近年、日本の航空業界では深刻な人手不足が問題視されています。
少子高齢化にともなう生産人口の減少により、若手人材の確保は今後一層難しくなっていくでしょう。
こうした状況下で注目を浴びているのが、航空業界をはじめとした特定産業分野で専門スキルを持った外国人材を受け入れるための特定技能制度です。
本記事では、特定技能制度における航空分野の概要や主な業務内容、受け入れ企業となるための条件などを解説します。
目次
特定技能「航空」とは
特定技能「航空」は、外国人材が日本の航空業界で働くことを認める在留資格の一つです。
深刻化する航空分野の人手不足を解消するべく、一定の専門知識や技能を持つ外国人材の受け入れを目的として導入されました。
特定技能「航空」の概要
特定技能における航空分野は、外国人材が日本の航空業界で就労するための在留資格です。
特定技能制度では、原則として派遣契約が認められておらず、正社員としての直接雇用やフルタイムでの雇用が求められます。
出入国在留管理庁が公表した「特定技能在留外国人数」によると、2023年12月時点で航空分野の特定技能1号外国人の受け入れ人数は632人でした。
国籍別に見ると、フィリピンの方が413人と総数の大半を占めています。
特定技能「航空」の背景
近年の航空分野では、労働人口の減少にともなう人手不足が喫緊の課題とされています。
コロナ禍が明けたことで航空需要は回復傾向にあるのに対し、航空業界のパイロットや整備士は高齢化が進み、離職者の発生が続いているのが実情です。
また、採用数を増やしたくとも、人材の養成には数年単位の期間を要します。
運航の安全性を保つため、航空業に携わる人材は適切なライセンスを取得し、十分な教育訓練を受けていなければなりません。
しかし、航空専門学校の入学者数は減少しつつあり、若手人材の確保は今後さらに難しくなることが予想されます。
特定技能「航空」の必要性
航空業界の人手不足を解消するためには、一定の専門知識とスキルを持った外国人材の受け入れが有効です。
国土交通省によれば、外国人旅行者数の増加と航空需要の拡大にともない、空港グランドハンドリングの人手不足が顕著になると見込まれています。
生産性向上のため、グランドスタッフの業務効率化や労働条件の改善が図られてきましたが、人手不足の解消には至っていません。
こうしたなか、空港内で求められる業務を理解し、特殊な機材や工具を用いて作業ができる特定技能外国人は、即戦力として期待できるでしょう。
特定技能「航空」の業務内容
航空分野の特定技能外国人が従事できる業務は、空港グランドハンドリングもしくは航空機整備の大きく2種類に分けられます。
いずれも、航空機の安全な運航と快適な旅客サービスを提供するうえで欠かせない業務です。
空港グランドハンドリング
空港グランドハンドリングとは、航空機が地上に到着してから出発するまでのあいだ、地上で行われる支援業務のことです。
乗客がチェックインの手続きや手荷物の預け入れを行ってから、その手荷物・貨物を仕分けて航空機へ移送し、搭載するまでの一連の作業などを担います。
また、客室内の清掃や機体の洗浄といった航空機内外の清掃整備業務も、空港グランドハンドリングの一部です。
航空機整備
整備業務は、空港に到着した航空機が次のフライトで使用されるまでのあいだに行う運航整備、機体をくまなく点検する機体整備、そして装備品や原動機の整備に分けられます。
運航整備の場合、機体やタイヤの点検、燃料補給などが主な業務内容となりますが、機体整備はこれらの点検により時間をかけて、機体の細部までチェックするのが特徴です。
装備品・原動機整備では、機体から取り外したパーツやエンジンの整備を行います。
特定技能「航空」の取得方法
外国人材が航空分野の特定技能を取得するルートは、2つあります。
通常は試験への合格が求められますが、技能実習生の外国人材なら特定技能1号へ移行するという選択も可能です。
試験に合格する
特定技能「航空」を取得するためには、目指す分野に応じて、以下の試験に合格しなければなりません。
- 特定技能1号を取得する場合
空港グランドハンドリング分野 | ● 航空分野特定技能1号評価試験(空港グランドハンドリング) ● 国際交流基金日本語基礎テスト又は日本語能力試験(N4以上) |
航空機整備 | ● 航空分野特定技能1号評価試験(航空機整備) ● 国際交流基金日本語基礎テスト又は日本語能力試験(N4以上) |
- 特定技能2号を取得する場合
空港グランドハンドリング分野 | ● 航空分野特定技能2号評価試験(空港グランドハンドリング)
※空港グランドハンドリング現場における技能者の指導及び実務経験が要件となる |
航空機整備 | ● 航空分野特定技能2号評価試験(航空機整備)又は航空従事者技能証明
※航空整備現場における専門的な知識・技量が必要な作業を実施した3年以上の実務経験が要件となる |
日本語能力を評価するための試験は、特定技能1号のみ受験が必要であり、特定技能2号の認定要件にはなっていません。
また、特定技能2号では、空港グランドハンドリング、航空機整備ともに実務経験が試験の要件となります。
技能実習2号を良好に修了する
技能実習2号を良好に修了していて、取得したい特定技能1号の職種と業務内容が一致している場合、技能実習から特定技能への移行が可能です。
技能実習2号を良好に修了していれば、航空分野特定技能評価試験と日本語試験が免除され、在留資格変更許可申請を行うことで特定技能1号を取得できます。
ただし、技能実習1号の場合には、技能実習2号を修了するか、上述した試験への合格が必要となるため注意しましょう。
特定技能「航空」の受け入れ企業となる条件
航空分野の特定技能外国人材が日本で就労するとき、受け入れ企業側も一定の条件を満たす必要があります。
- 法令に基づく事業所であること
- 航空分野特定技能協議会に加入し協力すること
- 支援体制を整えること
順に詳しく見てみましょう。
法令に基づく事業所である
特定技能外国人を航空分野で受け入れるには、法令に基づき適切な承認を受けた事業者でなければいけません。
例えば、空港グランドハンドリングの場合、空港管理規則に定められた構内営業承認を受けた企業であることが条件です。
一方、航空機整備の場合には、航空法に則り、航空機整備などに関係する認定事業場を所有していることが求められます。
航空分野特定技能協議会に加入し協力する
航空分野で特定技能外国人を受け入れる企業は、国土交通省が運営元である航空分野特定技能協議会に加入し、必要な協力を行うよう義務付けられています。
特定技能外国人が来日してから4ヵ月以内に同協議会に加入しなかった場合、受け入れ企業として認められなくなる恐れがあるため注意が必要です。
必要書類を郵送もしくは電子メールにて提出すれば加入手続きは完結し、加入費や年会費は発生しません。
特定技能外国人の受け入れに関する相談にも乗ってもらえるため、早めに手続きを済ませるようにしましょう。
支援体制を整える
特定技能外国人の受け入れ企業は、業務に関する支援だけでなく、外国人本人が円滑に日常生活を送るためのサポートも提供しなければなりません。
文化や言語の異なる環境で過ごしてきた外国人にとって、日本での意思疎通の難しさ、住居・ライフラインの確保、地域住民との関わり方など戸惑う場面は多くあります。
特定技能外国人が、自身のスキルを最大限活かしながら就労するためにも、業務上・生活上の支援は必須といえるでしょう。
省令で定められている支援内容のうち、義務的支援には事前ガイダンスや生活オリエンテーションの実施、出入国時の送迎などの10項目があります。
これらの支援を受け入れ企業で実施できない場合、登録支援機関への委託が必要です。
特定技能「航空」の必要性や業務内容を知って参考にしよう
航空分野の特定技能は、労働人口の減少にともなう航空業の人手不足解消を目的として設置された在留資格です。
一定のスキルを持った外国人材を受け入れることで、空港グランドハンドリングや航空機整備業務において即戦力を確保できます。
特定技能の取得にあたっては、外国人材側で試験合格などの要件を満たさなければなりません。
それと同時に受け入れ企業側にも、法令に基づく事業所であること、航空分野特定技能協議会への加入、支援体制の整備といった要件が設けられています。
航空分野の特定技能制度を正しく理解したうえで、人材獲得のための足がかりとしてみてはいかがでしょうか。