外国人の不法就労者を雇用していることが判明し、その従業員が労災に遭った場合、どのように対応すべきか悩む経営者も多いのではないでしょうか。
労災保険の適用範囲や、不法就労者への対応について正しい知識を持つことは、企業経営において非常に重要です。
本記事では、不法就労者への労災保険の適用可否や、労災発生時の適切な対応方法について詳しく解説していきます。
目次
不法就労者に労災保険は適用されるのか
不法就労者に労災が発生した場合、労災保険は適用されるのでしょうか。
結論からいえば、基本的に不法就労者であっても労災保険は適用されます。
しかし、就労の不法・適法に関わらず、労災保険が適用されない場合もあります。
詳しく見ていきましょう。
労災保険は適用される
不法就労者であっても、労災保険は適用されるというのが基本的な考え方です。
その理由は、労働基準法における「労働者」の定義にあります。
労働基準法では、「労働者」を国籍やその就労における不法・適法などで区分していません。
厚生労働省の労災保険における労働者の定義は、「職業の種類を問わず、事業に使用される者で、賃金を支払われる者」とされています。
つまり、雇用形態(パートタイマー、アルバイト、日雇い)に関わらず、労働者であれば労災保険への加入が義務付けられており、労災発生時には給付の対象となるのです。
このため、不法就労者も同じ「労働者」として扱われ、労災保険が適用されることになります。
適用されない場合もある
ただし、不法就労であるかどうかに関わらず、労災が認定されない場合もあります。
労災の認定は労働基準監督署によって行われますが、以下の2つの要件が満たされない場合は労災として認められません。
- 業務起因性:業務が原因であると関連付けられること
- 業務遂行性:労働契約に基づいて雇用主の管理下にある状態であること
例えば、業務中に発生した自然災害による怪我や、従業員が故意に発生させた災害は、これらの要件を満たさないため労災として認められません。
不法就労者の場合も同様に、これらの要件を満たさない場合は労災保険の適用外となります。
【ケース別】不法就労者に労災保険が適用されるか
不法就労者への労災保険の適用について、具体的なケースごとに見ていきましょう。
状況によって適用の可否や対応が異なる場合があるため、それぞれのケースを理解しておくことが重要です。
出勤や退勤時の怪我などの場合
労働災害には、業務中に発生する「業務災害」と、出退勤中に発生する「通勤災害」があります。
どちらも労災保険の補償の対象となりますが、通勤災害には特定の条件があります。
通勤災害は、「住居」と「勤務場所」の往復中に発生した災害です。
ただし、労災保険法における「通勤」の要件を満たしていることが前提となります。
「通勤」が合理的な経路と方法により行われている必要があり、帰宅途中に寄り道をした場合などには、経路上で災害に遭ったとしても「通勤災害」とは認められません。
不法就労者の「通勤災害」に関しても、通常の労働者と同様に労災保険が適用されます。
そのため、経営者は不法就労者に対しても「通勤災害」に労災保険が適用される条件などを事前に案内しておく必要があります。
軽い打撲などの怪我の場合
軽い打撲など、一見軽傷と思われる怪我でも、労災保険が適用される場合があります。
労災認定の可否について怪我の程度は問われませんが、業務上の事由であることを明確にすることが必要です。
労災による怪我の治療の際には、健康保険証が使えないという点にも注意しなくてはなりません。
労災保険と健康保険はそれぞれ別の制度だからです。
労災による怪我などの治療では、労災病院または労災保険指定医療機関を受診するよう促すことで、従業員の自己負担分をなくすことができます。
業務による怪我で入院が必要な場合
労災による怪我などの治療のために、必要な入院費は給付の対象となります。
ただし、個室を希望した際の費用や差額ベッド代などは自己負担となるため、注意が必要です。
労災指定医療機関以外で治療を受ける場合には、一度被災労働者が治療費、入院費の10割を負担しなくてはなりません。
後日、労働基準監督署に還付手続きを行うことで、支払った治療費の還付を受けることが可能です。
労災保険による補償が不十分であるときには、会社に慰謝料などを請求できる場合があります。
災害が起きた原因に関して会社に落ち度があると認められると、従業員への損害賠償の対応が求められることもあるのです。
不法就労者に労災が発生した場合の対応
不法就労者に労災が発生した場合、基本的には通常の労働者と同じ対応をとる必要があります。
以下に具体的な手順を示します。
- 労災発生時の現場対応、状況把握、原因調査、労災指定病院への案内
- 労災保険給付手続き
- 労働基準監督署への報告と調査
- 労働基準監督署への労働者死傷病報告の届出
- 再発防止策の策定
労災によって休業する場合、1〜3日目の休業補償は労災保険から給付されません。
そのため、事業主は労働基準法で定める平均賃金の6割を補償する必要があります。
不法就労者であっても、これらの対応を確実に行うことが求められます。
労災隠しは違法行為となるため、絶対に避けなければなりません。
労災保険は不法就労でも適用される
労災保険は、原則として不法就労者にも適用されます。
雇用形態や国籍に関わらず、すべての労働者が対象となるためです。
ただし、業務起因性と業務遂行性が認められない場合は、適用外となる可能性があります。
不法就労者に労災が発生した場合、雇用主には通常の労働者と同様の対応が求められます。
労災隠しは違法行為であり、適切な対応を取ることが重要です。
状況把握、労災保険給付手続き、労働基準監督署への報告など、必要な措置を確実に実施しましょう。
適切な対応により、従業員の安全を守り、企業としての責任を果たすことができます。
外国人採用に不安な点がある場合は、専門家に相談することをおすすめします。