日本の外国人労働者数は、ここ数年で大幅に増えています。
その背景には、少子高齢化による企業の人手不足が考えられ、製造業や飲食サービス業、小売業などさまざまな分野で人材の確保に悩まされている状態です。
こうした状況下で、外国人労働者は若手人材としての労働力や即戦力を期待されている、重要な存在といえるでしょう。
この記事では、外国人労働者の推移や国別の割合、今後の見通しなどを解説します。
人手不足にお悩みの事業主や人事担当者の方は、外国人材採用を考える際のヒントにしてみてください。
目次
外国人労働者数の推移と現状
出典元:「外国人雇用状況」の届出状況まとめ【本文】 (令和5年 10 月末時点)
厚生労働省が外国人雇用状況の届出数をまとめたデータによると、2023年10月末時点で、204万8,675人の外国人労働者が日本で働いていることがわかりました。
2016年(108万3,769人)に100万人に到達して以降、外国人就労者数は増加傾向で推移している状態です。
それに対し、日本企業の多くは人手不足に悩まされています。
帝国データバンク「特別企画: 人手不足に対する企業の動向調査(2023 年 4 月)」によれば、正社員が不足している企業は全体の51.4%、非正社員の場合は30.7%にも上りました。
日本で働く外国人労働者が年々増加している一方で、雇用主となる企業においては、正社員をはじめとした人手不足が著しい状況にあることがわかります。
宿泊業や情報サービス業、建設業など幅広い産業分野の人手不足を補うため、外国人労働者の需要は今後さらに高まるでしょう。
外国人労働者数が増加している理由
日本企業で働く外国人労働者が増加している理由には、以下2つが考えられます。
- 若い人材の確保
- 即戦力人材の確保
それぞれの背景を詳しく見てみましょう。
若い人材の確保が可能
出典元:(報道発表)2022年度「外国人留学生在籍状況調査」及び「日本人の海外留学者数」等について│文部科学省
少子高齢化の日本において、人手不足にある企業では、日本人だけでなく外国人労働者も採用対象とすることで若手人材を確保しやすくなるでしょう。
日本の教育機関で学ぶ外国人留学生の数は、2022年時点で23万人を超えています。
上グラフのとおり、2019年の31万2,214人と比べると数が落ち込んでいますが、今後受け入れ数が回復すれば、若手の外国人労働者をより多く確保できる可能性があるでしょう。
留学生は基本的にアルバイトでの就労しか認められないものの、教育機関を卒業後、日本の企業に就職するという選択肢もあるためです。
なお、政府は2008年に「留学生30万人計画」として、2020年を目安に30万人の留学生を受け入れる施策を発表していました。
教育機関での受け入れ体制を整備するだけでなく、卒業後の就職支援も同時に推進する考えを示しています。
スタッフの高齢化が進む企業で、外国人労働者の受け入れを拡大することは、若手採用難を解決に導く鍵となりうるでしょう。
即戦力人材の確保が可能
2019年4月、外国人の在留資格に特定技能が導入されたことで、外国人材の受け入れが注目されるようになりました。
特定技能制度とは、「人材の確保が難しい状況にある産業分野において、一定の専門性・技能を持ち、即戦力として活躍が期待できる外国人の受け入れ制度」のことです。
特定技能には2種類の在留資格があり、特定技能1号と特定技能2号に分けられます。
いずれかの特定技能を取得している外国人労働者は、日本で働くうえで必要な知識やスキルがあることを認められており、企業にとっての即戦力となってくれるでしょう。
ここからは、特定技能1号・2号の特徴や就業できる業務について解説します。
特定技能:特定技能1号
特定技能1号 | |
在留期間 | 1年・6ヵ月・4ヵ月ごとに更新(通算で上限5年まで) |
技能水準 | 試験などで確認 (技能実習2号をパスした方は試験免除) |
日本語能力水準 | 生活や仕事に必要な日本語の能力を試験などで確認(技能実習2号をパスした方は試験免除) |
家族の帯同 | 基本的に認められない |
支援の必要性 | 受け入れ機関や登録支援施設による支援対象 |
特定技能1号の在留資格を持つ方が就業できる対象業種は、次の分野です。
- 介護
- ビルクリーニング
- 素形材産業
- 産業機械製造業
- 電気・電子情報関連産業
- 建設
- 造船・舶用工業
- 自動車整備
- 航空
- 宿泊
- 農業
- 漁業
- 飲食料品製造業
- 外食業
参考:特定技能 ガイドブック
原則として、特定技能1号の修了者が特定技能2号の在留資格を取得できます。
特定技能:特定技能2号
特定技能2号 | |
在留期間 | 3年・1年・6ヵ月ごとの更新(上限なし) |
技能水準 | 試験などで確認 |
日本語能力水準 | 試験などでの確認は不要 |
家族の帯同 | 配偶者や子どもは要件を満たせば帯同可能 |
支援の必要性 | 対象外 |
特定技能2号を持つ方は、特定技能1号の介護業を除いた以下の11分野で就業できます。
- ビルクリーニング業
- 建設業
- 素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業
- 造船・舶用工業
- 自動車整備業
- 航空業
- 宿泊業
- 農業
- 漁業
- 飲食料品製造業
- 外食業
特定技能2号の対象業種は、もともと建設分野と造船・舶用工業のみでした。
しかし、2023年から特定技能1号における介護以外のすべての特定産業分野で、特定技能2号の受け入れが可能となっています。
特定技能2号は、特定技能1号と比べてより高い専門性や熟練した技能が求められるのが特徴です。
国別で見る外国人労働者の割合
出典:「外国人雇用状況」の届出状況まとめ【本文】 (令和5年 10 月末時点)
日本企業で働く外国人労働者の方の総数は、令和5年10月末時点で204万8,675人ですが、国籍別に見ると、次の3ヵ国が全体の半数以上を占めています。
- 1位:ベトナム
- 2位:中国(香港・マカオを含む)
- 3位:フィリピン
ベトナム人労働者の割合がもっとも高く、25.3%(51万8,364人)でした。
次点で中国(香港・マカオを含む)が39万7,918人で19.4%、フィリピンが22万6,846人で11.1%と続き、アジア圏の外国人労働者が多いことがわかります。
ここでは、上位3ヵ国の国籍を持つ外国人労働者の傾向を見てみましょう。
1位:ベトナム人
日本で働く外国人労働者でもっとも高い割合を占めているのは、ベトナム人です。
特定技能1号の在留資格を持つ方が多いことが特徴であり、出入国在留管理局によれば、令和5年12月時点では特定技能1号の全体の53.1%がベトナム人となっています。
2019年7月には、ベトナムと日本のあいだで協力覚書(MOC)が交換されました。
これは、ベトナムが特定技能を持った人材を派遣する送り出し国、日本が受け入れ国として、双方が円滑かつ適正な関係を築くためのものです。
このことから、今後もベトナム人労働者の方は増加すると予測できるでしょう。
2位:中国(香港・マカオを含む)人
ベトナム人の次に多いのが、中国人の外国人労働者です。
中国の人口は近年減少傾向にあるものの、2023年時点でも14億人を超えており、そのうち9億人以上が15~64歳の労働力人口とされています。
また、毎年約50万人前後の方が海外で仕事をするなど、労働力輸出人口も多いことが特徴です。
日本は中国から地理的に近く、多くの企業が日中間でビジネスを展開していることから、経済面でのつながりもあります。
さらに、日本では学歴や家柄、出身地の差が重要視されず、自分のスキルを活かした仕事を選べることも、中国人労働者が増加した理由の一つです。
3位:フィリピン人
日本の外国人労働者で3番目に多いのは、フィリピン人です。
2008年にフィリピンと日本が経済連携協定を結び、フィリピン人の看護師や介護士が日本で働けるようになったことが一因に挙げられるでしょう。
また、フィリピン人の約10人に一人が海外で仕事をしており、世界でもっとも多くの労働者を他国に送り出している国でもあります。
フィリピン政府でも、海外渡航前に就労に関するセミナー開催や雇用主による違反行為があった場合の支援など、労働者のサポート体制を整えていることが特徴です。
増加傾向にある外国人労働者と雇用の見通し
日本で外国人雇用が増加傾向にある現状をふまえ、今後の見通しを以下2パターンで考察してみましょう。
- 外国人労働者数は増加する
- 外国人労働者数は減少する
経済格差や他国との人材獲得競争など、外国人労働者を受け入れるにあたっては課題もあることを念頭に置いておかなければなりません。
外国人労働者数は増加していく?
日本は少子高齢化によって労働力が不足しており、人材確保が喫緊の課題であることから、今後も外国人労働者数は継続的に増加する形で推移すると予測できます。
パーソル総合研究所は、政府による特定技能の導入の影響もあって、2030年には外国人労働者が209万人に達すると推計しました。
それと同時に、2030年までに必要となる日本の労働者数7,073万人のうち、全体の約3%を外国人労働者が占める見込みとも予測しています。
外国人労働者数は減少していく?
現在は増加傾向にある外国人労働者ですが、今後雇用が減少する見通しを立てる方もいます。
その理由は、大きく以下2つの経済的な要因によるものです。
- 母国の最低賃金の引き上げ
- 円安による貨幣価値の低下
例えば、ベトナムの最低賃金は年々上昇傾向にあり、2024年7月からは地域別の最低賃金をさらに6%引き上げる方向性で決定しました。
一方で、2022年頃から日本は円安の状態が続いており、外国人労働者からすると日本で働く魅力が減っていく可能性があります。
また、ワークライフバランスがとりにくい従来の日本の働き方も、外国人労働者から敬遠されかねないマイナス要素の一つです。
過酷な労働環境や個人の成果が評価されない年功序列制度などに不満を感じ、出稼ぎ先を日本以外の国へ変更する方も出てくるかもしれません。
外国人労働者から選ばれる国であるには、経済的な側面と労働環境的な側面の両方を改善していく必要があるでしょう。
外国人労働者に選ばれる国へ
人手不足にある日本では、外国人労働者を活用した即戦力の確保が必要です。
国籍別に見るとベトナムや中国、フィリピンをはじめとしたアジア圏の方が外国人労働者の5割以上を占めており、そのなかには特定技能を持った有能な人材も多くいます。
しかし、諸外国の最低賃金引き上げにともない、外国人労働者が日本で働くメリットを見出せなくなれば、将来的により大きな労働力不足に陥るかもしれません。
現在は増加傾向にある外国人労働者の数も、いつしか減少に転じる可能性があります。
今後、日本のさまざまな産業分野でも賃上げや福利厚生の追加といった待遇改善に取り組み、外国人労働者に選ばれるような魅力的な企業をめざすことが重要になるでしょう。