近年、介護現場における人材確保の課題が深刻化するなかで、EPA(経済連携協定)に基づく外国人介護福祉士候補者の受入れが注目を集めています。
2008年のインドネシアを皮切りに、EPA介護福祉士候補者の受入れは、年々その規模を拡大しているのが現状です。
2023年度の介護福祉士国家試験では、前年度と比較して合格率が大幅に上昇するなど、制度としての成熟も見られます。
しかし、EPA介護福祉士候補者の受入れには、施設側の十分な理解と準備が不可欠です。
本記事では、EPA介護福祉士候補者制度の概要から、受入れ施設の要件、さらには効果的なサポート方法まで詳しく解説していきます。
目次
EPA介護福祉士候補者とは
EPA介護福祉士候補者制度は、日本と経済連携協定を結ぶアジア諸国との人材交流の一環として実施されているものです。
この制度を通じて、外国人材は日本の介護現場で経験を積みながら、介護福祉士の国家資格取得をめざせます。
以下では、制度の詳細と対象となる国々について説明していきます。
EPAに基づいた介護福祉士資格取得をめざす外国人
EPA介護福祉士候補者は、日本の介護施設で働きながら介護福祉士の国家資格取得をめざす外国人材です。
この制度は単なる人材確保策ではなく、日本と相手国との経済的な結びつきの強化を主な目的としています。
インドネシア、フィリピン、ベトナムの3ヵ国が対象となっており、各国との協定に基づいて候補者の受入れが行われているのが現状です。
候補者は来日後、各施設での実務経験を積みながら、介護の専門知識や技術を習得していきます。
EPAとは経済連携協定のこと
EPAは「Economic Partnership Agreement(経済連携協定)」の略称です。
これは、WTO(世界貿易機関)を中心とした多国間の貿易自由化を補完する目的で締結される協定です。
特定の国や地域との間で、関税などの貿易障壁を取り除き、モノ・ヒト・カネ・サービスの円滑な移動を促進することをめざしています。
介護分野における人材の交流も、このEPAの重要な要素の一つとなっています。
EPA介護福祉士候補者の条件
EPA介護福祉士候補者として来日するためには、国ごとに定められた厳格な条件をクリアする必要があります。
特に、来日前の日本語研修や資格要件は必須となっています。
インドネシア・フィリピン
インドネシアとフィリピンからの候補者には、以下のような条件が設定されています。
- 看護学校または大学の看護学部を卒業していること
- 自国の看護師資格を保有していること
- 実務経験が2年以上あること(フィリピンの場合)
- 訪日前日本語研修(6ヵ月)を修了すること
- 日本語能力試験N5程度の日本語力を有すること
これらの条件は、来日後の円滑な研修と学習を確保するために設定されています。
ベトナム
ベトナムからの候補者には、他の2ヵ国とは異なる独自の条件が設けられています。
- 看護短期大学または看護学校を卒業していること
- 訪日前日本語研修(12ヵ月)を修了すること
- 日本語能力試験N3以上を取得していること
- ベトナム政府による候補者試験に合格すること
特に日本語要件が厳格に設定されており、より高度な日本語能力が求められます。
EPA介護福祉士候補者の受入れ施設
EPA介護福祉士候補者を受入れることができる施設には、一定の基準が設けられています。
以下が主な受入れ可能施設です。
- 特別養護老人ホーム
- 介護老人保健施設
- 介護療養型医療施設
- 介護医療院
- 認知症グループホーム
- 有料老人ホーム
- サービス付き高齢者向け住宅
これらの施設で必要な実務経験を積んだあと、介護福祉士国家試験に合格することで正式な資格を取得できます。
EPA介護福祉士候補者の合格率
2023年実施の第35回介護福祉士国家試験では、EPA候補者の合格率が大きく向上しました。
全体の受験者79,151名のうち66,711名が合格し、EPA介護福祉士候補者については1,153名が受験して754名が合格を果たしたのです。
合格率は前年度の36.9%から65.4%へと、飛躍的な向上を見せています。
【EPA候補者の介護福祉士国家試験 合格率比較】
第34回介護福祉士国家試験 | 第35回介護福祉士国家試験 | |
全体 | 36.9% | 65.4% |
インドネシア人 | 27.2% | 63.8% |
フィリピン人 | 25.3% | 54.7% |
ベトナム人 | 83.9% | 96.1% |
EPA介護福祉士候補者は試験で特例がある
EPA介護福祉士候補者には、その特殊性を考慮して国家試験において一定の配慮措置が設けられています。
これらの特例は、日本語を母語としない候補者が公平に試験に臨めるよう工夫されたものです。
筆記試験の時間(220分)が1.5倍に延長される
EPA介護福祉士候補者には、筆記試験において通常の1.5倍となる330分の試験時間が与えられます。
これは、日本語での読解に時間を要することを考慮した措置です。
ただし、試験の内容や合格基準は日本人受験者とまったく同じであり、介護福祉士として必要な知識や技術の水準は維持されています。
この時間延長により、候補者は問題文をじっくりと読み解き、適切な回答を導き出しやすくなるでしょう。
漢字にふりがなが付記された問題用紙で筆記試験を実施
EPA介護福祉士候補者向けの試験問題では、漢字にふりがなが振られているほか、疾病名や専門用語には英語表記も併記されています。
これらの配慮は、言語面でのハンデを補うためのものですが、試験の本質的な難しさを軽減するものではありません。
そのため、合格のためには継続的な学習と努力が不可欠であり、特例があることで資格取得が容易であるわけではないことを理解する必要があります。
EPA介護福祉候補者に対して施設側ができること
EPA介護福祉士候補者の受入れを成功させるためには、施設側の適切なサポート体制の構築が不可欠です。
以下では、効果的なサポート方法について具体的に解説していきます。
部署間・スタッフ間での役割分担
EPA介護福祉士候補者への支援は、施設全体で取り組むべき重要な課題です。
通常の業務に加えて、候補者の学習支援や生活サポートなど、さまざまなサポートが求められます。
これらの負担を特定のスタッフに集中させることは避け、部署やスタッフ間で適切に分担することが重要です。
具体的には、実務指導担当、学習支援担当、生活支援担当などの役割を明確に定め、組織的なサポート体制を構築することが推奨されます。
異文化への理解促進
外国人材の受入れにあたっては、文化的な違いへの理解と配慮が欠かせません。
施設内では、候補者の受入れ前に異文化理解のための研修会を実施したり、関連資料を配布したりするなどの取り組みが効果的です。
また、利用者やその家族に対しても、EPA介護福祉士候補者の受入れについて丁寧な説明を行い、理解を得ることが重要です。
コミュニケーションを円滑にする工夫
言語の違いによるコミュニケーションの課題は、最も配慮が必要な点の一つです。
基本的には簡潔な日本語を使用し、必要に応じて英語などの共通言語を活用することで、意思疎通を図ります。
また、業務上頻繁に使用する用語や表現については、多言語対応の用語集を作成するなど、実践的なツールの整備も有効です。
EPA介護福祉士候補者を理解して受入れよう
EPA介護福祉士候補者の受入れは、施設にとって新たな可能性を開く重要な取り組みです。
制度の本質を理解し、適切な受入れ体制を整えることで、候補者の成長を支援しながら、施設全体のサービス品質を向上させることにもつながります。
また、異文化交流を通じて職場環境が活性化され、より豊かな介護サービスの提供が期待できます。
今後も増加が見込まれるEPA介護福祉士候補者の受入れに、積極的に取り組んでいきましょう。