外国人が日本語に触れるなかで、表現の豊かさや独特の言い回しが学習の障壁となることがあります。
例えば「すみません」という言葉は、謝罪とも感謝ともとらえられ、外国人を混乱させてしまいやすい表現です。
日本人が日常的に使っている言い回しが、外国人にもスムーズに伝わるとは限りません。
コミュニケーションのすれ違いを防ぐためには、日本語話者である自分自身が、外国人に合わせた適切な言葉選びを心がけることが大切です。
本記事では、外国人が難しいと感じやすい日本語表現を、例文とともに紹介します。
日常会話や業務連絡など、外国人を相手とするコミュニケーションを円滑にするため、日本人側にできる工夫を理解しておきましょう。
目次
外国人が難しいと感じる日本語の例文
外国人が日本語学習を難しいと感じる要因には、特有のルールや表現の多様さが関係しています。
- 意味と使い方が複数ある言葉
- あいまいな表現
- 読み方が複数ある漢字
- 主語や目的語の省略
- 回りくどい言い方や不要な繰り返し
- 発音やアクセント
- 専門用語
- 同音異義語
- 二重否定
- オノマトペの使用
このように、日本語を使いこなすには多くのことを覚える必要があり、異なる言語を母国語とする外国人にとっては習得のハードルが高いと感じられます。
外国人との円滑なコミュニケーションのためには、混乱や勘違いを生みやすい日本語の特徴を日本人側でも知っておき、より適切な表現を選ぶことが重要です。
ここからは、外国人が難しいと感じる日本語表現を例文とあわせて見ていきましょう。
意味と使い方が複数ある言葉
日本語には、同じ表現でも複数の意味を持つ言葉が多く存在します。
文脈によって意味がまったく異なる言葉は多義語と呼ばれ、日本語を学ぶ外国人を戸惑わせる要素の一つです。
多義語の代表的な例として、「大丈夫」と「すみません」があります。
● 「大丈夫です」
- 肯定・了承
「一緒に着いて行かなくても良いですか?」「はい、大丈夫です」 - 否定・不要
「ご飯をお代わりしますか?」「もう大丈夫です」
● 「すみません」
- 依頼
「すみません、荷物を持ってもらえますか?」 - 謝罪
「明日は用事で行けなくて、すみません」 - 感謝
「わざわざ来ていただいて、すみません」
こうした多義語は、文脈や状況から意味を理解しなけければならず、口頭で話すときはもちろんのこと、メールなどの文章でも伝わり方に注意が必要です。
否定であれば「大丈夫」ではなく「いらない」、感謝であれば「すみません」ではなく「ありがとう」など、意図がより正しく伝わる表現を選ぶと良いでしょう。
あいまいな表現
日本語には、数値や量を明確に示さずに、おおよその状態をあいまいに表現する言葉が多く存在します。
例えば「くらい」「ほど」「だいたい」などの表現は、情報の具体性を損ない、外国人を混乱させる要因となるでしょう。
- ~くらい
「駅に着くまで、あと15分くらいはかかりそうです」 - ~ほど
「あと5人ほど入場できます」 - だいたい
「目的地まで、だいたい100m歩きます」
こうした表現は、状況に応じて柔軟に使用できる反面、正確さを求める場面では相手の誤解を招きかねません。
外国人とのコミュニケーションでは、あいまいな表現を避け、できる限り具体的な数値を示すなどの配慮が必要になります。
読み方が複数ある漢字
日本語で用いられる漢字の多くは、同じ文字でも文脈や使用場面によって読み方が変わるという特徴があります。
この性質が日本語表現を豊かにしている一方で、外国人が漢字の使い分けを習得するのは容易ではありません。
文脈によって読み方が異なる漢字には、次のような例があります。
- 「日」の読み方:にち、び、じつ、ひ、か
- 「生」の読み方:い(きる)、う(む)、なま、せい、しょう、は(やす)
- 「米」の読み方:べい、まい、こめ、よね
ここで挙げた読み方がすべてではなく、さらに「一日(ついたち)」「芝生(しばふ)」など漢字の組み合わせによる特殊な読みも存在します。
また、2文字以上の漢字で構成される言葉にも、複数の読み方を持つものがあり、文脈に応じた使い分けが必要です。
- 「最中」の読み方:もなか、さいちゅう、さなか
- 「紅葉」の読み方:もみじ、こうよう
- 「大人気」の読み方:だいにんき、おとなげ
漢字の適切な読み方を習得するには、豊富な語彙力と文脈理解力が求められます。
日本語の文章を外国人に読んでもらう際は、相手の理解レベルに合わせて難しい漢字をひらがな・カタカナの表記にする、ふりがなを振るなどの工夫をしましょう。
主語や目的語の省略
日本語の特徴として、文脈から推測できる主語や目的語は省略される傾向にあります。
主語や目的語の省略は、会話をスムーズにする一方で、日本語学習者である外国人からすると文の構造を理解しにくく、誤解を招く可能性があるでしょう。
以下の例文は、主語や目的語が省略された会話です。
A. 「先日渡したチョコレートを食べましたか?」
主語の省略:「先日(私が)渡したチョコレートを(あなたは)食べましたか?」
B. 「はい。食べました」
主語と目的語の省略:「はい。(私はチョコレートを)食べました」
日本語話者からすると難なく通じる表現ですが、外国人も同じ感覚で省略された言葉をスムーズに推察できるとは限りません。
特に、複雑な文脈や複数の人物が登場する会話では、誰が何をしたのか正確に把握するのが難しくなります。
日本語教育や外国人とのコミュニケーションにおいては、相手の理解度に応じて、主語や目的語を極力明確に示すよう意識してみてください。
回りくどい言い方や不要な繰り返し
直接的な表現を避けながら意図を伝える回りくどい言い方や、同じ意味の言葉を重複させて使う重ね言葉も、日本語の理解を難しくする要因です。
婉曲的な表現には、相手に不快な思いをさせないようマイルドに意図を伝える目的がありますが、外国人とのコミュニケーションでは障壁となる可能性があります。
- 回りくどい言い方
「参加を希望するという場合、アンケートに回答することで申し込みができるようになります」
この例文の場合、外国人には「参加したい人は、アンケートに答えてください」などと言い換えることで、簡潔に意図を伝えられます。
- 不要な繰り返し
「準備を進めました」
「作業を行いました」
「実行に移しました」
上記の例文は、「準備しました」「作業しました」「実行しました」と言い換えても問題ありません。
簡潔な表現を用いたコミュニケーションは、連絡事項が正しく伝わらないといったトラブルを防ぎやすくなります。
ただし、否定的な意見をする際など、角が立ちそうな場面では婉曲表現が役に立つため、状況に応じた使い分けも大切です。
発音やアクセント
日本語には、同じ読み方でも発音やアクセントによって意味が変わる言葉があります。
外国人にとって、日本語の細かな音調の違いを理解するのは難しく、聞き取りや発話で戸惑いを感じる方も少なくありません。
以下は、アクセントによって意味が変わる言葉の例です。
- せき(席・咳)
「席」は「せ」が高音、「咳」は「き」が高音 - さく(割く/裂く・咲く)
「割く/裂く」は「さ」が高音、「咲く」は「く」が高音 - はし(箸・橋)
「箸」は「は」が高音、「橋」は「し」が高音
日本語の文法や語彙をある程度理解した外国人でも、聴解、発話の習得が難しく、コミュニケーションをうまくとれないケースがあります。
日本語学習者に、正確な発音とアクセントを身につけてもらうには、反復練習を行ったり、アクセントの違いを視覚的に示したりする学習が効果的です。
外国人との日常会話でも、ゆっくりと明確に発音する、必要に応じて文脈を補足するなど、誤解を防ぐための配慮を意識しましょう。
専門用語
専門用語は、特定の分野や業界で使用される言葉であり、その分野に精通していない相手であれば伝わらない可能性があります。
ビジネスシーンで使用される専門用語のなかには、本来の意味とは異なる使われ方をしている和製英語なども多く、外国人がその意味を直感的に理解するのは困難です。
外国人とのコミュニケーションで注意したいビジネス用語には、次のようなものが挙げられます。
- キャッシュポイント:「利益を得る機会」を意味する和製英語
- ヒアリング:「聞き取り調査」などの意味合いで使われる和製英語
- アポ/アポイント:「会合や話し合いの約束」を意味し、外国人には「アポイントメント(appointment)」であれば伝わる
和製英語でなくとも、専門用語はその分野の基礎知識がなければ通じません。
外国人とのビジネスコミュニケーションでは、専門用語には説明を付け加える、一般的な表現に言い換えるなど、相手に合わせた言葉選びを心がけましょう。
同音異義語
日本語には、同じ発音でありながら異なる意味を持つ同音異義語も数多く存在します。
文字を見れば違いが一目でわかる場合でも、会話のなかだと、話を聞きながら情報を整理し、適切な意味をくみ取らなければなりません。
同音異義語の具体例をいくつか見てみましょう。
- こうしゃ:校舎、後者、降車、後車など
- こうどう:行動、講堂、公道など
- さいこう:最高、再考、採光、再校など
- こうか:効果、高価、硬貨、硬化、工科、高架、降下など
同音異義語を適切に使い分けるには、十分な語彙力と読解力が不可欠です。
特に、電話や口頭での説明など文字を使わずにやり取りをする場合、音声だけで意味を理解しなければならず、認識にすれ違いが生じやすくなります。
同音異義語による外国人の誤解を防ぐには、別のわかりやすい表現に言い換える、補足説明をするなどの対策が有効です。
二重否定
日本語の二重否定とは、否定の言葉を二つ使って婉曲的に表現する語法です。
否定を重ねることで結果として肯定の意味を表し、断定はせず遠まわしに意見を伝える際などに用いられます。
直接的な表現を避けようとする日本語ならではの語法ですが、外国人にとっては、否定・肯定のどちらでとらえれば良いのか判断に迷いやすいため注意が必要です。
- できないとは言っていない:「できる」というあいまいな肯定
- やらないわけにはいかない:「やる」という強い肯定
- わからないでもない:「多少わかる」という部分的な肯定
直接的な肯定や否定を避けることで、相手への配慮や状況の柔軟性を示すのが二重否定の特徴です。
しかし、否定の言葉に真逆のニュアンスを持たせる言い回しは、外国人からすると回りくどく、混乱を招きやすくなります。
外国人とのコミュニケーションでは、二重否定の使用を極力避け、肯定・否定が誤解なく伝わるよう直接的な表現を選択しましょう。
受身形や使役表現
日本語の使役表現や受身形は、動作主と対象との関係を表現する文法です。
人や物、行為の関係性を明らかにするための重要な表現ですが、外国人には習得が難しい日本語の要素に挙げられます。
- 使役表現:動作主が第三者に行為を命令する
「AがBに~させる」のように、主語が第三者に対して動作を仕向ける状況を表すのが使役表現です。
例えば「彼が私に資料を準備させた」という場合、主語は「彼」で、「私」に書類を準備する行為を仕向けた状況を示しています。 - 受身形:主語が動作主である第三者から行為を受ける
「AがBに~される」のように、行為を受ける側の視点で状況を説明するのが受身形です。
「部下が上司に褒められた」という受身形は、「上司が部下を褒めた」のように能動文にも置き換えられます。 - 使役受身形:動作主が第三者から行為を強制される
第三者から命じられた行為に、動作主がいやいや従う場合などに使われるのが「AがBに~させられる」という使役受身形です。
「私は友人から興味のない話を聞かされた」など、動作主が行為を迷惑に感じているニュアンスを表現できます。
受身形や使役表現は、話し手の立場や感情、状況のとらえ方によって使い分けが必要なだけでなく、動詞の活用ルールも理解していなければなりません。
外国人との会話では、できる限り能動態で説明をすると、動作主・被動作主の関係性がわかりやすくなります。
オノマトペの使用
オノマトペは、物事の状態や動き、音などを言葉で表現したもので、擬声語と擬音語、擬態語の総称です。
海外にもオノマトペは存在するものの、日本語は世界的に見てもオノマトペが豊富とされており、外国人が意味を理解して使いこなせるまでには多くの学習時間を要します。
- 擬声語:人や動物が発する音を表す
○ 犬が「ワンワン」と吠えている
○ 多くの人が「ゲラゲラ」と笑った - 擬音語:自然や物の音
○ 雨が「ザーザー」と降っている
○ ドアを「ドンドン」と叩いた - 擬態語:事物の状態や動きを表す
○ 床が濡れて「つるつる」と滑る
○ 熱が出て「ふらふら」している
オノマトペは文脈に依存するケースも珍しくありません。
また、日本語を母国語としない外国人にとっては、感覚や音がオノマトペと結びつきにくいという難しさもあります。
オノマトペの学習は、具体的な文脈のなかで覚えていくのが効果的です。
外国人とのコミュニケーションでは、日常的によく使うオノマトペから興味を持ってもらえるよう、実際の言動や状況を見せながら説明すると良いでしょう。
外国人の日本語能力に合わせて適切な表現を選ぼう
外国人が日本語を難しいと感じる理由には、婉曲的な表現や同音異義語、主語の省略、二重否定といった語彙・文法に関するもののほか、発音などの聴解・発話も関係しています。
日本人が感覚的に使っているこれらの表現も、外国人にとっては習得のハードルが高く、日本での生活や業務上の意思疎通で戸惑う場面も少なくありません。
そこで、日本の企業が外国人を受け入れる際は、日本語能力と業務の能力は必ずしも比例しないことを念頭に置いておきましょう。
面接であえて難しい日本語を使用したり、高すぎる日本語能力を求めたりした結果、優秀な人材を逃す可能性があります。
外国人の日本語能力は、在日期間のなかで向上していくものであり、採用活動においては人材が持つ素質の正しい見極めが重要です。
また、外国人の受け入れ後も、円滑なコミュニケーションを図るため、相手の日本語レベルに合わせたやさしい表現を選択するなどの配慮が必要になります。
企業側でも日本語の複雑さを再認識し、外国人に歩み寄ることで、相互理解を深めながらより良い関係を築けるでしょう。