日本では中小企業を中心に人手不足が深刻化しており、それと同時に外国人労働者の受入れに積極的な企業も増えてきました。
なかでも、専門的な知識や技能を持つ外国人労働者は即戦力として採用でき、医療分野や教育分野、研究職などさまざまな業界での活躍が期待されています。
ただし、言語や文化の異なる外国人の方が円滑に就労できるようにするには、適切な手順をふまなければなりません。
本記事では、日本における外国人労働者の受入れ状況や受入れ手順を詳しく解説します。
雇用前に理解しておくべき課題にも触れているため、外国人労働者の採用をご検討中の方は参考にしてみてください。
目次
日本における外国人労働者の受入れ状況
日本における外国人労働者の受入れ状況を、以下の視点から深掘りしてみましょう。
- 外国人労働者の数
- 国籍別の外国人労働者の割合
- 在留資格別の外国人労働者の割合
- 外国人労働者の受入れが進んだ背景
- 外国人労働者の受入れに関する政府の政策
順に詳しく解説します。
データから見る外国人労働者の数
出典元:「外国人雇用状況」の届出状況まとめ【本文】(令和5年10月末時点)|厚生労働省
厚生労働省によると、2023年10月末時点の外国人労働者数は前年比で22万5,950人増加し、204万8,675人に達しました。
2008年の約48万人から2023年の約204万人まで、15年のあいだで日本の外国人労働者は4倍に増えていることがわかります。
2023年は、外国人労働者数および外国人を雇用する事業所数ともに、届出が義務化された2007年以降で過去最高となりました。
新型コロナウイルスの影響のため2020年と2021年の対前年増加率は一時的に減少しましたが、以降は増加傾向にあり、今後も外国人労働者の受入れは進んでいくと予想できます。
国籍別の割合
出典元:「外国人雇用状況」の届出状況まとめ【本文】(令和5年10月末時点)|厚生労働省
外国人労働者数を国籍別で見ると、ベトナムが51万8,364人と最も多く、全体の25.3%を占めています。
次いで中国・香港・マカオが19.4%(39万7,918人)、フィリピンが11.1%(22万6,846人)と続く結果となりました。
これら上位3ヵ国が、日本の企業で働く外国人労働者数のおよそ半分を占めています。
また、大半がアジア圏で占められているなか、南米のブラジルが6.7%(13万7,132人)と5番目に多い国籍となりました。
在留資格別の割合
出典元:「外国人雇用状況」の届出状況まとめ【本文】(令和5年10月末時点)|厚生労働省
外国人労働者を在留資格別で見ると、最も多いのは「身分に基づく在留資格」であり、全体の30.1%(61万5,934人)を占めます。
身分に基づく在留資格とは、次のような方のことです。
- 日本人の配偶者
- 永住者の配偶者
- 永住者
- 定住者
次に多いのが「専門的・技術的分野の在留資格」の59万5,904人、「技能実習」が41万2,501人と続きます。
前年比に着目した場合、「専門的・技術的分野の在留資格」の増加率が最も高く、 24.2%増加しました。
「技能実習」は20.1%、「資格外活動」は17.2%、「特定活動」は3.5%と、いずれの在留資格も増加しています。
外国人労働者の受入れが進んだ背景
外国人労働者の受入れが進んだ背景には、以下のような理由が考えられます。
- 1980年代後半~90年代前半のバブル経済による人手不足
- 1990年の入管法改正による在留資格の分野拡大や外国人労働者受入れ制度の整備
- 円高による出稼ぎのメリット拡大
バブル崩壊後しばらくは人材の過剰供給状態となりましたが、昨今は製造業や建設業、サービス業界などでの人手不足が深刻化し、外国人労働者の需要が高まっています。
また、政府による外国人労働者の受入れ政策の見直しや在留資格の追加も、外国人労働者の受入れを促進している要因といえるでしょう。
外国人労働者の受入れに関する政府の政策
政府は、専門的な分野や技術分野の外国人労働者の受入れについては積極的な姿勢です。
一方で、こうした分野以外の外国人労働者の受入れは、社会保障のコストや労働条件など雇用全体に及ぼす影響をふまえた幅広い観点から検討し、慎重に対応しています。
政府は、外国人労働者との共生に向けた仕組み作りとして、以下3つのビジョンを掲げました。
- 安全・安心な社会
- 多様性に富んだ活力のある社会
- 個々の尊厳と人権を尊重した社会
それと同時に、外国人労働者に向けた情報発信や相談体制の充実、日本での社会生活に馴染めるような教育制度など、中長期的に向き合うべき課題もあるとしています。
外国人労働者の受入れ手順
外国人労働者の受入れ手順は、大きく以下の5ステップです。
- 求人募集を出す
- 就労ビザの有無を確認する
- 雇用契約書を作成する
- 就労ビザを申請する
- 雇用を開始する
不法就労によるトラブルを防ぐためにも、就労ビザの有無や種類(従事できる業務内容)は入念に確認しておきましょう。
1.求人募集を出す
外国人労働者を募集する方法には、次のようなものが挙げられます。
求人掲載 | ・求人サイトや自社サイト、雑誌広告での募集 ・FacebookなどSNSでの求人も可能 |
公共団体 | ・ハローワークやNPO、外国人雇用サービスセンターなどでの募集 ・外国人労働者の就労支援だけでなく企業側の支援も行っているケースがある |
民間団体 | ・外国人労働者の紹介や派遣を専門に行う企業からの紹介 ・担当者がつくため手厚いサポートを受けられる |
大学や専門学校 | ・外国人留学生を多く抱えている専門学校や大学、大学院などの教育機関の就職課を通じた紹介 |
一般的な求人サイトや自社サイトを活用した募集は、採用コストを抑えられる反面、希望のスキルを持った人材を獲得できるまでには時間がかかるかもしれません。
一方、外国人労働者の紹介を受けられる民間団体の利用は、ターゲットを絞ったうえで人材を紹介してもらえますが、コストや求職者との連絡に手間がかかる点に注意が必要です。
2.就労ビザの有無を確認する
就労ビザが取得できなければ、外国人の方は日本で働けません。
就労ビザは在留資格とも呼ばれており、取得している在留資格によって就労内容の制限などを判断できます。
応募者の就労ビザの有無による対応の違いは、以下のとおりです。
【就労ビザを持っていない場合】
- 応募者の専攻内容と企業業種の一致を卒業・成績証明書で確認
- 応募者の職歴から、採用予定の職種で10年以上(通訳・語学関連の場合は3年以上)の実務経験を確認
【就労ビザを持っている場合】
- 応募者の就労ビザの種類が企業業種と一致するか確認
- 就労ビザの更新期限が切れていないか確認
- 必要に応じて、資格外活動許可の取得有無を確認
就労ビザを持っている外国人の方でも、アルバイトは原則禁止されています。
ただし、資格外活動許可を取得している場合はアルバイトでも採用可能です。
3.雇用契約書を作成する
外国人労働者との面接が終わり、内定を決めたら雇用契約書を作成します。
雇用契約書は、外国人本人に労働条件を理解してもらうためだけでなく、就労ビザの申請時にも必要です。
日本語の雇用契約書に加えて、外国人労働者が理解できる母国語もしくは英語で記載した書類も作成し、書面を外国人労働者に渡しておきましょう。
外国人労働者に対する不公平な待遇は禁止されており、日本人労働者の雇用条件と同様、労働基準関連の法令にのっとった内容でなければなりません。
契約書の作成方法に迷う場合は、厚生労働省が公開しているサンプルを参考にしてみてください。
4.就労ビザを申請する
雇用契約書を作成したあと、企業の所在地を管轄する入国管理局で就労ビザを申請します。
就労ビザの有無による申請手続きの違いは、以下のとおりです。
就労ビザの有無 | 手続き内容 |
就労ビザを持っている | 就労資格証明書交付申請を行い、入国管理局で自社での就労が可能かを判断してもらう |
就労ビザを持っていない | 入国管理局から発行された在留資格認定証明書を外国人労働者に郵送し、労働者自身が日本大使館で就労ビザを申請 |
就労ビザ以外のビザを持っている | 入国管理局で在留許可申請を行い、ビザの種類を変更 |
就労ビザの審査には通常1〜3ヵ月かかるため、スケジュールに余裕を持った状態で申請を進めましょう。
外国人労働者のビザの種類について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご参照ください。
5.雇用を開始する
就労ビザを取得できたら、外国人労働者を受入れる準備を整えましょう。
健康保険や厚生年金保険、雇用保険への加入手続きも必要です。
雇用開始後は、ハローワークへの外国人雇用状況の届出が必要となるため、こちらも忘れないよう済ませておいてください。
また、就業規則を労働者にもわかる言語に翻訳したうえで共有し、不明点がないかを確認するとともに、必要に応じて住居の手配やオリエンテーションを実施します。
働き始めてからも、外国人労働者が定着できるような支援は不可欠です。
文化や言語の違いから生じるトラブルを防ぐために、日本語や日本文化の研修、地域に馴染むための日常生活の支援をはじめとして、いつでも相談できる環境を整えましょう。
外国人労働者の受入れ制度の問題点
外国人労働者の受入れ制度には、以下のような問題点も存在します。
- 不法就労外国人が絶えない
- 入国・在留手続が煩雑になっている
外国人労働者の雇用は人手不足を解消する有効な手段ではありますが、通常の日本人スタッフ採用時とは異なる手続きが必要になることを念頭に置いておきましょう。
不法就労外国人が絶えない
外国人受入れ制度の大きな課題に、不法就労外国人が絶えないことが挙げられます。
外国人側のトラブルによるものだけでなく、雇用側が外国人労働者を低賃金かつ重労働といった過酷な労働条件で働かせているケースもあるためです。
1980年代と比較すると、悪質なブローカーによる仲介や偽造旅券を使った不法入国など、手口も巧妙化しています。
こうした不法就労の外国人がいることで、正しく就労をめざしている外国人労働者の勤務先の選択肢が狭まったり、職業紹介制度が厳しくなったりする恐れがあるでしょう。
また、雇用側の知識不足や確認不足などが原因で不法就労が起こった場合、外国人労働者だけでなく雇用側も処罰の対象となるため注意が必要です。
入国・在留手続が煩雑になっている
外国人労働者を雇う際には、入国・在留手続や就労ビザの更新が必要です。
これらの手続きには提出を求められる必要書類も多く、企業担当者にとっては大きな負担となる可能性があります。
また、在留資格によっては就労できない業務もあり、不法就労や不法入国を防ぐために厳しい審査を行っていることから、申請完了までには手間も時間もかかるでしょう。
特に海外で採用した外国人労働者を日本の企業で雇うとなれば、日本人の人材のように採用後すぐに働き始めるというわけにはいきません。
受入れまでに時間がかかることをふまえ、計画的に採用活動を行うことが大切です。
外国人雇用にともなう手続きについて、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
外国人労働者の受入れをはじめよう
日本の外国人労働者数は増加傾向にあり、製造業やサービス業、医療業界などさまざまな分野で受入れが進んでいます。
人材募集の手段としては求人サイトや自社サイトの活用のほか、ハローワークをはじめとした公共団体、人材紹介サービスを提供する民間団体などが考えられるでしょう。
希望の条件に合った人材から応募があった場合、まずは就労ビザの確認が必須です。
特定技能を認められた人材であれば、採用後の即戦力となることが期待できます。
ただし、在留資格がどのような形であれ、採用後の手続きや就業ルールの整備には工数がかかることを念頭に置いておかなければなりません。
日本人よりも細かなサポートが必要になることもふまえたうえで、自社の採用課題の解決に向けて、外国人労働者の受入れ体制を整えていきましょう。