特定技能制度や技能実習制度は、人手不足が深刻化する日本で、外国人の労働力を活用するうえで重要な制度です。
しかし近年では、人材獲得競争の激化や技能実習制度の問題点への指摘などにより、制度の抜本的な見直しを求める声が強まっています。
2024年6月より従来の技能実習制度に変わる「育成制度」が新設され、従来の制度から大きく変更されました。
この記事では、特定技能制度や技能実習制度の見直しによる変更点を詳しく解説し、今後の制度運用について解説していきます。
目次
特定技能制度見直しの背景
特定技能制度が見直された背景には、日本の社会構造の変化と、外国人労働者に関するさまざまな課題が挙げられます。
まず、日本では少子高齢化が急速に進み、生産年齢人口が減少しています。
そのため、多くの企業が労働力不足に悩んでおり、人材確保が喫緊の課題となっているのです。
さらに、台湾や韓国などの近隣諸国の参入も、人材獲得競争激化の要因です。
日本でも魅力的な制度や環境を提供しなければ、優秀な外国人を確保することが難しくなってきています。
技能実習制度については、当初の目的である人材育成と海外への技術移転が、十分に機能していないという指摘がありました。
技能実習生は、長時間労働や低賃金、人権侵害などの問題に直面しているケースも見られます。
また、技能実習制度の在留期間は限定的であるため、産業を支える長期的な人材の確保という観点からは運用が難しい現状もありました。
さらに、キャリアパスの不明瞭さや外国人労働者に対する差別など、現行制度に基づいて日本で働くことに対し、外国人が魅力を感じにくいというのも問題となっています。
このような状況を受け、政府は外国人労働者を受け入れるための新たな仕組みを必要としていました。
特定技能制度の見直しは、これらの課題を解消し、外国人労働者の受け入れ環境を改善することを目的としています。
具体的には、外国人の人権保護とキャリアアップを支援し、すべての人が安全・安心に暮らせるだけでなく、外国人との共生社会を実現することをめざしています。
特定技能制度の見直しによる変更
今回の特定技能制度の見直しにより、大きく分けて10個の変更点が生じました。
それぞれ詳しく解説します。
技能実習制度の廃止
今回の見直しにより、技能実習制度は発展的に解消されていく方針となりました。
改正前の技能実習制度には、技能実習生2号の転籍に制限があり、従事できる業務が限定的であるといった問題点がありました。
技能実習制度の廃止にともない、新たに「育成就労制度」と「企業内転勤2号」が創設されます。
育成就労制度は、外国人の人材確保と人材育成を目的としており、原則3年間の育成機関で、特定技能1号の水準の人材に育成する制度です。
一方、企業内転勤2号は、一定基準に達している企業の外国事業所の職員が、技能の修得などのために来日する際の在留資格です。
なお、技能実習制度は廃止していく一方、特定技能制度は適正化を図ったうえで存続します。
受け入れ対象分野・職種の変更
新たな制度で外国人が従事できる業務範囲は、特定技能の業務区分と同一ではあるものの、「主たる技能」を定めて育成・評価を行う仕組みです。
具体的には、育成開始から1年経過後または育成修了時に試験を義務付け、労働者の技能レベルを評価します。
さらに、農業や林業といった季節性のある分野においては、実情に応じた受け入れ・勤務形態を検討します。
転籍の柔軟化
新たな制度では転籍の制限が緩和され、やむを得ない事情がある場合の転籍の範囲が拡大・明確化されます。
また、転籍に関する補填制度や支援制度の措置も設けられました。
本人の申し出による転籍を許可する要件
計画的な人材育成の観点から、以下の要件を満たせば、本人の申し出による転籍が認められます。
- 同一機関での就労が1年を超える
- 技能検定試験基礎級等や、日本語能力A1相当以上の試験(日本語能力試験N5など)に合格している
- 転籍先の機関に適正性を認められる
なお転籍は、同一業務区分に限られます。
転籍に関する補填制度や支援について
転籍に関する補填制度や支援制度が設けられることとなりました。
内容に関しては次のとおりです。
- 転籍前の受け入れ機関が負担した初期費用については、正当な補塡が受けられるよう措置を講じる
- 監理団体やハローワーク、技能実習機構等による転籍支援を実施
- 育成終了前に帰国した人については、新制度による滞在期間が2年以下の場合、前回とは異なる分野・業務区分での再入国を許可
- 試験合格率などを受け入れ機関や監理団体の許可・優良認定の指標
監理団体のあり方の変化
今回の見直しでは、監理団体のあり方にも変更が加えられ、技能実習機構の監督指導・支援保護機能が強化されました。
また新たに特定技能外国人への相談援助業務が追加されています。
厳格化された監理団体の許可要件は以下のとおりです。
- 受け入れ機関との密接な関係を有する役職員の監理への関与の制限
- 外部監視の強化による独立性・中立性確保
- 職員の配置・財政基盤・相談対応体制等の要件の厳格化
優良な監理団体には、申請書類の簡素化や届出の頻度軽減などの優遇措置があります。
特定技能制度の適正化
特定技能制度は、より適正な運用をめざすために改定が行われました。
新制度から特定技能1号への移行には、以下の条件が設定されています。
- 技能検定試験3級等または特定技能1号評価試験に合格する
- 日本語能力A2相当以上の試験(日本語能力試験N4など)に合格する
なお当面の間は、上記に相当する認定日本語教育機関などでの講習の受講であっても認められる方針です。
また、試験に不合格となった場合でも、最長1年間は在留継続が許可されます。
見直し後は、特定技能外国人に対する支援業務の委託先は、登録支援機関に限定されます。
登録支援機関の職員配置などの登録要件は厳格化され、支援実績・委託費などの開示義務が導入されました。
さらに、業所管省庁によるキャリア形成プランの策定も予定されています。
国や自治体の役割の変化
新制度では、国と自治体の役割も変更されます。
詳細は以下のとおりです。
- 受け入れ体制の強化として、地方入管・新たな機構・労働基準監督署が連携し、不適切な受け入れや雇用を排除
- 制度所管省庁は、業所管省庁と連携や調整を行い、制度運用の中心的な役割を果たす
- 業所管省庁は、受け入れガイドライン・キャリア形成プログラムの策定、分野別協議会の活用等を行う
- 日本語教育機関は日本語教育を適正・確実に実施し、教育水準の維持と向上をめざす
- 自治体は地域協議会へ積極的に参画し、共生社会の実現や地域産業政策の観点から、外国人材の受け入れに関する環境整備を行う
送出機関および送出しのあり方の変化
送出機関および送出しのあり方にも変更がありました。
内容は次のとおりです。
- 二国間取決め(MOC)に基づき送出機関の取締りを強化し、不適切な送出しを防ぐ
- 送出機関・受入れ機関に関する情報の透明性を向上させ、送出国同士の競争を促進し、外国人が来日したあとに生じるミスマッチを防止
- 外国人が送出し機関に支払う手数料を、外国人と受入れ機関が適切に分担する仕組みを導入
日本語能力要件の変更
新制度では、日本語教育支援に取り組むことが、優良受入れ機関の認定要件となりました。
日本語能力要件の変更にともない、受け入れ企業には外国人に対する日本語能力向上の支援が求められます。
それにともなう費用は、ある程度企業側の負担となる可能性があることを、理解しておく必要があるでしょう。
外国人労働者の日本語能力を段階的に向上させるために設けられた指標は、次のとおりです。
就労前 | A1相当(日本語能力試験N5等)の試験に合格するか、相当の講習を受講する |
特定技能1号への移行時 | A2相当(日本語能力試験N4等)の試験に合格する *当面は相当講習の受講も認められる |
特定技能2号への移行時 | B1相当【日本語能力試験N3等)の試験に合格する *各分野でより高い水準の試験の合格を要件として良い |
受け入れ機関要件の変更
特定技能制度の見直しにともない、受け入れ機関の要件にも変更が加えられました。
受け入れ機関に対する要件の変更点は、以下のとおりです。
- 受け入れ人数枠を含む育成・支援体制の適正な設定
- 分野別の協議会加入義務
分野別協議会とは、制度の適切な運用を図るために、所管省庁が特定産業分野ごとに設置する機関のことです。
なお、優良な受け入れ機関には、申請書類の簡素化や届出の頻度軽減などの優遇措置があります。
人権侵害に対する政府の対応の強化
人権侵害に対する政府の対応も強化されました。
内容の詳細は、以下のとおりです。
- 人権侵害行為に対し、現行制度下でも可能な対処を迅速に行う
- 外国人労働者の移行期間を十分に確保し、丁寧な事前広報を行う
- 制度の変更により、現行制度の利用者に不当な不利益がないよう、本人の意向による転籍要件の就労期間に関する経過措置の設定を検討
※当面の間、分野によって1年を超える期間の設定を許可 - 新制度に関する情報発信を適切に行い、関係者の理解を促進
また新制度の施工後も運用状況の検証を継続的に行い、見直しを行います。
特定技能制度の変更点を正しく理解しよう
技能制度の見直しにより、さまざまな変更が行われました。
- 技能実習制度が廃止され、育成就労制度を新設
- 育成就労制度の受け入れ分野は、原則として特定産業分野と同一であり、従事できる業務が明確化
- 転籍の柔軟化により、本人の意思による転籍が可能
- 送出機関や監理団体の要件の見直しや、日本語能力向上のための措置も導入
この記事で紹介した変更点を正しく理解し適切に対応することで、外国人労働者が安心して働ける環境が整い、日本経済や地方産業の活性化につながるでしょう。