日本の労働人口が減少するなかで、外国人労働者の重要性は増している状態です。
実際に、外国人労働者の受け入れは年々増えており、国でも受け入れに関するさまざまな取り組みを講じています。
一方で、外国人労働者の受け入れには多くの課題があることをご存じでしょうか。
言葉や文化の壁を乗り越え、外国人労働者が定着して長く働けるようにするには、雇用主側の準備が欠かせません。
この記事では、外国人労働者を雇用する際に起こりうる問題と、それらを解決に導くための対策を解説します。
外国人労働者の受け入れにあたって不安や疑問がある方は、参考にしてみてください。
目次
外国人労働者を雇用する際に起きうる問題とは?
外国人労働者の数は、令和5年10月末時点で204万8,675人となっており、年々増加傾向にあります。
労働人口の減少にともない、外国人労働者を受け入れる企業も増えていますが、その一方で法令違反や過酷な労働環境などのトラブルが発生していることも事実です。
ここでは、外国人労働者の雇用に関する問題について、以下の3つの視点から解説します。
- 労働環境の問題
- 規則上の問題
- 文化や言語の違いから来る問題
労働環境の問題
外国人就労者の労働環境に関する問題として、次のようなものが挙げられます。
- 劣悪な労働環境
- 長時間労働
- 低賃金や賃金未払い
外国人労働者は低コストで雇える労働力とみなされることがあり、長時間働いているにも関わらず適切な賃金が支払われないといったケースも珍しくありません。
また、人手不足などの背景から、労災が発生しやすい過酷な労働環境に置かれてしまっているケースもあるでしょう。
劣悪な労働環境
厚生労働省の「令和4年 外国人労働者の労働災害発生状況」によると、外国人労働者1,000人あたりの労災発生率は2.64%と、日本人を含む全労働者の2.32%よりも高くなっています。
外国人技能実習生の就労先の選択肢として、人手不足が顕著な建設業や製造業などが挙げられるでしょう。
これらの業界は重労働となるケースがあるほか、労災が起きやすい点も特徴です。
建設業や製造業であれば、追突・転落事故、農業でははさまれ・巻き込まれ、小売業では転倒事故などが想定されます。
安全のためのマニュアルが日本語でしか作成されていなかったり、すぐに覚えられるような工夫や説明がなかったりすると、外国人労働者の働きにくさにつながるでしょう。
労働環境の安全性を保つためには、外国人労働者にとってもわかりやすいマニュアルの整備が必要です。
長時間労働
外国人労働者を低コストな労働力とみなしている事業所では、長時間労働が常態化する恐れがあります。
例えば、ある企業において、36協定を結び時間外労働の上限を月80時間と定めていたにも関わらず、外国人労働者に月95時間の時間外労働を強いていた事例がありました。
また、パスポートを取り上げることで外国人労働者が反抗しにくい状態にし、不当な労働条件で働かされる事例も存在します。
外国人労働者の労働時間に関して、適用されるルールは日本人労働者と同じであり、36協定を導入してる企業であれば残業も一定時間以内でなければなりません。
上記のような違反行為には罰則がともなうケースもあるため、注意が必要です。
低賃金や賃金未払い
同一労働同一賃金の原則により、日本人労働者と同じ仕事をした外国人労働者は同じだけの賃金を受け取れます。
その一方で、技能実習生が時給換算すると400円程度で雇われていた事例や、残業代が適切に支払われていなかった事業所が存在することも事実です。
これらの賃金トラブルが発覚した場合、雇用側は未払い分を請求される可能性があるでしょう。
請求への対応が遅れると、労働基準監督署の立ち入り検査などが行われる事態となるかもしれません。
賃金に関するトラブルを避けるためには、契約時に賃金条件を書面で明確にするとともに、外国人労働者の母国語でも表記を行うなどの対策がおすすめです。
規則上の問題
外国人労働者の雇用にあたって、次のような規則上の問題に突き当たるケースもあります。
- 就労制限
- 身元保証人
日本人を雇用する際には基本的に生じない問題となるため、外国人労働者を初めて受け入れる際には念頭に置いておくようにしましょう。
就労制限
外国人労働者を雇用する場合、就労制限の有無を確認する必要があります。
日本に滞在している外国人の方のなかには、日本で働くことを認められていないケースがあるためです。
日本での就労が認められる「在留資格」は、大きく分けて以下の3つです。
- 就労活動の制限なし
- 在留資格で定められた範囲で就労できる
- 原則、就労が認められない
永住者や日本人の配偶者などは、就労の制限がなく自由に働くことが可能です。
外交や公用、医療、技能実習など特定の在留資格がある方は、定められた範囲内で就労が認められています。
また、原則として就労禁止でも、資格外活動の申請により条件付きで就労できる場合もあるため、雇用にあたってはあらかじめ就労の可否を確認しておきましょう。
身元保証人の設置有無
外国人労働者が日本の企業に就職する際は、身元保証人の提出が求められることがあります。
身元保証人の設置有無や条件は企業によってさまざまですが、あくまでも道義的責任の範囲であり、連帯保証人のような賠償責任などを負うものではありません。
身元保証人の責任の範囲は、以下のとおりです。
- 外国人が滞在費を支払えない場合に費用を負担する
- 外国人が帰国時の費用を支払えない場合に費用を負担する
- 外国人に日本国法令を厳守させる
身元保証人となれるのは、日本人または日本永住者であり、安定した収入がある方です。
場合によっては、外国人労働者を雇用する企業の社長や役員、採用担当者などが身元保証人となります。
文化や言語の違いからくる問題
外国人労働者の雇用では、言語や文化の違いなどにより以下のような問題が生じる可能性もあるでしょう。
- コミュニケーションの困難さ
- 年功序列の人事制度
- 地域社会との衝突
外国人労働者のなかには、日本語や日本の文化を十分に理解することが難しい方もいます。
戸惑いや不安感から仕事のモチベーションが低下する可能性もあるため、必要に合わせた雇用側によるサポートは必須といえるでしょう。
コミュニケーションの困難さ
雇用側と外国人労働者とのコミュニケーションがうまくいかなかった結果、仕事に支障を来す場合もあるかもしれません。
実際に、在留外国人のうち就労先を見つけられていない方の多くが、その理由に言語の壁を挙げました。
日本語が得意でない外国人の方を雇用する際には、日本語教育の場を提供するだけでなく、日本人スタッフが異文化を理解するための研修を設けることも大切です。
自国の文化を押し付けるのではなく、お互いを理解し合うための取り組みがコミュニケーションの困難さの解消につながります。
良好なコミュニケーションは、仕事の効率性や安全性を求めるうえでも役立つでしょう。
年功序列の人事制度
日本において一般的な年功序列の人事制度に対して、外国人労働者が不満を抱き、トラブルに発展する可能性もあります。
成果主義や能力主義の文化に馴染みのある外国人労働者の場合、仕事の成果よりも勤続年数が評価される日本の制度に違和感を覚える方もいるためです。
日本の企業でも成果主義を導入しているところはありますが、年功序列を採用する企業もいまだ存在しており、ときとして外国人労働者からは理解を得られないかもしれません。
短期間で評価されない日本の人事制度は非効率で不公平であると感じ、仕事のモチベーションの低下につながる恐れがあるでしょう。
早期離職を防ぐためには、文化や評価制度の違いに関する十分な説明を行う必要があります。
地域社会との衝突
文化や言語の違いから、外国人労働者が日本独自の地域の慣習・ルールを十分に理解できずに、地域社会と衝突してしまうケースもあります。
ゴミの分別方法や捨てる曜日、駐車・駐輪場所の間違い、騒音などが例として挙げられるでしょう。
あるいは、日本人が外国人に対する偏見や警戒心を持っていることで、地域住民との間に隔たりが生まれ、場合によっては訴訟問題などのトラブルへと発展します。
衝突を避けるためには、外国人労働者を採用する企業が仕事だけでなく生活面でのサポートも行い、地域社会との溝をなくしていくことが必要です。
外国人労働者を雇用する際の問題を防ぐ対応策
ここまで紹介した問題を踏まえ、外国人労働者が働きやすい環境を提供するには、雇用側が以下のような対策を講じると良いでしょう。
- 労働環境については雇用契約を結び遵守する
- 就労制限や保証人を解決しておく
- 言語や仕事に対する考え方を尊重した組織を作る
不法就労を受け入れてしまった場合、事業主にも罰則が課される恐れがあるため、在留資格や労働制限に関しては雇用前にきちんと確認しておく必要があります。
労働環境については雇用契約を結び遵守する
外国人労働者の雇用時は、業務内容や賃金、雇用期間、昇給などの労働条件をお互いに理解したうえで、契約書として明文化するようにしましょう。
雇用契約書の内容は、当然ながら労働基準法や労働契約法に則っている必要があり、加えて雇用主には雇用契約の遵守が求められます。
企業側と外国人労働者の双方に悪意がなくとも、文化や言語の違いにより労働条件が曖昧なまま就労してしまった場合、トラブルにつながりかねません。
契約書は外国人労働者がわかりやすい母国語で記載することで、言語の違いによる誤解を避けるのに役立ち、劣悪な労働環境や賃金の問題などを防ぎやすくなります。
就労制限や保証人を解決しておく
外国人労働者の雇用にあたっては、在留資格や就労制限を確認しておきましょう。
いざ入国や雇用の手続きを進めていても、就労可能な残留資格を持っていなければ、外国人労働者に働いてもらうことはできません。
このため雇用主は、入国管理局の規定や在留資格に関する理解が必須となります。
また、トラブルが発生した場合に備えて、身元保証人の選定や必要書類の準備は余裕を持ったスケジュールで進めるようにしましょう。
外国人労働者と企業の両者が安心して雇用を続けるには、こうした法的な問題を未然に防ぐことがポイントです。
言語や仕事に対する考え方を尊重した組織を作る
外国人労働者の定着をめざす場合、言語や仕事に対する考え方を尊重した組織作りが重要になります。
なかには、何を学びたいのか、どのようなスキルを身につけたいのかなど明確なキャリアパスを持っている方もいるでしょう。
技能実習生など就労できる期間が決められている外国人労働者の場合、定められた期間内でどのような支援ができるかが企業にとっての課題です。
キャリアに関する考え方が違う可能性もふまえ、現在の配属の目的や配属期間を可能な限り伝えて、目標を立てやすいよう工夫すると良いでしょう。
また、日本語の理解が十分でない場合は、外国人労働者にもわかりやすい日本語を使ったり、スマートフォンで翻訳したりなど、コミュニケーション面の配慮も欠かせません。
ただ業務を遂行してもらうのではなく、外国人労働者が組織から取り残されないような取り組みが必要です。
さらに、宗教上で必要な礼拝室を用意する、日本語検定の費用を負担するなど、外国人労働者が安心して働けるような組織作りをすることで、企業の魅力につながります。
外国人労働者の雇用はお互いの文化と言語を尊重しよう
日本の企業における外国人採用には、過酷な労働環境や規則上の制限、人事評価制度の違いといった問題があります。
これらの問題は必ずしも雇用側の悪意で引き起こされるとは限らず、言語や文化の壁によって認識がすれ違い起きてしまっているケースも考えられるでしょう。
外国人労働者の雇用の定着を図るには、お互いの言語と文化を尊重するのはもちろんのこと、企業側の対策・支援も必要です。
労働契約を相手の言語できちんと明文化するほか、事故を防ぐためにもルールや規則はわかりやすく説明することが大切になります。
地域や組織と馴染めるよう、業務だけではなく生活面のフォローも行うなど、外国人労働者にとって安心して働ける組織作りをめざしていきましょう。