近年、日本の農業分野では深刻な人手不足が問題となっており、その解消策として外国人労働者の活用が注目を集めています。
農業分野で外国人労働者を採用することは、単なる労働力の確保にとどまらず、国際化や多様性の促進にもつながるでしょう。
本記事では、農業分野における外国人労働者の状況や特徴、採用方法、メリットなどについて説明します。
目次
農業で働く外国人労働者の数
農業分野で働く外国人労働者の数は年々増加しています。
2017年には約2万7,000人でしたが、2022年には4万3,000人を超え、この5年間で約1.6倍増えました。
また、国籍別ではベトナム人が最も多く、全体の4割近くを占めています。
受け入れ可能な外国人と受け入れまでの手順
農業分野で外国人材を受け入れる際、在留資格によって受け入れ可能な業務や手順が異なります。
ここでは、主要な在留資格である「技能実習」と「特定技能」について、それぞれの概要と受入れ方法を解説します。
技能実習
まずは、技能実習の仕組みと対象業務、受け入れの流れを見ていきましょう。
技能実習とは
技能実習制度は、開発途上地域への技能移転を通じた国際協力を目的としています。
外国人材を日本の農業現場で受け入れ、日本の知識や技術を学んでもらうことで、母国の発展に貢献できる人材を育成するのが狙いです。
技能実習の在留期間は原則3年ですが、監理団体・実習実施者の両者が要件を満たすことにより、2年間の期間延長が可能です。
受け入れ可能な業務
技能実習制度では、農業分野において2職種6作業が対象となっています。
耕種農業のうち、以下の3作業 | 畜産農業のうち、以下の3作業 |
● 施設園芸 ● 畑作・野菜 ● 果樹 |
● 養豚 ● 養鶏 ● 酪農 |
受け入れ手順
技能実習生の受入れには、企業単独型と団体監理型の2つの方式があります。
企業単独型は日本企業が海外の取引先などから直接受け入れる方式ですが、2021年末時点で98.6%が団体監理型であり、農業分野も団体監理型による受け入れが基本です。
団体監理型では、まず監理団体に受け入れを申し込みます。
次に、実習実施者である農業経営体が技能実習計画を策定し、外国人技能実習機構の認定を受けます。
認定後、在留資格認定証明書の交付申請を行い、ビザ取得を経て、実習生を受け入れる、という流れです。
特定技能
農業分野では、特定技能による外国人材の受け入れも可能です。
特定技能について詳しく解説します。
特定技能とは
特定技能とは、深刻化する国内の人手不足を解消するために創設された、外国人材の受け入れ制度です。
一定の専門性・技能を有する18歳以上の外国人を、幅広い業種で即戦力として活躍してもらうことを目的としています。
特定技能には「特定技能1号」と「特定技能2号」の2種類があります。
- 特定技能1号:特定産業分野において相当程度の知識または経験を要する技能を持つ外国人が対象。在留期間は通算5年が上限。
- 特定技能2号:特定の分野において熟練した技能を持つ外国人が対象。3年、1年または6ヵ月ごとに更新。
受け入れ可能な業務
特定技能では、耕種農業と畜産農業の幅広い作業に従事することが可能です。
耕種農業については施設園芸、畑作・野菜、果樹といった全般的な作業が対象となります。
ただし、単に収穫作業だけでなく、栽培管理業務を含むことが条件となっています。
一方、畜産農業では養豚、養鶏、酪農全般の作業に加え、飼養管理の業務に従事することが必須です。
特定技能2号では、これらに加えて、従業員の指導や工程管理といった、上位の管理業務も行うことができます。
また、日本人が通常従事している関連業務、例えば農畜産物の加工、運搬、販売、除雪作業なども付随的に行えます。
特定技能制度によって、熟練度の高い外国人材に、より広範な農業現場で活躍してもらえるようになったといえるでしょう。
受け入れ手順
1.事前ガイダンス | 労働条件、日本での活動内容などを対面もしくはテレビ電話などで実施 |
2.出入国の際の送迎 | 空港から受け入れ企業間の送迎 |
3.住居確保・生活に必要な契約の支援 | 住宅探しの案内・手続きの補助や社宅の提供、ライフライン契約の案内など |
4.生活オリエンテーション | 日本の社会生活を円滑に送ることができるように、日本の交通ルールやマナーなどについて説明 |
5.公的手続き等への同行 | 転出入や社会保障などの手続きへの同行・補助 |
6.日本語学習の機会の提供 | 日本語教室の紹介や手続きの補助 |
7.相談・苦情への対応 | 外国人から相談があった際に、理解できる言語で対応 |
8.日本人との交流促進 | 地域住民が主催する交流会などの案内や入会の補助 |
9.転職支援 | 解雇となった場合の転職先の情報提供や推薦状の作成、必要な行政手続きの情報提供 |
10.定期的な面談 | 3ヵ月に1回以上の面談を実施 |
農業経営体が特定技能の外国人材を受け入れる際は、以下の1~5の手順を踏む必要があります。
- 人材募集・面接
職業紹介事業者や登録支援機関などを通じて、外国人材の募集・選定を行います。求人条件や労働環境を正確に伝え、対象者の技能と人物を見極めることが重要です。 - 雇用契約の締結
受け入れ機関と外国人材の間で、雇用条件を明記した雇用契約を結びます。
報酬額は日本人と同等以上、機関負担の費用、離職時の取扱いなど、法律に則った内容とする必要があります。 - 支援計画の策定
特定技能では、外国人材に対する各種支援が義務付けられています。
生活オリエンテーション、住居確保、生活に必要な契約締結などのサポート、相談・苦情への対応など、法律で定められた支援内容を盛り込んだ計画を策定します。 - 在留資格の申請
所定の申請書と資料を整え、外国人材の在留資格認定証明書交付申請を、地方出入国在留管理局に行います。
あわせて、雇用契約書や支援計画書なども提出します。 - 就業開始
認定証明書の交付を受けて、外国人材が入国します。
入国後、出入国在留管理庁で在留カードの交付を受け、職場での就業がスタートとなります。
就業後も、日本語学習など、支援計画に沿った継続的なサポートが必要です。
農業における外国人を雇用することのメリット
農業分野で外国人材を雇用することには、さまざまなメリットがあります。
異文化交流による職場の活性化、海外展開の足がかり、人手不足の解消といった3つの観点から、外国人雇用のメリットを詳しく見ていきましょう。
職場に新しい刺激を与えられる
外国人材を受け入れることで、職場に新しい風が吹き込まれます。
日本人従業員にとっては、普段触れることのない異国の文化や習慣に触れる良い機会となるでしょう。
外国人材との会話や協働を通じて、これまでにはなかった新しい視点や発想を得られる可能性があります。
例えば、農作業の工程について、外国人材の母国では別の方法が取られているかもしれません。
そうした情報を共有し合うことで、従来の業務の進め方を見直すきっかけになるでしょう。
また、職場内のコミュニケーションが活発になることで、チームワークの向上や、モチベーションの向上にもつながります。
外国人材を受け入れることは、職場に新しい刺激を与え、組織の活性化を促す効果が期待できるのです。
海外進出への足がかりになる
外国人材の受け入れは、将来的な海外展開を視野に入れた際の、重要な足がかりとなります。
外国人材が持つ母国の文化や商習慣への理解は、海外マーケットを開拓する上で大きな助けになるでしょう。
日本の農業技術を学びに来た外国人材が、帰国後に自国での農業の発展に尽力することも十分に考えられ、日本の農業資材や機械の輸出など、ビジネスチャンスにつながる可能性もあります。
外国人材とのつながりを通じて、将来の海外展開に向けたネットワーク作りができるかもしれません。
また、外国人材を通して、海外の先進的な農業技術を学ぶことができれば、日本の農業の発展にも役立ち、海外の優れた品種や栽培方法、鮮度保持技術などを取り入れることで、国内での競争力強化にも期待できます。
外国人材の受け入れは、グローバルな視点を養い、海外展開への第一歩を踏み出す良いきっかけとなり得るでしょう。
人手不足の解消につながる
日本の農業分野では、高齢化と後継者不足により、深刻な労働力不足が続いています。
2020年農林業センサスによると、農業就業人口は約136万人と、2015年から比べて約22%減少しました。
また、65歳以上の割合は69.6%を占めており、農業者の高齢化も深刻な課題となっています。
こうした状況のなかで、外国人材の活用は人手不足を補う有効な手段として注目されているのです。
技能実習生や特定技能外国人の受け入れが拡大することで、不足する労働力を確保することが可能になります。
また、外国人の視点から日本の農業の働き方を見直すことで、業務の効率化や省力化につなげることもできるかもしれません。
農業において外国人を雇用する際の注意点
農業分野で外国人材を雇用する際には、適切な受け入れ体制の整備と、異文化コミュニケーションへの配慮が欠かせません。
ここでは、在留資格の確認、生活面でのサポート、文化や価値観の相互理解といった3つの観点から、外国人雇用の際に注意すべきポイントを見ていきましょう。
日本で就労できる在留資格を持っているか
外国人を雇用する際に最も重要なのは、その外国人が日本で就労可能な在留資格を持っているかどうかの確認です。
技能実習や特定技能など、在留資格には種類があり、認められる活動内容が決まっています。
在留カードで在留資格や在留期間を必ず確かめ、資格外活動を行わせることのないようにしましょう。
また、在留期間の更新などの手続きを適切に行うことも大切です。
不法就労は処罰の対象となる可能性があり、企業経営に大きなダメージを与えかねません。
外国人を受け入れる農業経営体には、在留管理の知識と、法令を順守する姿勢が強く求められます。
加えて、外国人材の募集や選定の際には、日本の労働関連法規を理解し、適正な労働条件を提示することも重要です。
在留資格の確認は、トラブルを未然に防ぐための第一歩といえるでしょう。
日本で働くためのサポートが必要
外国人材が日本で働き生活していくうえでは、言葉の壁や生活習慣の違いなど、さまざまな困難がともないます。
雇用主である農業経営体には、外国人材の日本での生活をサポートする責任があります。
まずは、住居の確保や生活必需品の準備など、生活基盤を整えるための支援が欠かせません。
来日直後の外国人材に、日本での生活ルールやマナーを丁寧に教えることも大切です。
金融機関の口座開設、携帯電話の契約、公的手続きなど、生活に必要な諸手続きのサポートも必要です。
日常的なコミュニケーションでは、ゆっくりとわかりやすい言葉で話すことを心がけましょう。
また、外国人材の孤独感や不安を和らげるために、積極的に声をかけ、相談に乗ることも重要です。
職場での良好な人間関係は、仕事のパフォーマンスにも直結し、生活面から精神面まで丁寧にサポートすることが、外国人材の定着と活躍につながります。
お互いの文化や価値観を理解する
外国人材との協働を成功させるためには、お互いの文化や価値観を理解し合う姿勢が欠かせません。
言葉だけでなく、宗教や習慣、考え方の違いから、ミスコミュニケーションが生じることがあります。
そうしたすれ違いを放置すれば、トラブルに発展しかねません。
大切なのは、自国文化の常識や価値観を相手に押し付けないこと。
「これが当たり前」といった先入観を持たず、違いを認め合い、尊重する姿勢を持つことが求められます。
例えば、食事の際の作法やタブー、休暇の取り方なども、国によって大きく異なります。
そうした違いを否定するのではなく、互いに説明し合い、理解を深めていくことが大切です。
農作業の方法についても、その国なりのやり方があるはずです。
外国人材の意見を謙虚に聞き、話し合いながら、より良い方法を模索していくことが重要といえます。
互いを対等なパートナーとして認め合うことや、多様性を受け入れる柔軟さを持つことが、外国人材との信頼関係の構築につながるでしょう。
農業の人手不足には外国人労働者の活用を検討しよう
農業の人手不足に対応するため、技能実習制度や特定技能制度を活用した外国人労働者の受け入れが有効です。
即戦力となる熟練労働者を受け入れることで、組織活性化や将来の海外展開の足がかりとなります。
ただし、外国人雇用には在留資格の確認や生活支援、文化の違いへの理解と尊重が必要です。
法律や異文化コミュニケーションの考え方などをきちんと理解したうえで、外国人材の積極的な受け入れを検討し、日本における農業分野の課題を解消していきましょう。