日本で働く外国人労働者は年々増加しています。
企業が外国人を雇用する際には、日本人と同様に労働関係法令が適用されます。
しかし、入管法や雇用対策法など、外国人特有の法律についても理解が必要です。
本記事では、外国人の雇用に関わる法律について詳しく解説していきます。
外国人雇用を検討している企業の担当者や、現在外国人を雇用している企業の実務担当者は、ぜひ参考にしてください。
目次
外国人労働者の雇用時に適用される主な法律
外国人労働者を雇用する際に理解しておきたい法律は、外国人特有の法律とすべての労働者に適用される法律の2つに大別されます。
外国人労働者に適用される法律 | ● 出入国管理および難民認定法(入管法) ● 雇用対策法 |
すべての労働者に適用される法律 | ● 労働基準法 ● 健康保険法 ● 雇用保険法 ● 労働者災害補償保険法 ● 労働安全衛生法 ● 最低賃金法 |
ここでは、それぞれの法律の概要と、外国人雇用に際して特に注意すべきポイントについて解説します。
外国人労働者に適用される法律
外国人労働者の雇用では、入管法や雇用対策法など、外国人特有の法律が適用されます。
以下で、それぞれの法律の概要と注意点を詳しく見ていきましょう。
出入国管理および難民認定法(入管法)
出入国管理及び難民認定法(入管法)は、日本への入国や日本から出国するすべての人の出入国管理と、外国人の在留を公正に管理することを目的とした法律です。
一般的には入管法と呼ばれているため、以下では「入管法」と表記します。
入管法には29種類の在留資格が定められており、それぞれの在留資格によって、外国人が日本国内で行える活動の範囲が異なります。
在留資格は大きく分けて、就労に関する制約がない在留資格と、在留資格の範囲内で就労が可能な在留資格の2つに分類されます。
就労に関する制約がない在留資格には、以下のようなものがあります。
永住者
日本人の配偶者等
永住者の配偶者等
定住者
一方、在留資格の範囲内で就労が可能な在留資格には、以下のようなものがあります。
外交
公用
教授
芸術
宗教
報道
高度専門職
経営・管理
法律・会計業務
医療
研究
教育
技術・人文知識・国際業務
企業内転勤
介護
興行
技能
特定技能
技能実習
特定活動
就労が認められていない在留資格もあるので注意が必要です。
文化活動
短期滞在
留学
研修
家族滞在
雇用対策法
雇用対策法は、労働者の職業の安定や、経済・社会的地位の向上、経済・社会の発展、完全雇用の達成を目的とした法律です。
ここでいう完全雇用とは、労働の意思と能力のある人がすべて働いている状態を指します。
雇用対策法では、外国人を雇用した場合、雇用形態に関わらず、氏名や在留資格などを届け出ることが義務付けられており、企業が遵守すべき法令や、雇用管理の内容などについての指針が示されています。
具体的には、外国人労働者の雇用管理の改善や、再就職の促進に関する事項、外国人労働者の職業能力の開発・向上に関する事項などです。
外国人を雇用する企業は、これらの指針に基づいた労働条件の明示や適切な労働時間管理、安全衛生の確保など、細かな配慮が求められます。
また、外国人労働者のキャリア形成支援や、日本語教育の実施なども重要な取り組みです。
すべての労働者に適用される法律
外国人労働者を雇用する場合、入管法や雇用対策法以外にも、日本人労働者と同様に適用される法律があります。
ここでは、労働基準法や健康保険法など、外国人労働者にも適用される主要な法律について解説します。
これらの法律は、国籍に関わらず、日本国内で働くすべての労働者に適用されるものです。
労働基準法
労働基準法は、労働者の労働条件の最低基準を定めることで、労働者の保護を図ることを目的とした法律です。
主な内容として、例えば以下のような事項が定められています。
- 労働時間
- 休暇
- 賃金
- 割増賃金
- 就業規則
- 解雇
- 労働条件
労働基準法は、就業規則よりも効力を持ち、就業規則の内容が労働基準法の基準を下回る場合には、労働基準法の内容が優先して適用されることになります。
外国人労働者を雇用する際には、就業規則の内容が労働基準法の基準を満たしているかどうかの確認が必要です。
労働基準法にはd罰則規定が設けられており、「1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金」tなど、違反sした内容gごとに罰則が科せられます。
健康保険法
健康保険法は、労働者とその被扶養者を対象として、病気やケガなどに関する保険給付について定めた法律であり、健康保険制度の基盤となるものです。
条件を満たす場合、国籍問わず加入義務が発生します。
健康保険法の理解と遵守は、外国人労働者の健康管理や医療保障において重要な役割を果たします。
外国人労働者を雇用する際には、日本の健康保険制度について事前に説明を行い、加入の必要性を理解してもらうことが大切です。
また、健康保険証は医療機関の受診時に必要となるため、取得方法や使用方法についても丁寧に説明する必要があります。
雇用保険法
雇用保険法は、雇用保険制度について定めた法律です。
労働者の生活・雇用の安定と就職の促進、失業の防止や雇用状態の是正、雇用機会の増大、労働者の能力開発・向上、その他労働者の福祉の増進などを図ることを目的としています。
雇用保険は加入要件を満たしている場合には必ず加入が必要です。
被保険者となる要件は以下の2点です。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
- 同一の事業主に継続して31日以上雇用されることが見込まれること
外国人労働者も、これらの要件を満たせば、雇用保険の被保険者となります。
雇用保険への加入により、失業した際の失業給付や、再就職に向けた教育訓練給付などを受けることができます。
労働者災害補償保険法
労働者災害補償保険法は、労災保険について定めた法律です。
労働者の通勤時や労働時に発生した災害やケガなどに対して保護するための保険給付や、被災労働者とその遺族の援護を行うことで、労働者の福祉増進に寄与することを目的としています。
健康保険や雇用保険と同じく、労災保険への加入は義務付けられており、外国人労働者も加入対象です。
労災保険では、業務上の事由または通勤によりケガをした場合や病気になった場合に、必要な保険給付が行われます。
外国人労働者を雇用する際には、労災保険制度について説明を行い、万が一の際の補償について理解を得ておくことが大切です。
労働者災害補償保険法で定められている給付一覧は以下のとおりです。
休業(補償)等給付
障害(補償)等年金
障害(補償)等一時金
遺族(補償)等年金
遺族(補償)等一時金
葬祭料等(葬祭給付)
傷病(補償)等年金
介護(補償)等給付
二次健康診断等給付
労働安全衛生法
労働安全衛生法は、労働者の職場における安全と健康の確保、快適な職場環境の形成を目的とした法律です。
企業には、機械や危険物などによる危険や健康障害を防止するための措置を講じたり、業務を安全に行うための教育を実施したりすることが義務付けられています。
もし労働災害などが発生した場合は、厚生労働省からの改善計画の作成・提出が求められます。
外国人労働者を雇用する場合も、労働安全衛生法に基づいた適切な安全管理と健康管理が求められます。
特に、日本語能力が十分でない外国人労働者に対しては、安全教育や健康管理についての説明を、わかりやすい言葉で行うことが重要です。
また、外国人労働者の文化的背景や習慣も考慮しつつ、安全で快適な職場環境の整備に努めることが求められます。
最低賃金法
最低賃金法は、雇用主である企業が労働者に対して支払う賃金の最低額を定めた法律です。
最低賃金を保証することで、労働条件の改善や労働者の生活の質の安定を図り、結果として労働者を守ることにつながります。
最低賃金の対象となるのは基本給や諸手当であり、残業代やボーナスなどは対象外です。
最低賃金には、地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金の2種類があります。
地域別最低賃金は、業種や国籍を問わず、正社員以外のパート・アルバイトといったすべての労働者に適用される、都道府県ごとに決められている最低賃金です。
一方、特定(産業別)最低賃金は、特定の産業を対象とした最低賃金のことです。
産業内の労使が、地域の最低賃金を超える高い水準の最低賃金を設定する必要があると判断した際に、それに応じた最低賃金が設けられます。
外国人労働者を雇用する際には、適用される最低賃金を確認し、それ以上の賃金を支払わなければなりません。
最低賃金を下回る賃金を設定した場合は労働基準法違反となり、罰則の対象となります。
外国人労働者に日本の労働法が適用される理由
日本には「法の適用に関する通則法」があり、契約当事者は契約時にどの国の法律を適用するか選択できます。
日本企業は通常、雇用契約の準拠法を日本法としており、労働基準法などの労働関係法令は、労働者の国籍に関わらずすべての労働者に適用されます。
労働基準法には、国籍による差別的取扱いの禁止も定められており、日本国内で働く外国人労働者は、日本の労働関係法令の適用を受けます。
これにより、外国人労働者の労働条件や安全衛生などについて、一定の水準が保証されます。
外国人労働者を雇用する企業は、日本の労働関係法令を理解し、遵守することが求められます。
また、外国人労働者に対して、日本の労働関係法令について丁寧に説明し、理解を得ることも重要です。
外国人労働者に適用される法律の課題
労働基準法には、労働者の国籍による差別的取扱いを禁止する規定がありますが、外国人労働者特有の法律上の課題も存在します。
ここでは、外国人労働者の雇用において想定される法律上の課題について、具体的な事例を交えて解説します。
在留期間や契約期間による課題
外国人労働者は、在留資格制度により在留期間が決められています。
労働契約の満了後も反復して契約更新を行っていたものの、在留期間が迫っているために雇い止め(更新拒絶)をすることになり、労働者とのトラブルに発展する恐れがあります。
過去に同契約の更新をした実績があり、実質的な期間の定めがないものと同視されるに至った場合や、契約更新につき当事者に合理的期待が認められた場合は、「解雇権濫用法理」が認められ、合理的な理由のない雇い止めが無効となるケースがあります。
しかし、外国人労働者には在留期間が決まっているため、仮に契約が更新されたとしても、そのあとの滞在が保証されていないことから、同様の扱いとなるかが問題とされています。
雇い止めに関するトラブルを防止するには、労働基準法14条2項に基づく指針が示されているため、労働者への周知を行うとともに、企業として労働契約の見直しが重要です。
外国人労働者の言語能力による課題
労働契約法により、企業は労働者の生命・身体を危険から保護するよう配慮すべき義務があります。
また、安全に業務を行えるよう、労働者を教育しなければなりません。
外国人労働者雇用における注意点として、例えば、言語能力が十分でないにも関わらず、日本語で安全教育を行った場合、教育が不十分だと判断され、安全配慮義務に違反していると判断される恐れがあります。
過去には、外国人労働者が硝酸を用いる作業を行ったため硝酸中毒となったケースがありました。
労働者への硝酸の危険性を指導する義務があったにも関わらず、日本語での説明のみであったため、安全配慮義務違反を認めたという裁判例です。
外国人労働者の言語能力は個人によってさまざまであるため、企業として教育の基準を定めることが難しいという課題があります。
外国人労働者への日本語能力の育成を促進することや、職場の安全教育を行う場合は労働者の理解できる言語で行うなどの対応が必要です。
外国人労働者雇用時は入管法や雇用対策法などの法律を把握しておこう
外国人労働者に適用される法律は、基本的に日本人労働者と変わりません。
労働基準法や最低賃金法、労働安全衛生法など、労働者を保護するための法律は、国籍に関わらずすべての労働者に適用されます。
一方で、外国人労働者特有の法律として、入管法や雇用対策法などがあります。
特に入管法については、不法就労させることで企業側も不法就労助長罪に問われる可能性があるため、外国人労働者の在留資格の確認を怠らないようにしましょう。