士(飛行機) ● 一考航空整備士(回転翼航空機) ● 二等航空整備士(飛行機) ● 二等航空整備士(回転翼航空機) ● 一等航空運航整備士(飛行機) ● 一等航空運航整備士(回転翼航空機) ● 二等航空運航整備士(飛行機) ● 二等航空運航整備士(回転翼航空機) ● 航空工場整備士(機体構造関係) ● 航空工場整備士(ピストン発動機関係) ● 航空工場整備士(タービン発動機関係) ● 航空工場整備士(プロペラ関係) ● 航空工場整備士(計器関係) ● 航空工場整備士(電子装備品関係) ● 航空工場整備士(電気装備品関係) ● 航空工場整備士(無線通信機器関係) |
特定技能2号の場合は、区分に応じた資格や技能水準が求められるほか、現場での実務経験も求められます。
航空分野の特定技能外国人数は、2023年末時点で632人です。
宿泊
宿泊分野の特定技能では、旅館やホテルのフロント、接客などのサービス提供はもちろんのこと、企画・広報も行います。
特定技能1号と2号の以下の要件を満たすことが必要です。
【特定技能1号】
- 「宿泊分野特定技能1号評価試験」に合格
- 「国際交流基金日本語基礎テスト」または「日本語能力試験(N4以上)」に合格
※あるいは技能実習2号を修了(試験免除)
【特定技能2号】
- 「宿泊分野特定技能2号評価試験」に合格
- ホテルや旅館などの宿泊施設での実務経験
宿泊分野の特定技能外国人は2023年12月時点で国内に401人と、比較的少なめです。
しかし、インバウンド需要なども高まっていることから、今後宿泊関連の特定技能外国人は増加していく可能性があるでしょう。
農業
農業分野の特定技能は、耕種農業区分と畜産農業区分に分けられます。
耕種農業では、野菜などの作物の栽培をはじめとして、土壌づくりや安全衛生業務、種子・苗木の取り扱いなどに従事が可能です。
畜産農業では、牛や豚の飼養、集出荷などを行います。
農業分野にも1号と2号があり、取得のためには要件を満たさなければなりません。
【特定技能1号】
- 区分ごとの「1号農業技能測定試験」に合格
- 「国際交流基金日本語基礎テスト」または「日本語能力試験(N4以上)」に合格
※あるいは技能実習2号を修了(試験免除)
【特定技能2号】
- 区分ごとの「2号農業技能測定試験」に合格
- 複数の従業員を監督するリーダーとして2年の実務経験、および農業現場で3年以上の実務経験
農業分野の特定技能外国人数は全体のうち5番目に多く、2023年末時点では23,861人が従事しています。
漁業
漁業分野の特定技能は、漁業区分と養殖業区分に分けられています。
釣りや定置網などで漁を行う場合と養殖に携わる場合で区分が違うため、注意が必要です。
漁業分野の特定技能1号、2号の取得には、以下のような要件が設けられています。
【特定技能1号】
- 各区分に応じた「1号漁業技能測定試験」に合格
- 「国際交流基金日本語基礎テスト」または「日本語能力試験(N4以上)」に合格
※あるいは技能実習2号を修了(試験免除)
【特定技能外国人2号】
- 各区分に応じた「2号漁業技能測定試験」に合格
- 「日本語能力試験(N3以上)」に合格
- 日本で管理者などとして2年以上の漁業実務経験
漁業分野の特定技能外国人は2023年末時点で2,669人と、介護分野や建設分野、農業分野に比べると多くはありません。
飲食料品製造業
飲食料品製造業の特定技能では、食料品の製造や加工、安全衛生業務に従事できます。
飲食料の生産に関わる一連の業務が該当しますが、酒類は含まれないのが特徴です。
飲食料品製造分野の特定技能にも、1号と2号があります。
それぞれの取得要件は以下のとおりです。
【特定技能1号】
- 「飲食料品製造業特定技能1号技能測定試験」に合格
- 「国際交流基金日本語基礎テスト」または「日本語能力試験(N4以上)」に合格
※あるいは技能実習を修了(試験免除)
【特定技能2号】
- 「飲食料品製造業特定技能2号技能測定試験」に合格
- 飲食料品製造業におけるリーダーや管理者としての2年以上の実務経験
飲食料品製造業分野の特定技能外国人は、全特定産業分野のなかで最も多く、2023年12月時点で61,095人が受け入れられています。
外食業
外食業の特定技能では、飲食店においての接客や調理、店舗管理などに従事できます。
関連業務として、店舗で提供する食材の栽培や物品の販売などに携わることも可能です。
外食業の特定技能1号、2号には、次のような取得要件が設けられています。
【特定技能1号】
- 「外食業特定技能1号技能測定試験」に合格
- 「国際交流基金日本語基礎テスト」または「日本語能力試験(N4以上)」に合格
※あるいは技能実習2号を修了(試験免除)
【特定技能2号】
- 「外食業特定技能2号技能測定試験」に合格
- 「日本語能力試験(N3以上)」に合格
飲食店でアルバイトや特定技能外国人をまとめる立場としての2年以上の実務経験
2023年12月時点では外食業に13,312人もの特定技能外国人が従事しており、その割合は全体のうち6.4%とそれほど多くありません。
特定技能の職種を確認して外国人採用を考えよう
特定技能制度の対象となる12分野14職種を解説しました。
対象分野は幅広く、なかでも特に飲食料品製造業や素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業、農業の受け入れが多い傾向にあり、人手不足の解消に一役買っています。
一方で、宿泊業や漁業、航空業などの分野は受け入れがそこまで進んでいない状態です。
とはいえ、特定技能を取得する外国人の数は年々増加しており、今後より多くの企業で制度の活用が進んでいくと予想されます。
特定技能外国人の受け入れを検討している事業主の方は、任せたい業務内容や必要とするスキルをふまえて、自社の希望にマッチした人材の獲得をめざしましょう。
一定の専門性と日本語能力を身につけた外国人材は、即戦力となるだけでなく、社内のグローバル化の促進にも貢献してくれます。