特定技能外国人の受け入れを行う場合、採用前から採用後まで、多くの費用が発生する可能性があります。
人材採用のためのコストや給与をはじめとした外国人本人に支払う費用、在留資格を保持し続けるための更新費用など、外国人の状況によって必要な費用はさまざまです。
本記事では、特定技能外国人の受け入れの際に必要となる費用の概要と相場を解説します。
費用を抑えるためのポイントと注意点も、あわせて知っておきましょう。
目次
特定技能外国人を受け入れる場合に費用はかかる?
介護分野や宿泊分野、建設分野などの産業分野で特定技能外国人を雇用したい場合、人材採用コストが発生します。
無事人材を採用できた暁には、外国人本人に給与などを支払う必要があるでしょう。
このように特定技能外国人の雇用にあたっては、受け入れ前から受け入れ後までさまざまな費用がかかるため、あらかじめ概算を把握しておくことが重要です。
ここでは、特定技能外国人の受け入れに際して必要になる、主な費用を解説します。
採用に関する費用
自社の求める条件や希望に合った特定技能外国人を雇用するには、人材紹介料、送り出し機関への手数料などの採用コストが発生します。
採用活動が長期化するとコストは高くなりやすくなるため、注意しましょう。
人材紹介料
人材紹介会社や登録支援機関を活用して特定技能外国人の採用を行う場合、人材紹介手数料の支払いが必要です。
人材紹介事業者や登録支援機関に依頼し、特定技能外国人を採用すると、一般的には人材一人あたり10万〜30万円ほどの紹介手数料がかかります。
費用を抑えたいときには、自社で採用活動を行うのも一つの方法ですが、外国人採用のノウハウがない企業では手間と時間がかかるかもしれません。
採用の工数を減らしたい、自社とのマッチ度が高い人材を見つけたいというときには、人材紹介会社などの力を借りることも前向きに検討しましょう。
送り出し機関への手数料
送り出し機関への手数料は、国外に住んでいる特定技能外国人の受け入れを行う場合に発生する費用です。
フィリピンやベトナムなど特定の国から人材を受け入れる際は、送り出し機関を通さなければなりません。
送り出し機関へ支払う金額は、国によっても異なりますが、10万〜60万円と幅広く見積もっておきましょう。
また、技能実習2号修了前の人材を雇用する際は、日本語試験と分野ごとに実施される技能試験に合格してもらわなければならず、その教育費用は企業負担となります。
人材のスキルレベルによっても、送り出し機関へ支払う費用は大きく変動するため、事前に採用したい外国人のスキルを確認しておいてください。
本人に払う費用
特定技能外国人の採用後、本人に払うべき費用として、給与や家賃補助費用、そして渡航費用などが挙げられます。
いずれの費用も、外国人の日本での生活を支援するために必要なものです。
給与
特定技能外国人に支払う給与は、同事業所で同じ業務をこなしている日本人スタッフと同等以上の金額でなければいけません。
特定技能外国人だけでなく、その他の在留資格を持つ外国人を採用する場合であっても、国籍を理由とした待遇の差を設けてはならないと定められているためです。
地域ごとの最低賃金を下回らないように注意しつつ、日本人スタッフと同等の給与体系を整備する必要があります。
家賃補助費用
特定技能外国人が住む住居に対し、家賃補助費用が必要となる場合もあります。
国外に居住している外国人が、日本の住居の賃貸契約を結んだり、水道・ガスなどのライフラインを確保したりするのは難しいため、これらに関しても企業側での支援が必要です。
家賃補助の金額は地域や物件によって異なりますが、毎月数万円程度の費用が発生すると考えておきましょう。
渡航費用(取り決めや要請がある場合)
特定技能外国人が日本へ入国するための渡航費用は、日本と送出国の二国間協定により、受け入れを行う企業側が負担するよう取り決められているケースで発生します。
また、二国間協定を結んでいる国でなくとも、送り出し機関が受け入れ企業に対して費用負担を求める場合があるでしょう。
ただし、取り決めや要請がない場合、入国前に本人の承諾を得ていれば、企業が渡航費用を負担する必要はありません。
渡航費用の扱いについては、事前に外国人本人と話し合い、合意を取っておくことが重要です。
健康診断費用
特定技能制度により、企業は特定技能外国人に健康診断を受けさせる義務を負います。そのため、就労前健康診断・定期健康診断費用の支払いが発生します。
健康診断は国内と国外のどちらで受けても構いませんが、健康診断個人票にある診断項目を検診しなければなりません。
健康診断費用は、一人あたり数千~1.5万円程度かかるため、受け入れ人数分の費用を見込んでおきましょう。
特定技能外国人のビザの申請や支援に必要な費用
特定技能外国人の受け入れに際しては、在留資格の申請や各種支援に関する費用も発生します。
自社での対応が難しい場合、外部の専門家や登録支援機関を活用してみてください。
在留資格申請にかかる費用
特定技能の在留資格申請は、受け入れ企業で行うことも可能です。
しかし、準備すべき書類は多く、企業にノウハウがない場合は対応が困難であることから、外部の登録支援機関や司法書士など専門家への委託を検討する必要もあります。
特定技能の在留資格申請委託費用は、外国人一人あたり10万~20万円程度が相場ですが、申請人数が多いほど割安になるケースもあるでしょう。
在留資格申請は、特定技能外国人の受け入れに必要不可欠なステップであり、適切に手続きを進めなければ採用した人材は日本で就労できません。
申請方法に不安があれば、専門家への依頼をおすすめします。
義務的支援にかかる費用
特定技能外国人を雇用するには、受け入れ企業は事前ガイダンスの提供や出入国にあたっての空港への送迎など、義務的支援を実施する責任を負います。
これらの支援を自社で行うことも可能ですが、ノウハウがない場合には、登録支援機関への委託も視野に入れましょう。
委託する場合は、特定技能外国人一人につき月1.5万~3万円程度の費用が発生します。
義務的支援は、特定技能外国人の円滑な就労と生活を支えるためにも欠かせないため、登録支援機関を利用しないのであれば、社内の支援体制をきちんと整えることが大切です。
特定技能に関する費用で本人負担になるものは?
特定技能外国人の受け入れに際して、あらゆる費用が企業負担となるわけではなく、外国人本人が支払っても良い項目もあります。
例えば渡航費用や日本での住まいの準備費用などは、話し合いを行ったうえで外国人本人の負担としても問題ありません。
とはいえ、これらの費用も企業が負担したほうが、日本での就労を希望する外国人にとっては魅力的な職場となるでしょう。
渡航費用
技能実習生を受け入れる場合には、企業による渡航費用の負担が必須ですが、特定技能外国人が日本に来る際の渡航費用は、本人による負担で問題ないとされています。
二国間協定での取り決めや送り出し機関からの求めがなければ、合意のうえで外国人の自費から渡航費用を支払ってもらうことが可能です。
一方で、渡航費用を企業負担として求人を出すことで、応募者の母数を増やせる可能性もあります。
優秀な人材を確保するために、渡航費用は企業負担を前提として採用活動を進めるのも一案です。
費用の負担を避けたい場合にも、きちんと事前に外国人本人と話し合って了承を得るようにしましょう。
住居の準備費用
すでに国内に在住しており、自分で住居を準備できるという特定技能外国人に対しては、受け入れ企業側が住居の準備費用を負担する必要ありません。
渡航費用同様に、外国人本人とよく話し合って、住居の準備費用は自費での負担でも問題ないとの合意を得ておきましょう。
ただし、国外で採用した外国人を日本に呼ぶ場合には、本人による手続きが物理的に困難であるため、受け入れ企業で準備を行います。
また、外国人が住居を借りるための初期費用を用意できないときには、企業側で立て替えるなどの支援も必要になるかもしれません。
【パターン別】特定技能の外国人を雇用する際の費用相場
特定技能外国人を雇用する際にかかる費用の相場は、採用時点で外国人がどこに居住しているのか、自社で支援や在留資格申請手続きを行うのかなど、状況によって異なります。
ここまでの内容をふまえて、以下3パターンそれぞれで発生する費用の相場を確認してみましょう。
- 国外在住の特定技能外国人を雇用する場合
- 日本在住の特定技能外国人を雇用する場合
- 技能実習2号から特定技能1号へ移行する場合
順に解説します。
国外在住の特定技能外国人を雇用する場合
国外に住んでいる特定技能外国人の場合、雇用にかかる費用相場は以下のとおりです。
必要な費用 | 相場 |
人材紹介手数料 | 10万~30万円 |
送り出し機関への手数料 | 10万~60万円 |
入国時の渡航費用 | 5万円~ |
健康診断費用 | 数千~1.5万円 |
住居の準備費用 | 居住状況による |
在留資格申請費用(委託する場合) | 10万~20万 |
在留資格更新費用(委託する場合) | 4万~14万円 |
義務的支援委託費用 | 一人あたり月1.5万~3万円 |
合計 | 42万~134万円 ※住居の準備費用は除外、健康診断費用は1.5万円として計算 |
ここでは、給与と家賃補助費用を除いて計算しています。
国外にいる特定技能外国人を採用し、日本に呼び寄せるときには、送り出し機関への手数料や渡航費用など、国内在住者を雇用する場合とは異なる費用が発生します。
日本在住の特定技能外国人を雇用する場合
日本在住の特定技能外国人を受け入れる場合、必要な費用の相場は以下のとおりです。
必要な費用 | 相場 |
人材紹介手数料 | 10万~30万円 |
在留資格申請費用(委託する場合) | 10万~20万円 |
在留資格更新費用(委託する場合) | 4万~14万円 |
健康診断費用 | 数千~1.5万円 |
義務的支援委託費用 | 一人あたり月1.5万~3万円 |
合計 | 27万~69万円 ※住居の準備費用は除外、健康診断費用は1.5万円として計算 |
これらの費用に、給与や家賃補助費用が加わります。
すでに日本国内に住んでいる特定技能外国人を採用する場合には、送り出し機関への手数料や渡航費用がかかりません。
住居に関しても、外国人本人から了承を得られれば企業側は準備を行う必要がないため、比較的費用を抑えやすいでしょう。
技能実習2号から特定技能1号へ移行する場合
自社で受け入れている技能実習生が特定技能へ移行する場合、人材紹介手数料などは発生しないのが特徴です。
また、特定技能の在留資格申請前1年以内(国外在住の外国人であれば3ヵ月以内)に健康診断を実施していれば、あらためて健康診断を行う必要もありません。
自社で受け入れている外国人が技能実習2号から特定技能1号になる場合、負担が必要な費用の目安は以下のとおりです。
必要な費用 | 相場 |
特定技能試験 | 0.1万~9.5万円 |
在留資格申請費用(委託する場合) | 10万〜20万円 |
在留資格更新費用(委託する場合) | 4万~14万 |
義務的支援委託費用 | 一人あたり月1.5万~3万円 |
合計 | 16万~47万円 |
技能実習から特定技能へ移行するための試験費用は、特定産業分野・職種により異なります。
これらに給与と家賃補助を加えた費用が目安となるでしょう。
特定技能外国人の雇用に関する費用を抑えるポイント
特定技能外国人の雇用時にかかる費用をできるだけ抑えるには、いくつかのポイントがあります。
すでに自社で外国人を雇用している場合、知人を紹介してもらうことで採用コストを抑えることが可能です。
それと同時に、離職による人材不足を防ぐための組織体制を整えるよう努めましょう。
すでに雇用している特定技能外国人から紹介してもらう
現在雇用している特定技能外国人から人材を紹介してもらえる場合、人材紹介業者を介さずに雇用できるため、人材紹介手数料を支払う必要がありません。
外国人は、同じ出身国の方同士でコミュニティを築き上げているケースも多く、その力を借りることで、費用や時間を抑えつつ採用活動を進められます。
自社で手続きする
登録支援機関や司法書士などの専門家に委託せず、自社で必要な支援と手続きを行うことでも、費用は抑えやすくなります。
特定技能外国人に対する支援を社内で完結させる場合、支援責任者と支援担当者を専任し、支援計画を実施するなどの条件を満たす必要があります。
事前ガイダンスの実施やライフライン確保のためのサポート、出入国時の送迎など、行うべき支援内容は幅広いため、対応できるかどうか入念に検討しましょう。
自社で在留資格に関する手続きを行う場合は、入管法や労働関係法令に関する知識が必須となります。
手続きを滞りなく進められるよう、必要書類を不備不足のないよう早めに準備することも大切です。
離職や辞退を防ぐ
特定技能外国人の離職や辞退を減らすことができれば、新しい人材を採用するための人材紹介手数料や在留資格申請費用などは発生しません。
雇用している外国人が日本での生活に馴染めるようオリエンテーションを実施したり、わかりやすく簡単な言葉で説明したりといった工夫で、働きやすい職場をめざしましょう。
入国時や一時帰国の渡航費、家賃補助費用などを受け入れ企業が支払い、雇用する外国人の金銭的な負担を抑えることも、離職防止につながります。
特定技能外国人を雇用する際の費用に関する注意点
特定技能外国人の雇用時にかかる企業側の費用を抑えたいからといって、義務的支援にともなう費用を外国人本人に負担させてはいけません。
居住費や水道光熱費など、外国人に負担してもらって問題のない費用もありますが、必要以上に給与から天引きする行為は禁じられています。
義務的支援に関わる費用を外国人本人に負担させない
義務的支援を外部へ委託するかどうかに関わらず、特定技能外国人の義務的支援に関する費用を、外国人本人に支払わせることは認められません。
法務省による「特定技能外国人受入れに関する運用要領」では、特定技能外国人本人に義務的支援費用を間接的・直接的に支払わせないよう明記されています。
義務的支援にともなって発生する費用は、受け入れ企業で負担するようにしましょう。
外国人本人が帰国費用を負担できなければ企業が負担する
特定技能外国人の帰国費用は、原則として本人が負担します。
しかし、本人で資金を準備できない場合、受け入れ企業側で帰国費用を負担し、スムーズに日本を出国できるようサポートをしなければなりません。
状況によっては、航空券の予約や帰国までの生活支援も必要となります。
業績悪化といった理由から、企業側でも帰国費用の支払いが難しくなるケースも想定されるため、あらかじめ登録支援機関などと協定を結んでおくと良いでしょう。
居住費・食費・水道光熱費などを必要以上に徴収しない
特定技能外国人から合意が得られているとき、家賃や食費、水道代、光熱費などは本人負担で問題ないものの、必要以上の金額を徴収してはいけません。
本人の了承があれば、これらの費用を給与から天引きもできますが、適正内の金額であることが条件です。
特に、自社の借上げ物件や雇用主の所有物件に住んでもらう場合、敷金・礼金、仲介手数料は特定技能外国人から徴収自体できないため注意しましょう。
特定技能外国人の受け入れ費用を知って参考にしよう
特定技能外国人の受け入れにあたっては、採用活動時の人材紹介費用や在留資格に関する手続きの委託費用、外国人本人に支払う給与など、さまざまな費用が発生します。
特に、国外在住の特定技能外国人を採用する場合、送り出し機関への手数料をはじめとして、国内在住者の雇用とは異なる費用が必要となることを覚えておきましょう。
すでに自社で働いている特定技能外国人から人材を紹介してもらったり、社内で在留資格に関する手続きを行ったりすれば、費用負担は抑えられます。
また、外国人が働きやすい就業環境を整備して、離職・辞退を減らすことも、採用コストの削減に有効です。
なかには外国人本人に負担してもらえる費用もありますが、義務的支援に関する費用は企業負担としなければなりません。
自社で支払うべき費用を正しく把握したうえで、適切に特定技能外国人を受け入れましょう。