特定技能制度は、深刻な人手不足に悩む業界で、外国人材の受入れを拡大するために創設された新たな在留資格を認める制度です。
この制度で来日する特定技能外国人が日本国内で安心して働き、生活していくためには、手厚いサポート体制が不可欠となります。
そこで重要な役割を担っているのが、登録支援機関です。
目次
特定技能制度の「登録支援機関」とは
登録支援機関は、特定技能1号として外国人を受入れる際に、日本で生活や仕事をするうえで必要な支援を行う機関を指します。
特定技能1号として外国人を雇用する企業には、外国人が日本で生活するための支援が求められます。
自社だけでは十分なサポートができない場合は、登録支援機関に支援業務を委託することができるのです。
登録支援機関になるためには、出入国在留管理庁長官の登録を受ける必要があります。
登録支援機関の役割
登録支援機関は、特定技能1号である外国人が日本で円滑に生活や仕事ができるよう、さまざまな場面でサポートを行います。
具体的には、生活オリエンテーションの実施や、日本語学習の機会の提供、住宅の確保支援、各種行政手続きの補助など、外国人の生活全般に関わる支援などです。
これらの支援は、外国人を雇用する企業からの委託を受けて実施されます。
雇用企業単独では対応が難しい部分を登録支援機関に任せることで、外国人の受入れをスムーズに進めることができるのです。
登録支援機関の基準
登録支援機関になるためには、出入国在留管理庁が定める一定の基準を満たすことが必要です。
その基準は大きく、「機関自体が適切であること」と「外国人を支援する体制があること」を示す基準の2種に分けられます。
例えば、支援責任者と1名以上の支援担当者の選任や、過去2年以内の中長期在留者の受入れ実績、外国人の生活相談業務の経験が一定期間あることなどが求められます。
また、外国人が十分に理解できる言語で支援を実施できる体制も必要です。
これらの基準を満たした機関だけが、登録支援機関としての登録を受けられるのです。
登録支援機関の義務
登録支援機関には、外国人への適切な支援の実施と、出入国在留管理庁への各種届出という2つの義務があります。
この2つの義務を怠った場合、支援機関としての登録を取り消されることがあります。
登録支援機関が特定技能外国人に行う支援内容
登録支援機関が特定技能外国人に対して行う支援は、多岐にわたります。
出入国在留管理庁が定める支援計画に含まれている支援内容は、次の10種類です。
それぞれの支援について、実施が義務付けられているものと、任意で行うことが推奨されているものがあります。
- 事前ガイダンスの提供
- 出入国する際の送迎
- 住居の確保の支援
- 生活に必要な契約の支援
- 生活オリエンテーションの実施
- 日本語を勉強する場の提供
- 相談や苦情への対応
- 日本人との交流促進の支援
- 外国人労働者に非がない場合の転職支援
- 外国人労働者への定期的な面談の実施と行政機関への通報
これから、支援内容の詳細を一つずつ見ていきましょう。
1.事前ガイダンスの提供
【義務的支援】
外国人との雇用契約締結前に行う事前ガイダンスで、仕事内容や報酬、日本での生活などについて説明する必要があります。
対面またはテレビ電話などで本人確認ができる方法で実施し、書類の送付だけで済ませてはいけません。
また、外国人が母国の送り出し機関に支払った費用や金額の確認、入出国時のサポートなども含まれます。
事前ガイダンスに必要な費用は、外国人を雇用する企業が負担しなければなりません。
【任意的支援】
事前ガイダンス終了後も、外国人からの相談に随時応じられる体制を整えることが望ましいでしょう。
企業から当面の生活費を貸し付ける場合は、労働法令に抵触しないよう注意が必要です。
また、日本の気候風土や持ち物、必要な金額などの情報を加えることも勧められます。
2.出入国する際の送迎
【義務的支援】
入国時と出国時には、外国人に付き添って、空港や港と雇用企業との間の送迎を行わなければなりません。
出国の際は、保安検査場前まで同行し、外国人が無事に入場できたことを確認します。
【任意的支援】
すでに日本国内に滞在している外国人が特定技能1号に移行する場合は義務の対象外ですが、企業の負担で送迎を行っても構いません。
送迎を行わない場合は、外国人に単独で移動する方法を伝えるなど配慮が必要です。
3.住居の確保の支援
【義務的支援】
外国人が自ら住居を見つけられない場合は、その希望を聞いたうえで、住まいの確保をサポートしなければなりません。
外国人の都合以外で転居の必要が生じた場合も支援が求められます。
不動産業者の紹介、物件の下見への同行、入居手続きの補助などを行います。
連帯保証人が立てられない場合は、雇用企業が保証人になるか、保証業者を手配するなどの対応が必要です。
企業が社宅を提供する際は、外国人の同意を得ることが必要です。
【任意的支援】
雇用期間終了後、次の就職先が決まるまでの間の住居確保についても、生活に支障が出ないよう企業が支援することが望ましいでしょう。
4.生活に必要な契約の支援
【義務的支援】
外国人が日本での生活に必要な契約を結ぶ際は、手続きに同行したり、補助したりする必要があります。
具体的には、銀行口座の開設、携帯電話の契約、水道光熱費の手続きなどが含まれます。
【任意的支援】
これらの契約内容を変更したり、解約したりする際のサポートは任意とされていますが、トラブル防止のために支援することが望ましいでしょう。
5.生活オリエンテーションの実施
【義務的支援】
外国人が日本に入国したあと、日常生活や仕事を円滑に始められるよう、オリエンテーションを実施しなければなりません。
具体的には、日本の生活に必要な基礎知識、行政手続き、緊急時の対応、法律に関する注意点など、幅広い情報を提供します。
金融機関の利用方法、交通ルール、マナー、災害時の対応など、生活に直結する情報も含まれます。
また、在留資格に関する届出、社会保障や税金の手続き、在留カードの更新など、行政に提出する書類についても説明が必要です。
労働関係法令や人権問題に関する相談先、トラブル発生時の通報先なども伝えておかなければなりません。
オリエンテーションはテレビ電話や動画視聴でも可能ですが、質問に答えられる体制は必須です。
6.日本語を勉強する場の提供
【義務的支援】
登録支援機関は、外国人に日本語を学ぶ機会を提供しなければなりません。
地域の日本語教室やオンライン講座の情報提供、受講手続きの代行など、さまざまな方法が考えられます。
企業が日本語教師を手配して講習を行う際は、外国人の同意が必要です。
【任意的支援】
支援担当者による日本語指導や、能力試験の受験支援など、自主的な学習をサポートすることが望ましいでしょう。
7.相談や苦情への対応
【義務的支援】
外国人から仕事や生活に関する相談や苦情を受けた際は、迅速に対応し、適切な助言を行わなければなりません。
必要に応じて、行政機関への同行や手続きの補助も求められます。
相談には外国人が十分に理解できる言語で対応し、わかりやすい説明を心がける必要があります。
【任意的支援】
事前に相談窓口の一覧を渡しておくことや、企業内に専用の連絡先を設けることで、外国人が相談しやすい環境を整備することが望ましいでしょう。
外国人が病気やケガをした際の対応について、家族への説明やサポートを行うことも有効です。
8.日本人との交流促進の支援
【義務的支援】
外国人が地域社会に溶け込めるよう、自治体やボランティア団体等が開催する交流イベントの情報提供や参加の呼びかけを行います。
イベントへの同行、参加手続きの補助、必要な説明なども支援に含まれます。
日本の文化を学ぶことができるイベントや施設の案内も、理解を深める良い機会となるでしょう。
【任意的支援】
外国人がイベントに参加しやすいよう、企業側で勤務シフトに配慮することが望ましいでしょう。
日本人と外国人の相互理解を深めるための交流会を企業主導で開催するなど、積極的な取り組みも効果的です。
9.外国人労働者に非がない場合の転職支援
【義務的支援】
外国人に責任がない理由で雇用契約を解除する際は、次の就職先を見つけるための支援を行わなければなりません。
関連企業や業界団体を通じて求人情報を探したり、ハローワークに同行したりするなど、再就職に向けたさまざまな支援が求められます。
外国人の希望条件や能力を踏まえたうえで、推薦状を用意することも支援の一環です。
さらに、転職活動を目的とした有給休暇の付与や、社会保険の手続き説明も義務となっています。
企業側の事情でサポートが継続できない場合は、他の登録支援機関や関連企業を手配する必要があります。
10.外国人労働者への定期的な面談の実施と行政機関への通報
【義務的支援】
登録支援機関は、3ヵ月に1回以上、外国人と直接面談し、生活状況や勤務実態を確認しなければなりません。
面談は通訳や専門家を交えて、外国人が十分に理解できる言語で丁寧に実施します。
面談を通じて、法令違反や不適切な扱いが発覚した場合は、労働基準監督署や入国管理局等に通報しなければなりません。
漁船など、長期間連絡が取れない場合でも、定期的に連絡を取り、状況を確認する必要があります。
【任意的支援】
外国人に事前に関係機関の連絡先を伝えておくことで、トラブル発生時の自主的な通報を促すことができます。
登録支援機関への委託は必須?
特定技能外国人の受入れにあたって、登録支援機関への委託は必須ではありません。
企業が自社で支援体制を整えることも可能ですが、人的リソースの確保や専門知識の習得などが必要となります。
一方、登録支援機関に業務を委託すれば、適切な支援の実施が担保されるため、受入れ基準を満たしやすくなります。
企業の実情に合わせて、全面的に委託するか、一部の支援のみを依頼するかを選択することになるでしょう。
ただし、外国人の受入れ実績が乏しく、支援体制が不十分な企業の場合は、すべての支援業務を委託しなければ受入れ許可が下りないこともあります。
委託する登録支援機関の選び方
特定技能外国人の受入れを検討する際は、信頼できる登録支援機関を見つけることが重要です。
数ある登録支援機関のなかから、自社に合ったパートナーを選ぶためのポイントを確認しましょう。
登録支援機関リストをチェック
登録支援機関を探す第一歩は、出入国在留管理庁のホームページで公開されている登録支援機関登録簿を確認することです。
このリストには、登録年月日や事業所名、所在地、対応言語など、登録支援機関の基本情報が掲載されています。
2024年4月26日時点の登録支援機関数は9,726件に上り、そのなかから自社のニーズに合った支援機関を探すことになります。
協議会への加入状況の確認
登録支援機関を選ぶ際は、その機関が分野別の協議会に加入しているかどうかも確認しましょう。
分野によっては、外国人を受入れる企業のみならず、登録支援機関にも協議会への加入が義務付けられている場合があるからです。
自社が関わる業界の規定を確認したうえで、登録支援機関の加入状況をチェックすることが大切です。
登録支援機関の協議会加入が義務の分野 | 登録支援機関が協議会に加入不要の分野 | ||
外食業 | 飲食料品製造業 | 介護 | 建設 |
宿泊 | 自動車整備業 | 素形材産業 | 産業機械製造業 |
航空 | 造船・船用工業 | 電気・電子情報関連産業 | ビルクリーニング |
農業 | 漁業 |
委託費用の比較
登録支援機関への委託を検討する際は、費用面での比較も欠かせません。
出入国在留管理庁の調査によると、登録支援機関への平均委託費用は、外国人一人あたり月額28,386円となっています。
また、およそ9割の企業が月額3万円以下で委託しているという実態もあります。
支援内容や費用は機関ごとに異なるため、平均額を目安としつつ、複数の候補を比較検討することが賢明でしょう。
登録支援機関は特定技能外国人のサポートを行う
特定技能外国人の受入れには、登録支援機関の存在が欠かせません。
生活や仕事のサポートを通じて、外国人が日本で安心して活躍できる環境を整えることが、登録支援機関の役割だからです。
各機関が行う支援内容は多岐にわたり、その多くは法令で義務付けられています。
一方で、企業の事情に応じて任意で提供される支援もあるため、協力関係を築くなかで、最適な支援プランを模索していくことが求められます。
信頼できる登録支援機関を見つけ、適切な支援体制を整備することが、特定技能外国人の受入れ成功のカギを握っているといえるでしょう。