
この記事では、深刻化する介護人材不足への対策として注目される外国人労働者の受け入れについて紹介します。
2025年には約38万人の介護人材が不足すると予測されるなか、在留資格「介護」や特定技能など、さまざまな制度が整備されています。
これらは単なる人手不足対策だけでなく、サービスの質の維持・向上もめざすものです。
介護施設における外国人材の受け入れ方から、職場環境の整備、活用できる補助金制度まで、実務に役立つ情報を解説していきます。
目次
介護職における外国人労働者の受け入れの現状
深刻化する介護人材不足を背景に、日本の介護施設では外国人労働者の受け入れが急速に進んでいます。
まずは、介護職における外国人労働者の受け入れ状況についてみていきましょう。
日本では介護人材の人手不足により、外国人労働者を受け入れる施設が増加
介護業界では深刻な人手不足が問題となっています。
2025年には約38万人の介護人材が不足すると推計されており、高齢化の進行とともに介護ニーズはますます高まることが予想されるのです。
こうした状況への対策として、外国人労働者の受け入れを行う介護施設が増加しています。
実際に、医療・福祉分野における外国人労働者数は年々増加傾向にあり、今後もさらなる増加が見込まれています。
介護現場の人手不足解消に向けて、外国人介護人材への期待が高まっているのです。
在留資格の創設で介護のサービス向上を図っている
外国人介護人材の受け入れに際しては、複数の在留資格が設けられています。
これは、単に人手不足解消のために外国人労働者の雇用を推進するだけでなく、言語面でのコミュニケーションや介護サービスの質を担保するために導入されたシステムです。
つまり、在留資格の創設は介護現場における外国人材の活用と、サービスの向上という二つの目的を同時に果たすことをめざしたものといえるでしょう。
以下ではそれぞれの在留資格の詳細についても解説していきます。
介護業界で外国人労働者を受け入れるメリット
外国人労働者の受け入れによる最大のメリットは、何といっても人手不足の解消です。
実際に、介護分野における外国人労働者数は年々増加傾向にあり、制度が始まった2019年には100人もいませんでしたが、2023年1月時点では約1万7千人の特定技能外国人が日本に在留しています。
介護業界においても、外国人労働者が重要な戦力として認識されつつあるのです。
また、外国人労働者の多くは比較的若い年齢層であるため、体力を要する介護の現場において貴重な労働力となるでしょう。
外国人材の採用は、介護サービスの維持・向上に大きく寄与すると期待されています。
介護士として外国人労働者を受け入れる際の課題
一方で、外国人介護人材の受け入れにはいくつかの課題も存在します。
言葉の壁や文化の違いから生じるコミュニケーションのすれ違いは、介護の質に直結する重要な問題といえるでしょう。
また、日本人職員との協働においても、さまざまな障壁が立ちはだかります。
加えて、受け入れ側の企業における、労働環境の整備も欠かせません。
外国人材が働きやすい職場づくりに向けた取り組みが、求められているのです。
要介護者とのコミュニケーション
介護現場では、要介護者に適切なケアを行うために、コミュニケーションが非常に重要となります。
外国人介護士にとって、言葉の壁や文化の違いからコミュニケーションに難しさを感じることも少なくありません。
特に高齢の利用者が多い施設では、高齢者特有の言い回しや方言など、日本語習得途上の外国人職員には理解が難しい表現もあるかもしれません。
こうした問題への対応として、介護現場で用いられる日本語表現や、方言、高齢者とのコミュニケーションの取り方などを学ぶ研修機会の提供が効果的でしょう。
双方の歩み寄りにより、円滑なコミュニケーションの実現が期待されます。
他の職員とのコミュニケーション
利用者とのコミュニケーション同様、他の職員とのコミュニケーションもまた外国人材の受け入れにおいて重要です。
介護現場ではチームワークが何より大切とされており、職員間の意思疎通は欠かせません。
言語や文化の違いに起因するすれ違いから、業務上の連携がスムーズに進まないケースも考えられます。
日本人職員には、外国人職員との文化的背景の違いを理解し、コミュニケーションをサポートする姿勢が求められるでしょう。
お互いの文化を尊重し合い、より良い関係性を築いていくことが肝要です。
労働環境・支援システム
受け入れ側の介護施設においては、外国人材が働きやすい環境づくりも重要な課題となります。
コミュニケーションや相互理解の促進以外にも、給与体系や福利厚生制度など、労働条件面の配慮も必要不可欠でしょう。
外国人職員に対する支援システムの構築は、円滑な受け入れのために欠かせません。
採用時の説明だけでなく、入職後の教育プログラムなども充実させ、外国人材の定着を図ることが肝要です。
就業規則や評価制度など、職場のルールについても丁寧な説明が求められるでしょう。
企業側の受け入れ体制の整備は、外国人介護人材の活躍を支える重要な基盤となるのです。
外国人介護士が働きやすい環境をつくるために
外国人介護士の受け入れに際しては、言語や文化の違いに配慮した、働きやすい環境づくりが重要となります。
コミュニケーションが円滑に行える職場であることはもちろん、日本の介護現場に適応するための教育制度の整備も欠かせません。
外国人材の定着と活躍のためには、ソフト面とハード面の両面から、サポートしていく必要があるのです。
以下では、それぞれの具体的な取り組みについて解説します。
コミュニケーションが取りやすい職場づくり
介護の現場では「報告、連絡、相談」が業務遂行のために非常に重要視されています。
これらがスムーズに行えるよう、普段からコミュニケーションが取りやすい雰囲気を醸成しておくことが大切です。
特に、日本語の習得途上にある外国人職員にとっては、わからないことがあったときに相談しやすい環境であることが何より重要でしょう。
気軽に相談できる職場環境は、安心して仕事に取り組むうえでも役立ちます。
同時に、日頃からのコミュニケーションは外国人職員の日本語上達の機会にもなり得ます。
外国人職員と日本人職員がお互いに話しやすい環境をつくることは、円滑な業務遂行とチームワーク向上の基盤となるでしょう。
教育制度の整備
外国人職員と日本人職員がお互いの文化的背景を理解し合うことは、職場環境を良好に保つうえで欠かせません。
私生活においては、ゴミ出しなどの生活マナーについても、しっかりと教育しておく必要があります。
また、業務上の指示をする際には、日本語特有の婉曲的な表現を避け、簡潔明瞭に伝えることが求められるでしょう。
言葉の壁を超えて、的確に意思疎通を図ることが何より大切なのです。
さらに、介護現場で用いられる専門用語の習得をサポートするために、OJTによる日本語教育も効果的な手段といえます。
日々の業務のなかで必要な言葉を学んでいくことが可能です。
充実した教育制度は、外国人介護士の育成と定着に大きく寄与するでしょう。
外国人介護人材を受け入れるための制度について
外国人介護人材の受け入れに際しては、いくつかの在留資格が設けられています。
それぞれの制度には、受け入れ対象者の要件や在留期間などに違いがあります。
介護施設が外国人材を採用する際には、それぞれの特徴を理解したうえで、適切な在留資格を選択しなければなりません。
以下では主要な在留資格と、その概要を解説します。
在留資格「介護」
在留資格「介護」は、専門的・技術的分野における外国人材の受け入れを目的とした制度です。
この在留資格の取得には、介護福祉士の国家資格を取得することが条件となります。
介護福祉士試験はすべて日本語で行われるため、一定以上の日本語能力が必要です。
そのため、在留資格「介護」で採用される外国人材は、介護の専門知識とコミュニケーション能力の両面で申し分ない人材といえるでしょう。
また、この在留資格には更新回数の制限がないため、長期的な人材活用が可能となります。
将来を見据えた外国人材の採用を検討する際には、有力な選択肢といえるでしょう。
特定活動(EPA介護福祉士)
EPA(経済連携協定)に基づく介護福祉士の受け入れは、日本とインドネシア、フィリピン、ベトナムの3ヵ国との、二国間協定により実施されています。
この制度で入国した介護福祉士候補者には、4年目に介護福祉士国家試験の受験資格が与えられます。
試験に合格すれば、在留資格「介護」と同様に、在留期間の更新に制限はありません。
ただし、4年間の在留期限内に合格できなかった場合は、帰国を迫られます。
EPA介護福祉士は、母国で看護師や介護士としての経験を有する人材であるため、即戦力としての活用が期待できるでしょう。
高い専門性とスキルを備えた外国人材の採用を検討する際には、EPA介護福祉士も有力な選択肢となります。
技能実習
技能実習制度は、開発途上国への技能移転を目的とした制度です。
介護分野での技能実習生は、介護施設などの実習実施者のもとで一定期間の実習を行ったあと、介護施設に配属されるという流れになります。
実習生は入国1年後と3年後に技能検定を受験することで、最長5年間の滞在が可能です。
技能実習生の受け入れには、比較的短期間で一定の技能を有する人材を確保できるというメリットがあります。
ただし、あくまで技能移転が主目的であるため、長期的な人材活用は難しいという点には注意が必要でしょう。
特定技能1号
特定技能1号は、深刻化する人手不足への対応策として新設された在留資格です。
一定の専門性と技能を有する外国人材を、幅広い業種で受け入れることを目的としています。
特定技能1号での在留期間は通算5年が上限とされており、家族の帯同は認められていません。
一方で、特定の分野においては、在留期間の更新に制限がない特定技能2号への移行も可能となっています。
ただし、在留資格「介護」が存在する介護分野では、特定技能2号の設定はありません。
特定技能制度の利用により、一定の日本語能力とスキルを有する人材の採用が可能となります。
人手不足の解消と即戦力の確保をめざす介護施設にとって、特定技能1号は有力な選択肢の一つといえるでしょう。
外国人介護人材を受け入れるまでの流れ
外国人介護人材の受け入れの流れは、外国人の在留資格や在住地によって異なります。
特に、特定技能1号での受け入れ手続きは、外国人が国内在住か海外在住かで大きく変わってきます。
受け入れを検討する際には、採用予定の外国人の在留資格と在住地を確認することが重要です。
以下では、特定技能1号での外国人介護人材受け入れの流れを、国内在住の場合と海外在住の場合に分けて解説します。
国内在住の場合
国内在住の外国人を、特定技能1号で受け入れる際の流れは以下のとおりです。
まず、対象の外国人は日本語能力試験と特定技能1号の技能試験に合格するか、技能実習2号を修了していることを確認する必要があります。
その後、雇用契約を結び、1号特定技能外国人支援計画を作成します。
これらの書類を揃えたうえで、地方出入国在留管理局に在留資格認定証明書の交付申請を行うのです。
在留資格の変更が許可されれば、外国人の就労がスタートします。
一連の手続きを滞りなく進めるためには、書類の準備や申請手続きに十分な時間を確保しておくことが重要でしょう。
海外在住の場合
海外在住の外国人を特定技能1号で受け入れる際も、基本的な流れは国内在住の場合とほぼ同様です。
対象外国人は、日本語能力試験と特定技能1号の技能試験への合格、または技能実習2号の修了が必要となります。
そのうえで、雇用契約の締結と1号特定技能外国人支援計画の作成を行います。
これらの書類を用意したあと、地方出入国在留管理局に在留資格認定証明書の交付申請を行うのです。
ただし、海外在住の場合は、在留資格認定証明書の交付を受けたあとに、査証(ビザ)の申請と取得が必要となります。
査証を取得したあとに入国し、就労を開始することになるのです。
海外在住の外国人の受け入れには、より多くの手続きと時間を要するという点に注意が必要でしょう。
外国人介護人材を受け入れる事業者への補助金
外国人介護人材の受け入れに際して、補助金制度が各種設けられています。
これらの制度を活用することで、外国人材の教育や研修にかかる費用を軽減することが可能です。
例えば、東京都では中小企業による外国人労働者への日本語教育を支援する補助金制度を設けています。
また、埼玉県では日本語教育だけでなく、介護福祉士の資格取得を支援する補助金制度が用意されているのです。
補助金の申請要件や補助内容は自治体によって異なりますが、外国人材の受け入れを検討する際には、確認してみる価値があるでしょう。
人材の教育や定着に必要なコストの一部で補助を受けられれば、受け入れへのハードルも下がるはずです。
支援制度を有効活用し、外国人材の円滑な受け入れと定着を実現していきたいものです。
介護福祉分野で外国人労働者と協力していこう
介護分野における外国人材の活用は、年々拡大しつつあります。
深刻化する人手不足を解消するための、有効な手段の一つとして注目を集めているのです。
外国人介護士を貴重な戦力として受け入れ、ともに働いていくことが今後ますます重要になるでしょう。
ただし協働を実現するためには、円滑なコミュニケーションが欠かせません。
外国人材が働きやすい環境を整備し、お互いの文化を尊重し合う職場づくりが求められます。
そのためにも、各種の補助金制度を有効活用し、外国人材の採用と育成に力を注いでいきたいものです。
介護の現場から、多文化共生社会の実現をめざしていきましょう。