外国人が日本で働くには、職種に応じた就労ビザを取得しなければなりません。
しかし、就労ビザの申請にあたっては、外国人だけでなく雇用する企業側にもいくつかの要件が設けられており、取得条件は厳しいとされています。
適切な就労ビザを持たない外国人を雇用したり、就労ビザで認められていない業務内容を任せたりした場合、企業にも罰則が科せられるため注意が必要です。
本記事では、日本の就労ビザの取得条件が厳しいとされる理由や、外国人と企業側が満たすべき取得条件を解説します。
就労ビザの取得をめざしている外国人の方や、外国人雇用を検討している企業の方は、参考にしてみてください。
目次
日本の就労ビザの取得条件は厳しいとされる理由
就労ビザを取得するためには、外国人側だけでなく雇用する企業側にも満たすべき要件が設けられています。
就労ビザにはいくつかの種類がありますが、いずれの場合でも重要視されるのが以下4つの項目です。
- 労働条件を適切に設定しなくてはならない
- 経営状況が良好でなくてはならない
- 雇用する職種と大学での専攻に関連性が必要
- 企業側も外国人向けの支援体制を整える必要がある
これらのことから、日本の就労ビザ取得は条件が厳しいとされています。
労働条件を適切に設定しなくてはならない
就労ビザの取得申請が許可されるか否かは、労働契約の内容にも影響されます。
外国人を雇用する場合でも、日本人と同様に労働契約を結び、労働条件通知書や雇用契約書で条件を明示しなければなりません。
このとき、外国人にも労働基準法をはじめとした労働関係法令が適用されることを念頭に置いておきましょう。
契約期間や雇用形態、賃金、労働時間、休暇、勤務地はもちろんのこと、退職に関する事項も契約内容に盛り込む必要があります。
これらの労働条件が適切かつ外国人からきちんと理解・了承を得られていなければ、就労ビザの取得は難しくなるでしょう。
経営状況が良好でなくてはならない
就労ビザを取得するには、外国人の勤め先となる企業の経営状況が良好でなければなりません。
経営が安定しており、なおかつ事業に継続性があることが条件です。
このため、就労ビザの申請時は、出入国在留管理庁から企業に対し、直近の決算書の提出を求める場合があります。
赤字決算でも、事業の継続性や安定性が証明されれば外国人材を雇用できる可能性はありますが、必要な資料を不備なく準備することが重要になるでしょう。
雇用する職種と大学での専攻に関連性が必要
就労ビザの審査では、外国人の学歴(専攻)と雇用後の業務内容の関連性が重視されます。
外国人が大学や大学院で専攻した分野と、受け入れ企業での業務内容の関連性が認められない場合、不許可となる可能性があるでしょう。
例えば、理工・工学といった技術系を専攻していた外国人であれば、エンジニアなど技術職での就労が原則です。
なお、日本に滞在する外国人が通うことの多い日本語学校は、ここでいう学歴には該当しません。
「日本語学校を卒業した外国人が語学教師として働く」といった形では就労ビザを取得できず、大学などを卒業しなければならない点に注意します。
企業側も外国人向けの支援体制を整える必要がある
就労ビザのなかでも特定技能ビザの場合、企業は外国人材への支援計画を作成し、出入国在留管理庁に提出しなければなりません。
支援内容には、業務面だけでなく生活面でのサポートや日本語教育なども含まれます。
受け入れ企業での対応が難しい場合、登録支援機関への依頼も検討すべきでしょう。
具体的な支援内容としては、社内に外国人専用の相談窓口を設けたり、公的手続きを補助したり、既存スタッフと交流を深めるイベントを企画するなどの取り組みが考えられます。
外国人が円滑に就労するためには、言葉や文化の違いの相互理解に向けて、企業側からも歩み寄ることが大切です。
外国人が職場や地域に溶け込めるような支援体制を整備してはじめて、受け入れ企業としての条件を満たします。
外国人労働者が安心して働ける環境を整えることは、企業の責務といえるでしょう。
日本で就労ビザを取得するための条件
日本での就労ビザ取得には、外国人側と受け入れ企業側の両方に条件が設けられています。
たとえ企業が外国人に内定を出しても、どちらかが条件を満たさなければ就労ビザの申請は不許可となる可能性があるでしょう。
外国人側の条件
就労ビザの申請にあたって、外国人側には一定の知識と技術、さらに学歴・職歴が求められます。
まずは、就労ビザを取得する際の外国人側の条件を見てみましょう。
高度な知識や技術
就労ビザの種類によっては、高度な専門性や実績が求められます。
例えば、教育ビザでは外国語教育や科目教育の実務経験が必要とされ、芸術ビザでは入賞や入選などの実績を証明する資料を提出しなければなりません。
より幅広い業務に従事したい場合、特定技能という就労ビザも選択肢となります。
特定技能は学歴不問ですが、日本語試験や各産業分野の技能試験に合格する必要があり、いずれの在留資格を取得するにせよ高度な知識や技術が必須となるでしょう。
一定以上の学歴・職歴
就労ビザの取得には、原則として一定以上の学歴や実務経験が求められます。
技術・人文知識・国際業務ビザであれば、関連する分野を大学などで専攻し、卒業していることが条件です。
大学以外にも、日本の専門学校を卒業した専門士の称号を持つ方であれば就労ビザを取得できる可能性がありますが、海外の専門学校は学歴要件に含まれません。
職種によっては、学歴要件を満たせない場合でも一定以上の実務経験で代替できるケースがあります。
企業側の条件
採用した外国人が就労ビザを取得できるかどうかは、受け入れ企業での労働条件や業務内容にも左右されます。
外国人が適切な環境で働くとともに、不法就労を防ぐためにも肝心なポイントです。
同じ職種の日本人と同等またはそれ以上の給与を支払う必要がある
外国人労働者を雇用する際の労働条件は、日本人と同等かそれ以上としなければなりません。
労働時間や各種手当をはじめとした待遇に関する差別的な扱いは禁じられており、賃金についても最低賃金額以上を支払う必要があります。
また、同じ職場で働く日本人スタッフと同じ仕事をしているにも関わらず、不当に安い賃金を支払うのは認められません。
外国人労働者も、日本人と同じ労働関係法令の適用を受け、同等の権利を持っています。
就労ビザの申請時は労働条件も審査されるため、適切な待遇を徹底するようにしましょう。
就労ビザの範囲内の職務に限定されている
就労ビザの種類によって、従事できる業務内容には制限が設けられています。
就労ビザで認められた活動以外の業務に従事させた場合、不法就労として外国人本人だけでなく企業も罰則の対象となりかねません。
企業は、採用活動の時点で外国人労働者の学歴や専攻内容を確認し、取得できる在留資格と任せたい業務が一致するかどうかを把握するようにしてください。
日本の就労ビザ取得に関する注意点
外国人が日本で就労ビザを取得する場合、以下5つの注意点を心に留めておきましょう。
- 就労ビザと在留資格は意味合いが異なる
- 申請が不許可になるケースがある
- 就労ビザは更新が必要
- 不法就労助長罪に注意する
- 雇用契約書を必ず作成する
順に詳しく解説します。
就労ビザと在留資格は意味合いが異なる
就労ビザは「就労可能な在留資格」を指した通称であり、就労ビザという名称のビザが存在するわけではありません。
そして、在留資格は日本に滞在する外国人の活動内容を定めたもので、ビザ(査証)とも異なります。
ビザ(査証)は、海外から来た外国人の入国を認める許可証です。
就労可能な在留資格(就労ビザ)を取得するには、出入国在留管理庁に対する在留資格認定証明書の交付申請が必要になります。
申請が不許可になるケースがある
在留資格認定証明書の交付申請をする際、提出書類の不備や虚偽の記載があると、申請が不許可となる可能性があります。
また、上記で紹介した外国人側・企業側の条件を満たさない場合にも、申請は通りにくくなるでしょう。
外国人留学生の採用に際しては、資格外活動の制限にも注意が必要です。
アルバイトとして雇用していた外国人留学生を正社員にしたい場合でも、アルバイトとして週28時間を超えて働いていたときには違反と見なされ、申請不許可となります。
労働時間を偽って就労ビザの申請をしたとしても、源泉徴収票などから虚偽の申告が発覚するため、そもそもオーバーワークが発生しないようシフト管理を徹底しましょう。
就労ビザは更新が必要
就労ビザには在留期限が設定されており、その期間を延長したい場合には期限内の更新手続きが必要です。
更新手続きを怠ると、在留資格が失効し不法滞在となりうるため注意しましょう。
不法滞在をした外国人は強制送還の対象となり、その後5年間日本への入国を認められなくなるリスクがあります。
在留資格の更新申請は、在留期間の満了3ヵ月前から可能です。
何かしらの理由で不許可となり、再申請が発生する可能性があることもふまえて、早めに手続きを進めておきましょう。
不法就労助長に注意する
就労資格のない外国人を雇用した企業は、不法就労助長罪に該当する可能性があります。
不法就労は、外国人労働者本人だけでなく企業にとっても大きなリスクです。
たとえ企業側に悪意がなくとも処罰の対象となり、3年以下の懲役か300万円以下の罰金、あるいはその両方が科せられる場合があります。
また、企業としての信用も失いかねません。
外国人を雇用する際は、適切な在留資格を持っている人材か確認すると同時に、就労可能な在留資格がなければ取得をうながすようにしましょう。
雇用契約書を必ず作成する
外国人労働者との労働契約締結時には、労働条件を明示した雇用契約書の作成をおすすめします。
雇用契約書は、労働条件通知書のように交付が義務付けられているわけではありませんが、雇用される外国人自身が労働条件をきちんと理解するために有効な書類です。
賃金や労働時間などの必要項目を盛り込み、外国人が理解できる言語で書面交付することが望ましく、雇用後のトラブル防止にも役立つでしょう。
また、雇用契約書や労働条件通知書は就労ビザ申請時の提出書類としても使えます。
日本の就労ビザの条件を知ろう
外国人と受け入れ企業それぞれが条件を満たすことで、就労ビザを取得できます。
外国人側には専門的な知識・技術や学歴が求められると同時に、従事したい仕事内容と大学などで専攻した分野に関連性がなければいけません。
一方、企業側では適正な就労環境を整備するほか、外国人の持つ在留資格の範囲内で雇用管理を行うことが大切です。
日本での就労ビザ取得は比較的ハードルが高く、場合によっては申請が不許可となる可能性もあります。
提出書類の不備やアルバイトのオーバーワーク、不法就労がないよう外国人と企業の双方が注意し、申請の条件をよく確認したうえで就労ビザの取得をめざしましょう。