外国人材の在留資格のうち「特定技能」は、人手不足状態にある業界において即戦力となりうる人材の受け入れを促進するための制度です。
特定技能の対象となっているのは12分野14業種で、そのなかに介護業があります。
介護業界は慢性的な人手不足にあり、特定技能を持つ外国人労働者を受け入れることで即戦力の獲得が期待できるだけでなく、若手人材の確保にもつながるでしょう。
本記事では、特定技能介護の取得要件や従事できる仕事内容、事業所で受け入れるメリットを解説します。
目次
特定技能「介護」とは?
特定技能介護は、介護業界の人手不足解消を目的として2019年に新設された在留資格の一つです。
これにより、一定の専門性や技能を持つ外国人労働者が日本で介護職へ従事できるようになりました。
特定技能「介護」の概要
特定技能介護は、深刻化する介護業界の人手不足を解消するべく導入された在留資格です。
一定の専門性や技能を認められた外国人が、介護職員などとして日本で働くことを目的に、2019年4月に新設されました。
導入以降、介護分野の特定技能外国人は着実に増加しています。
厚生労働省の資料によると、2023年時点で特定技能介護を持つ方は17,000人を超えており、今後もその数は増えていくことが予想されるでしょう。
介護をはじめとした特定技能の在留資格は、外国人が必要な試験に合格することで取得でき、最長5年間の就労が認められます。
特定技能介護でできる仕事内容
特定技能介護を持つ外国人は、次のような身体介護や支援業務に従事できます。
- 身体介護:入浴、排泄、食事の補助など
- 支援業務:レクリエーションの企画、機能訓練の補助など
ただし、介護を必要とする方の自宅に訪問して日常生活のサポートなどを行う訪問系サービスには対応できません。
受け入れ可能な人数
介護分野における特定技能外国人の受け入れ可能人数は、各事業所単位で「日本人などの常勤介護職員の総数を超えない範囲」と定められています。
日本人などの常勤職員とは、次のような人材のことです。
- 日本人の介護職員
- EPA介護福祉士
- 在留資格の介護を有する外国人
- 日本永住権を持つ外国人
- 日本人の配偶者がいる外国人
技能実習生やEPA介護福祉士候補者、留学生などの外国人は、ここでいう常勤職員の対象外となります。
特定技能介護の要件
特定技能介護の外国人を受け入れるためには、外国人側と施設側の双方が一定の要件を満たす必要があります。
それぞれの要件を詳しく見てみましょう。
介護の特定技能1号を取得するための要件
介護の特定技能1号を取得するには、介護技能評価試験と日本語試験、そして介護日本語評価試験の3つの試験に合格しなければなりません。
日本語試験では、「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」もしくは「日本語能力試験(JLPT)N4以上」のいずれかへの合格が必要です。
ただし、次に当てはまる方はこれらの試験が免除されます。
- 技能実習2号を良好に修了
- 介護福祉士養成施設を修了
- EPA介護福祉士候補者として在留期間4年を満了
介護の仕事では言葉のやり取りが重要視されており、通常の日本語試験に加えて介護日本語評価試験の合格も求められるのが特徴です。
特定技能介護を受け入れ可能な事業所の条件
特定技能介護の外国人を受け入れる事業所には、以下のような基準と義務が設けられています。
受け入れ事業所の基準 | ● 外国人との雇用契約が適切である ● 受け入れる事業所自体が適切である ● 外国人の支援体制がある ● 外国人の支援計画が適切である |
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受け入れ事業所の義務 | ● 外国人との雇用契約を確実に実施する ● 外国人に対し適切な支援を行う ● 出入国在留管理庁へ各種届出を行う |
特定技能介護を持つ外国人を受け入れる際、賃金はほかの日本人職員と同等以上であることが求められます。
不当に安い賃金で働かせたり、適切な休暇を与えなかったりといった差別的な待遇は認められません。
また、受け入れた外国人がスムーズに就労できるよう、オリエンテーションや日本語学習の機会、相談窓口を設けるといった支援体制も大切です。
こうした基準を満たしてはじめて、事業所は特定技能外国人を採用できます。
採用後は、雇用契約締結時に約束した労働条件をきちんと守り、必要に応じて仕事面だけでなく生活面の支援も実施しましょう。
介護分野の特定技能と他の在留資格との違い
特定技能以外にも、介護分野で外国人が就労できる在留資格が3種類あります。
- 在留資格「介護」
- 技能実習「介護」
- 特定活動(EPA)
それぞれの在留資格の特徴を見てみましょう。
在留資格「介護」
在留資格の介護は、以下のどちらかを満たすことと介護福祉士の国家試験への合格が取得要件となっています。
- 在留資格「留学」として入国し、日本の介護福祉士養成施設で2年以上在籍後卒業
- 在留資格「特定技能1号」など※として入国し、介護施設で3年以上就労・研修
※ ほかの在留資格(EPA介護福祉士候補者など)でも可
介護の在留資格を持つ外国人は、勤務施設の形態・業務範囲に制限がなく、夜勤や訪問介護も含めたさまざまな働き方が可能です。
また、在留期間を更新すれば永続的に就労できます。
ただし、養成施設への留学には日本語能力試験N2相当が求められるほか、介護福祉士の試験も日本語で行われることから、取得のハードルは比較的高いといえるでしょう。
技能実習「介護」
技能実習の介護は、発展途上国の外国人の技能習得を目的とした在留資格です。
日本語能力試験N3(日常会話をある程度理解できる)程度が求められます。
最長5年間の在留が可能ですが、特定技能の介護と同様に訪問系のサービスは行えません。
また、技能実習生5名につき技能実習指導員を1名以上配置する必要があるなど、受け入れ側に少なからず負担が発生するのが特徴です。
特定活動(EPA)
特定活動EPAの介護福祉士候補者は、経済連携協定(EPA)に基づく在留資格です。
人材の受け入れ対象国は、インドネシア・フィリピン・ベトナムの3ヵ国に限定されています。
特定活動(EPA)で来日する外国人は、日本での介護福祉士の資格取得を目的としており、受け入れ事業所でも学習機会の提供をはじめとした支援が必要です。
4年以内に介護福祉士の国家資格に合格できなかった場合は帰国しなければなりませんが、資格を取得できれば、引き続き日本で就労できます。
特定技能介護で外国人を採用するメリット
介護分野の特定技能で外国人を採用する第一のメリットは、新しい事業所でも外国人の受け入れが可能な点です。
例えば、技能実習生を介護分野で受け入れるには、事業所の開設から3年以上経過していなければなりません。
しかし、特定技能人材の受け入れにあたって事業所の設立期間に指定はなく、開設したばかりの施設でも外国人を採用できます。
人員配置後はすぐに業務に従事してもらえるため、即戦力としての活用が期待できることもメリットです。
また、民間の人材紹介会社を利用することで、採用活動を効率化できるのも特定技能介護の外国人を受け入れる利点といえるでしょう。
特定技能介護を導入する際の注意点
介護分野の特定技能で雇用した外国人は、その専門性を活かして身体介護や支援事業などに従事できますが、訪問サービスには対応できません。
また、就労してもらえる期間は最長5年と限りがあるため、長期的な人材活用という視点でも課題があるといえます。
さらに直接雇用のみが可能であり、派遣雇用はできない点にも注意が必要です。
なお、特定技能をはじめとした就労ビザを持つ外国人には転職の自由が認められており、採用した人材が転職してしまう可能性もあることを念頭に置いておきましょう。
特定技能介護は人手不足解消を目的とした在留資格
特定技能の介護は、介護業界の深刻な人手不足の解消を目的に創設された在留資格です。
在留資格の介護やEPAにおける介護福祉士候補者などと比較すると、外国人にとって介護分野の特定技能は取得をめざしやすく、今後も受け入れ事業所は増加すると予測できます。
ただし、介護分野の特定技能外国人を雇用するためには、受け入れる施設側でも労働条件や支援体制などの基準を満たさなければなりません。
適切な受け入れ体制を整えたうえで、特定技能制度を活用した人材獲得に取り組んでみてはいかがでしょうか。