日本の製造業界では、慢性的な人手不足が深刻な問題となっています。
この課題に対する有効な解決策の一つとして、注目を集めているのが、外国人労働者の活用です。
外国人労働者を雇用することは、単に労働力を確保するだけでなく、企業のグローバル化や技術交流の促進など、さまざまなメリットをもたらす可能性があります。
本記事では、製造業における外国人労働者の現状や採用のメリット、そして採用する際の流れや注意点について詳しく解説します。
製造業に携わる方々や、外国人労働者の採用を検討している企業の担当者にとって、有益な情報となるでしょう。
目次
製造業で外国人労働者は増加している
製造業における外国人労働者の数は、ここ数年で大幅に増加しています。
厚生労働省が公開している2023年10月末時点の「外国人雇用状況」の届出状況まとめによると、製造業での外国人労働者数は、2008年には約19万3千人でしたが、徐々に増加して、2023年には約55万2千人に達するまでとなりました。
この増加の背景には、いくつかの要因が考えられます。
まず、日本の製造業界が直面している慢性的な人手不足が挙げられます。
また、外国人を受け入れる制度が見直されたことで、より多くの外国人が日本で働きやすくなりました。
さらに、外国人にとっても日本で働くメリットが多いことが、この増加傾向を後押ししています。
高い技術力や安定した雇用環境、そして日本での生活経験など、総合的に見て魅力的な就労先として日本の製造業が選ばれているのです。
製造業で外国人労働者を採用するメリット
外国人労働者を採用することは、製造業者にとって多くのメリットをもたらします。
単に人手不足を解消するだけでなく、企業の国際競争力を高め、新たな成長の機会を生み出す可能性があるのです。
以下では、主な4つのメリットについて詳しく見ていきましょう。
労働力不足を解消できる
外国人労働者の採用は、製造業が直面している労働力不足の解消に大きく貢献します。
必要な労働力を確保することで、生産ラインを強化し、企業の生産性を向上させることができるでしょう。
採用の対象を日本人だけでなく外国人材にも広げることで、求職者の母数が大幅に増加します。
これにより、これまで採用に苦戦していた職種でも、理想の人材に出会える可能性が高まります。
特に、特殊な技能や経験を必要とする職種では人材確保に困難がともないがちですが、グローバルな人材プールからであれば、最適な人材を見つけることができるかもしれません。
国際的な交流の促進ができる
外国人労働者を雇用することで、企業内での国際的な交流が活発になることもメリットです。
この交流を通じて、日本の従業員も新しい視点や方法論を学ぶことができ、イノベーションの源泉となる可能性があります。
異なる国の製造技術や業務プロセスを学ぶことで、国際的な視点を持って技術交流を促進するための大きな機会を得られるでしょう。
外国人労働者との協働が、日本人従業員のグローバルな視野を広げ、将来的な国際ビジネス展開につながる基盤を築く可能性も広げるのです。
グローバル市場へ適応できる
外国人労働者を採用することで、企業がグローバル市場に適応し、国際的な競争力を高めるための重要な戦略となります。
多様な文化的背景を持つ従業員を雇用することで、グローバルな視点を社内に取り入れることができるのです。
特に、海外へのサービス展開を考えている企業にとって、外国人従業員の存在は大きな助けとなります。
現地の法律や習慣、言語の壁は海外進出の際の大きな障壁ですが、対象国出身の従業員がいれば、これらの課題を効果的に乗り越えることが可能です。
彼らの知識や経験は、新市場への進出を円滑にし、ビジネスの成功確率を高める重要な資産となるでしょう。
社内の労働意欲が高まる
外国人労働者の採用は、社内全体の労働意欲を高める効果があります。
多くの外国人労働者は、母国にいる家族への仕送りや自身のキャリアアップなど、明確な目標を持って働いています。
そのため、非常に高い労働意欲を持っていることが特徴です。
熱心に働く外国人労働者の姿は、日本人従業員にも良い影響を与えます。
彼らの頑張る姿を見ることで、日本人従業員も刺激を受け、会社全体の労働意欲が向上する可能性があるでしょう。
結果として、職場の活性化や生産性の向上につながり、企業全体のパフォーマンスを押し上げる効果が期待できます。
製造業で外国人労働者を採用できる在留資格
製造業で外国人労働者を採用する際には、適切な在留資格が必要です。
在留資格は外国人が日本で合法的に働くための大切な要件であり、従事する業務の内容や技能レベルによって異なります。
ここでは、製造業で一般的に使用されることが多い4つの在留資格について詳しく解説します。
技術・人文知識・国際業務ビザ
技術・人文知識・国際業務ビザは、高度な専門的知識や技術を活かした業務を行う外国人材のためのビザです。
製造業では、エンジニアリングや品質管理、国際営業などの分野で活用されることが多くなっています。
このビザの取得には、一定の学歴要件が設けられています。
日本または海外の大学や大学院を卒業・修了すること、あるいは日本の専修学校の専門課程を修了することが必要です。
つまり、高度な専門知識や技術を持つ人材を対象としているため、製造業のなかでも特に技術力や専門性が求められる職種に適しています。
特定活動(告示46号)ビザ
特定活動(告示46号)ビザは、日本の大学などで学んだ幅広い知識と高い日本語能力を活用して働くために認められます。
このビザの特徴は、一定レベル以上の知識や日本語力を必要とする業務であれば、単純作業を含む幅広い業務に従事できる点です。
製造業では、生産ラインでの作業や品質管理、顧客対応などに従事できます。
ただし、このビザを取得するには、日本の大学や大学院を卒業していることが条件です。
そのため、日本での留学経験がある外国人材を採用する際に特に有用なビザといえます。
技能実習
技能実習制度は、日本の技術や知識を習得した外国人が、帰国後にそれらの技術や知識を駆使して自国の経済発展に貢献することを目的とした制度です。
製造業では、生産ラインでの作業や品質管理など、実践的な技能を要する職種で多く活用されています。
技能実習生は通常、最長3年間日本で働くことが可能です。
その後、特定技能ビザに切り替えて継続して勤務するケースも多く見られます。
この制度は、外国人労働者に技能を習得する機会を提供すると同時に、企業にとっては人材確保の手段となっています。
特定技能
特定技能ビザは、日本国内で人材を十分に確保できない分野において、一定レベル以上の専門知識や技能を持つ外国人を受け入れるために制度化された在留資格です。
製造業は特定技能の対象分野の一つとなっています。
このビザは、技能実習を修了した人や、特定の試験に合格した人が取得できます。
製造業では、生産ラインでの高度な作業や品質管理、設備のメンテナンスなど、一定の専門性を要する業務に従事することが可能です。
特定技能ビザでは最長5年間の在留が認められており、技能実習から移行し、国内での就労継続を希望する外国人労働者の受け皿としての機能も果たすものです。
企業にとっては、長期的な人材確保の手段として活用されています。
製造業で外国人労働者を採用する流れ
外国人労働者を製造業で採用する際には、適切な手順を踏むことが重要です。
法令遵守はもちろん、効果的な人材確保のためにも、以下の流れを理解し、慎重に進めていく必要があります。
ここでは、募集から就労開始までの6つのステップについて詳しく解説します。
募集する
外国人労働者の募集は、さまざまな方法で行うことができます。
費用をかけずに募集するには、SNSの活用や日本語学校などとの提携という方法が効果的です。
これらの方法は、対象となる外国人に直接的にアプローチできる利点があります。
一方、より広範囲に募集をかけたい場合は、求人広告や人材紹介会社の利用も検討すると良いでしょう。
募集人数や予算に応じて、最適な募集方法を選択することが重要です。
また、自社のWebサイトに多言語対応の求人ページを設けることも、継続的な人材確保につながります。
選考する
外国人労働者の選考では、通常の採用プロセスに加えて、特別な確認事項があります。
書類選考や面接の際には、在留資格の取得や変更において要件となる、学歴や実務経験などを詳しく確認することが必要です。
学歴や経歴、技術スキルなどの確認はもちろん、現在のビザの状況や日本語能力なども重要なチェックポイントとなります。
特に日本語能力は、職場でのコミュニケーションや安全管理の観点からも非常に重要です。
また、オンライン面接の活用や、実技試験の実施など、候補者の能力を適切に評価するための工夫も必要です。
選考過程を通じて、応募者が自社の企業文化や期待される役割を十分に理解できるよう、丁寧な説明を心がけましょう。
雇用契約を締結する
外国人労働者との雇用契約締結は、慎重に行う必要があります。
契約内容が正確に伝わり、双方が合意した状態を確保することが極めて重要です。
そのため、雇用契約書は外国人労働者が十分に理解できるよう、母国語や簡単な日本語で表記したものを用意することをおすすめします。
これにより、言語の壁による誤解や不明点を最小限に抑えることができます。
契約を結ぶ際は、業務内容や雇用条件が正しく理解されているかどうかを丁寧に確認しましょう。
給与、勤務時間、休日、福利厚生など、すべての契約事項について明確に説明し、質問があれば丁寧に答えることが大切です。
また、契約期間や更新条件についても明確に伝えておくことで、将来的なトラブルを防ぐことができます。
在留資格の申請を行う
外国人労働者を雇用する際、適切な在留資格の取得または変更の申請が必要です。
申請の内容や方法は、労働者の状況によって異なります。
国内に在留している外国人労働者を雇用する場合は、職種や業務の内容に適した在留資格への変更や更新が必要です。
例えば、留学生から就労ビザへの変更などがこれにあたります。
一方、国外から外国人労働者を呼び寄せる場合に行うのは、在留資格認定証明書交付申請です。
この申請が認められると、外国人労働者は自国の日本大使館でビザを取得し、来日することが可能となります。
申請には多くの書類や手続きが必要となるため、専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
また、申請から許可が下りるまでには時間がかかることを考慮し、十分な余裕を持って手続きを進めることが重要です。
外国人雇用状況の届出を提出する
外国人労働者を雇用した場合、「外国人雇用状況の届出」の提出が義務付けられています。
これは、外国人労働者を雇い入れた日の翌月10日までに、事業所を管轄するハローワークに提出しなければなりません。
届出には、外国人労働者の氏名、在留資格、在留期間、国籍、雇入れ年月日などの情報を記載します。
また、在留資格の変更や在留期間の更新、離職があった場合にも届出が必要です。
この届出は、外国人労働者の適正な雇用管理や、不法就労の防止を目的としています。
法令遵守の観点からも、確実に届出を行うことが重要です。
雇用を開始する
必要な手続きがすべて完了したら、いよいよ外国人労働者の雇用を開始します。
雇用開始にあたっては、適切なオリエンテーションを行うことが重要です。
オリエンテーションでは、会社の規則や安全管理について詳しく説明し、日本の職場文化や習慣についても丁寧に伝えましょう。
また、同僚や上司との顔合わせの機会を設けるなど、スムーズな職場適応を支援することが大切です。
雇用開始後も、定期的なフォローアップを行い、外国人労働者が抱える課題や不安を早期に把握し、解決することが求められます。
このような支援体制を整えることで、外国人労働者の定着率向上や生産性の向上につながります。
製造業で外国人労働者を採用する際の注意点
製造業において外国人労働者を採用する際には、安全対策や職場研修、言語や文化の違いへの対応、法規制の遵守など、さまざまな点に注意しなくてはなりません。
外国人労働者が安心して業務に取り組める環境を整えることで、彼らの能力を最大限に発揮してもらい、企業の成長につなげていくことが重要です。
以下では、製造業で外国人労働者を採用する際の具体的な注意点について詳しく解説します。
安全対策と職場研修を徹底する
製造業では、機械の操作や危険物の取り扱いなど、高度な安全基準の遵守が求められます。
外国人労働者がこれらの基準を正しく理解し、適切に行動できるようにするために、入社時や就業開始後の定期的な安全教育と、専門的なトレーニングを徹底することが不可欠です。
日本の製造現場に不慣れな外国人労働者は、事故やトラブルを未然に防ぐための教育が特に重要になります。
安全マニュアルの多言語化や、ビジュアル教材の活用など、外国人労働者にとってわかりやすい教育方法を工夫することで、安全意識の向上と事故防止につなげましょう。
言語と文化の違いを理解する
外国人労働者を採用する際に大きな課題の一つとなるのが、言語の壁です。
コミュニケーションの不足は、業務効率の低下や事故のリスク増加につながる恐れがあります。
そのため、社内での日本語教育の提供や、多言語対応できる人材の配置など、言語面でのサポート体制を整えることが重要です。
また、日本人と外国人では文化背景が異なるため、お互いの文化を理解し尊重し合う姿勢が求められます。
異文化コミュニケーションに関する研修を行い、日本人従業員と外国人労働者の相互理解を促進することで、より円滑なコミュニケーションと協力体制の構築が可能になるでしょう。
製造業での法規制を遵守する
製造業で外国人労働者を雇用する際には、労働基準法や労働安全衛生法など、各種法規制の遵守が求められます。
外国人労働者に対しても、日本人従業員と同等の労働条件や福利厚生を提供することが必要です。
労働時間や賃金、社会保険の加入など、法令違反がないように適切な労働環境を整備しましょう。
また、外国人雇用状況の届出など、外国人労働者の雇用に関する各種手続きを滞りなく行うことも忘れてはいけません。
法規制の遵守は、外国人労働者の権利保護につながるだけでなく、企業のコンプライアンス上もリスク回避につながる重要な取り組みといえるでしょう。
製造業における外国人労働者の推移や採用するメリットを知って参考にしよう
製造業での外国人労働者数は近年急増しており、2008年から2023年にかけて約3倍に増加しました。
この傾向は人手不足やグローバル化への対応を反映しています。
外国人労働者の採用には、労働力不足の解消、国際交流の促進、グローバル市場への適応力向上など多くのメリットがあります。
ただし、適切な在留資格の選択や法令に基づいた手続きが必要です。
採用の流れも慎重に進める必要があり、特に雇用契約締結や在留資格申請には注意が必要です。
外国人労働者の活用は、製造業の新たな競争力となる可能性を秘めています。