特定技能の在留資格を持った外国人を受け入れる際は、雇用条件を書面で明らかにするよう義務づけられています。
日本とは異なる文化・言語で生活してきた外国人材とのあいだで適切な雇用契約を結び、トラブルを防ぐためにも、雇用条件に対する理解と合意をきちんと得ることが大切です。
雇用契約書や雇用条件書は、法令を遵守する目的だけでなく、外国人材と円滑な雇用関係を築く意味合いでも、重要なものといえるでしょう。
本記事では、特定技能外国人の受け入れ時に必要となる雇用契約書と雇用条件書の内容、作成方法、注意点を解説します。
目次
特定技能の外国人を雇う際に雇用契約書は必要
特定技能外国人を雇用する際、法律上は雇用契約書を作成しなくても問題はありませんが、トラブルを防ぐためにも作成をおすすめします。
雇用契約書とは、特定技能外国人と企業が雇用契約を結んだことを明らかにする書類です。
特定技能の在留資格で認められた範囲の業務に従事する旨や、在留資格が失われたときには雇用契約を終了することなどが記載されています。
また、雇用契約書とあわせて雇用条件書も作成しましょう。
雇用条件書には、勤務時間や給与、休日、所定外労働時間の発生有無など、採用した特定技能外国人の雇用条件を詳しく記載します。
特定技能外国人をはじめとした労働者を雇用するにあたって、企業はこれらの情報を書面などに残し、労働者に渡さなければなりません。
いずれの書類も、外国人労働者が理解できる母国語のものと日本語のものをそれぞれ用意するか、併記が必要です。
雇用契約書と雇用条件書のフォーマットは、出入国在留管理庁ホームページの「特定技能関係の申請・届出様式一覧」からダウンロードできます。
特定技能外国人の雇用契約書・雇用条件書の記載内容
特定技能外国人に交付する雇用契約書と雇用条件書には、どのような内容を記載する必要があるのでしょうか。
順に詳しく解説します。
雇用契約書
雇用契約書に記載する必要があるのは、次の項目です。
- 所属機関名
- 特定技能外国人の署名
- 所属機関代表者の役職・氏名・捺印
- 雇用契約締結日
出入国在留管理庁が配布している特定技能雇用契約書に特別な変更を加える必要はなく、様式どおりに記入すれば問題ありません。
雇用条件書
雇用条件書で明示が必要な事項は、多岐にわたります。
従事してもらう事業所の場所や業務内容、労働時間、給与などの必須情報はもちろんのこと、賞与や職業訓練が存在する企業ではそれらも記載しておきましょう。
就業場所
特定技能外国人が複数の就業先で業務を行う場合、就業場所の項目には、主となる就業先をはじめとして、すべての就業場所を明記する必要があります。
記入漏れがあると、書類の再提出を求められてしまうため注意しましょう。
業務内容
業務内容の項目では、特定技能で認められている特定産業分野12分野のなかから該当するものを記入します。
対象外の分野・業務区分には従事できないため、採用したい特定技能外国人の在留資格や学歴、専攻内容をあらかじめ確認しておくことが大切です。
特定技能は原則として派遣雇用が認められていませんが、農業もしくは漁業分野に限り、派遣での受け入れが可能となっています。
労働時間
労働時間の項目には、始業・終業の時間、所定労働時間、所定外労働時間の有無などを記載します。
所定労働時間とは、休憩時間を除いた実際の勤務時間のことです。
変形労働時間制や交代制の場合、その旨も明記する必要があります。
なお、労働時間をはじめとした雇用条件は、日本人労働者と同等かそれ以上としなければならず、国籍などを理由に長時間労働を強いるような差別的な対応は認められません。
賃金
賃金の項目には、基本賃金や手当のほか、所定外労働時間に働いた場合の賃金の割増率、締め日・支払日、支払方法などの記入事項があります。
抜け漏れのないよう、慎重に作成を進めましょう。
固定残業代を導入している場合は、固定残業代を除いた月給や日給を記入してください。
あわせて、固定残業代の範囲を超えた時間外労働が発生したときには、割増賃金を追加で支払う旨を明記する必要があります。
その他
その他、以下のような項目も明示が必要です。
- 休憩時間、休暇、休日
- 退職に関する事項(自己都合退職や解雇の際の手続きなど)
- 健康診断の実施日
- 社会保険や労災保険の適用
雇用した外国人のための相談窓口を設けている企業では、担当部署・担当者名・連絡先も記入します。
特定技能の外国人の雇用契約書・雇用条件書の記入例
作成した雇用契約書と雇用条件書は、どちらも雇用する特定技能外国人に内容を理解・承諾してもらわなければなりません。
ここでは、出入国在留管理庁ホームページからダウンロードできる雇用契約書と雇用条件書のフォーマットをもとに、具体的な記入例を見てみましょう。
雇用契約書の記入例
出典:特定技能関係の申請・届出様式一覧「第1-5号 特定技能雇用契約書」│出入国管理庁
※上記様式を元に加工して作成
雇用契約書の作成時は、次の項目を正確に記入しましょう。
- 所属機関名
- 所属機関代表者の役職名・氏名・捺印
- 特定技能外国人の署名
- 雇用契約締結年月日
記入すべき項目は多くないものの、本文には特定技能外国人を雇用するうえで重要なことが明記されているため、内容を理解してもらえるよう交付時にきちんと説明します。
また、上記でも触れたとおり、雇用契約書は日本語のものだけでなく、特定技能外国人自身の母国語での作成が必要です。
出入国在留管理庁ホームページの「英語及び9か国語による様式について」から、英語やベトナム語、タイ語、中国語など、外国人本人の母国語のものをダウンロードしましょう。
雇用条件書の記入例
出典:特定技能関係の申請・届出様式一覧「第1-6号 雇用条件書」│出入国管理庁
雇用条件書は記入欄が多くありますが、どの項目も労働関係法令に反しないよう注意しなければなりません。
- 雇用契約期間
- 就業場所
- 業務内容
- 労働時間
- 休日
- 休暇
- 賃金
- 退職に関する事項
- その他
雇用契約書と同様に雇用条件書も、日本語のものと雇用する外国人本人の母国語での作成が必要です。
出入国在留管理庁ホームページ「英語及び9か国語による様式について」より、該当する言語の雇用条件書をダウンロードして使用しましょう。
雇用契約書・雇用条件書のほかに必要な書類
雇用契約書と雇用条件書以外にも、特定技能外国人の受け入れにあたって企業が用意すべき書類はいくつかあります。
なかには外国人本人の署名が必要となる書類も存在するため、早めに準備を進めましょう。
- 賃金の支払(雇用条件書の別紙)
- 特定技能外国人の報酬に関する説明書
- 健康診断個人票 ※外国人本人の署名が必要
- 1号特定技能外国人支援計画書 ※外国人本人の署名が必要
- 雇用の経緯に係る説明書 ※外国人本人の署名が必要
雇用条件書とともに作成する賃金の支払という書類では、記入ミスに注意するだけでなく、基本賃金が最低賃金を下回っていないか十分に気を付けます。
雇用する外国人に対しても、基本賃金と手取り金額で認識のズレが生じないよう、控除についてきちんと説明し、理解できたか確認をとりましょう。
特定技能外国人の雇用契約書・雇用条件書に関する注意点
特定技能外国人を受け入れる企業が雇用契約書と雇用条件書を作成・提出したあと、内容に変更が生じた場合には、出入国在留管理局へ届け出を行わなければなりません。
また、雇用時にこれらの書類を提出して終わりではなく、企業は特定技能外国人を受け入れ続ける限り、定期報告の義務を負う点にも注意が必要です。
変更があった場合の対応
取り決めた雇用条件の内容を書類にまとめ、管轄の出入国在留管理局へ提出したあと、その内容に変更が発生した場合には、随時届出と呼ばれる届け出を行います。
変更事項が発生してから14日以内に、「特定技能雇用契約の変更に係る届出書」を管轄の出入国在留管理局に提出するようにしてください。
随時届出を行わなかった場合、特定技能外国人を一定期間雇用できなくなるなど、企業にペナルティが科される可能性もあります。
変更が生じた項目によっては追加資料が求められるため、期限内に届け出を済ませられるよう、早めに確認しておきましょう。
分野別の基準への適合
特定技能外国人の受け入れは計12の特定産業分野で認められていますが、分野によっては報酬形態や雇用形態などに関する細かい基準が設けられています。
例えば、建設分野の報酬形態は原則として月給制しか認められていないほか、特定技能外国人を派遣雇用できるのは2024年現在で農業・漁業分野のみです。
自社が該当する分野の基準を確認したうえで、雇用契約の締結・書類作成へと進みましょう。
保管義務
雇用契約書をはじめとした書類は、適切な保管が求められます。
特定技能外国人との雇用契約が終了しても、契約終了日から1年以上は書類の保管義務があるため、破棄せずきちんと取っておきましょう。
定期報告
特定技能外国人を受け入れた企業は、四半期ごとに定期報告として次のような書類を提出する必要があります。
- 受入れ・活動状況に係る届出書
- 特定技能外国人の受入れ状況・報酬の支払状況
- 賃金台帳の写し(特定技能外国人と日本人労働者それぞれの写し)
これらの書類は、特定技能外国人が適切な環境で就労できているかを確認するために必要不可欠なものです。
登録支援機関に支援を委託せず自社で対応している場合には、「支援実施状況に係る届出書」「1号特定技能外国人支援対象者名簿」の提出も必須です。
定期報告を怠った場合、特定技能外国人の受け入れが認められなくなってしまう可能性もあるため、期間内に忘れず書類を提出しましょう。
事前ガイダンス
雇用する特定技能外国人に対して実施する事前ガイダンスは、日本で暮らすうえで必要な知識などを提供する大切な機会です。
このタイミングを利用して、作成した書類の内容をあらためて理解してもらいましょう。
事前ガイダンスは義務的支援の一つとなっています。
自社での支援が難しい場合には、登録支援機関への委託を検討してみてください。
特定技能雇用契約書のポイントを押さえよう
特定技能外国人を新たに受け入れる際は、雇用契約書と雇用条件書の作成が必要です。
書類の内容は外国人にも理解してもらわなければならないため、日本語だけでなく相手の母国語でも作成しましょう。
いずれの書類も、出入国在留管理庁のホームページからフォーマットをダウンロード可能です。
雇用契約書や雇用条件書を出入国在留管理局に提出したあと、労働条件などに変更が生じたときには、随時届出を怠らないようにします。
書類の不備不足がないよう早めに準備することで、特定技能外国人の受け入れを円滑に進められるでしょう。