少子高齢化の影響から労働人口が減少している日本は、人手不足の状態にあります。
これにともない、さまざまな産業分野で外国人雇用を推進する動きが強まりました。
ただし、求人募集や面接などの採用活動だけでなく、言語・文化の異なる外国人労働者を育成するためには相応のコストがかかることも事実です。
このとき、国が用意している助成金や支援制度を活用することで、人手不足に悩む企業の人材課題解決に役立つでしょう。
本記事では、外国人雇用に関する助成金の種類や利用時の注意点を解説します。
「外国人労働者の雇用にあたってコストが気になる」「助成金や支援制度でいくら受け取れるのかが知りたい」という方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
外国人雇用における助成金(補助金)
日本政府は、外国人労働者の受け入れを支援するため、企業に対してさまざまな助成金・補助金制度を用意しています。
いずれの制度も、外国人を採用すれば必ず受け取れるというわけではありませんが、条件を満たすことで申請が可能です。
外国人雇用に関する助成金・補助金を利用したい場合、まずは以下2点を理解しておきましょう。
- 外国人雇用における助成金の目的
- 「助成金」と「補助金」の違い
外国人労働者を採用するメリットや注意点、求人募集から就労までの流れを知りたい方は、こちらの記事をご参照ください。
外国人雇用における助成金の目的
外国人雇用における助成金や補助金は、外国人労働者が日本で働く際に、安心して能力を発揮できる環境を整えるために欠かせないものです。
助成金・補助金制度には、以下のような目的があります。
- 雇用の安定
- 人材育成
例えば、外国人を採用する際にかかる費用の一部を国が補助すれば、外国人労働者のために職業訓練を実施できたり、経営が悪化しても人員整理をせずに済んだりします。
また、適切な研修・教育を受けた外国人労働者は、能力や定着率の向上を期待できるでしょう。
このように助成金や補助金は、外国人労働者と企業の両方にとってメリットをもたらす仕組みです。
「助成金」と「補助金」の違い
助成金と補助金には、次のような違いがあります。
項目 | 助成金 | 補助金 |
主な管轄機関 | 厚生労働省 | 経済産業省 |
資金の源泉 | 雇用保険 | 法人税 |
受給条件 | 条件を満たせば受給可 | 上限に達すると受給不可 |
公募期間 | 通年など長期間 | 一定期間で締め切り |
助成金と補助金はどちらも企業に対する給付金で、付与という形式になり、返済や使い道の報告などは必要ありません。
また、資金源が税金であるという点でも両者は共通していますが、助成金は主に厚生労働省、補助金は経済産業省の管轄となるのが違いです。
また、助成金の多くは要件を満たせば受け取れるのに対し、補助金は予算が決まっています。
上限人数や上限額の関係で補助金が受給できないケースもあるため、注意しましょう。
外国人雇用に関する助成金一覧
2024年3月現在、外国人雇用にあたって利用できる可能性のある助成金は、以下のようなものがあります。
- 人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)
- 雇用調整助成金
- トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)
- 人材開発支援助成金(人材育成支援コース)
- キャリアアップ助成金(正社員化支援・処遇改善支援)
- 業務改善助成金
それぞれの特徴を見ていきましょう。
詳しい要件は、厚生労働省のホームページで確認してみてください。
人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)
人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)は、日本で生活する外国人労働者の就労環境の改善を目的とした助成金です。
外国人労働者が働きやすい環境を整備するため、次のような用途において経費の一部を助成します。
- 通訳や翻訳サービスの利用
- 資料の多言語化
主な受給条件は、外国人労働者の環境整備措置を新たに講じている事業主であり、なおかつ外国人労働者の採用から一定期間後の離職率が10%以下であることなどです。
支給対象となる経費の1/2(上限52万円)、さらに要件を満たす場合は2/3(上限72万円)が助成されます。
外国人労働者は、日本の法律やルールへの知識不足、言語の違いなどから労働条件の不一致、解雇といったトラブルに発展しがちです。
雇用調整助成金
雇用調整助成金は、経済的な理由で事業縮小した企業が、解雇を行わずに従業員を雇い続けることを支援するための助成金です。
制度の利用により、企業は経済状況の悪化による人件費の負担を軽減できます。
労働者一人につき1日あたり8,490円が上限です。
さらに教育訓練を実施した場合には、労働者一人あたり1,200円の加算を受けられます。
雇用調整助成金を活用すれば、従業員の生活を守りつつ雇用を維持できるでしょう。
トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)
トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)は、新たに求職者の雇用を検討する企業に対して、一定期間の試用雇用を支援するための助成金です。
職業経験が浅いことで就業が難しい人材でも企業は一定期間試験的に雇用でき、外国人労働者の職務の適性や能力を確認できます。
また、外国人労働者としても、職場の雰囲気や仕事内容を体験する機会を得られる点がメリットです。
助成金は、原則3ヵ月のトライアル期間中に発生する給与の一部をカバーするものであり、労働者一人につき月4万円が上限となります。
助成金を利用すれば、企業と外国人労働者の雇用のミスマッチを防ぎ、適切な雇用を確保できるでしょう。
人材開発支援助成金(人材育成支援コース)
人材開発支援助成金(人材育成支援コース)は、スタッフのスキルと資質の向上を目的とした研修を実施する企業に対し、その費用の一部を補助する制度です。
助成金の活用目的には、以下のようなものが挙げられます。
- 職業訓練による専門知識・技能の習得
- キャリアアップの支援
訓練開始1ヵ月前までに訓練実施計画を管轄の労働局に提出し、通常の業務とは切り離した形で職業訓練などを実施することが主な受給条件です。
助成金は、講師を招いた場合の謝礼や訓練のための設備投資、カリキュラム作成を外部委託託した場合にかかった経費などに充てられます。
キャリアアップ助成金(正社員化支援・処遇改善支援)
キャリアアップ助成金(正社員化支援・処遇改善支援)は、非正規雇用の従業員を正社員化または処遇改善の取組に対しての助成金であり、適用される従業員の国籍に制限はありません。
受給するには、キャリアアップ管理者を設定したうえでキャリアアップ計画書を作成・進行させることなどが条件となり、支援コースによって助成額はさまざまです。
賃金の増額や手当ての支給といった処遇改善は、労働環境の質を向上させるほか、労働者の経済的な安定にもつながります。
雇用形態を問わず公平な待遇を促進し、スタッフのモチベーション向上やキャリアパスを充実させることが、この助成金の目的です。
業務改善助成金
業務改善助成金は、業務プロセスの効率化や生産性の向上をめざすとともに、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた企業に対して、改善活動を支援するための助成金となります。
中長期的な企業の競争力を強化するとともに、事業所内の最低賃金を引き上げて、働きやすい職場環境を作ることが制度の目的です。
次のような業務改善に必要な経費の一部が助成されます。
- ITツールの導入
- 回転率向上のための店舗改装
- 専門家による業務フロー見直し
企業は改善計画の策定から実施、成果の検証までを行い、過程で発生する費用の支援を受けることが可能です。
外国人雇用に関する支援制度
外国人雇用時には、次のような支援制度も活用できます。
- 国際化促進インターンシップ事業
- 製造業外国従業員受入事業
- 外国人雇用管理アドバイザー制度
- 国際研修協力機構(JITCO)
助成金同様、これらの支援制度にも適用条件があるため注意しましょう。
国際化促進インターンシップ事業
国際化促進インターンシップ事業は、外国人労働者の受け入れを通じ、日本企業の海外進出を促進するための支援事業です。
高度な知識・技術を持った外国人労働者をインターンシップとして受け入れることで、グローバルな視点や異文化コミュニケーション能力を身につけられます。
2024年度に実施されているインターンシップの受け入れ方法は、以下の3通りです。
インターンシップ形式 | 説明 |
---|---|
国内留学生の対面参加型 | 留学中のインターン生が企業に直接出向いて参加する |
海外在住人材のオンライン参加型 | インターン生がオンラインで海外から参加する |
海外在住人材の対面参加型(来日) | 海外からインターン生が来日し宿泊してインターンを行う |
海外への事業拡大をめざす中小企業がインターンシップ生を受け入れることで、人材育成支援費用として人材一人あたり1日2,000円を受け取れます。
また、受け入れ担当者に対する研修やインターンシップ計画の策定支援などを受けることも可能です。
製造業外国従業員受入事業
製造業外国従業員受入事業は、海外展開や国際競争力の強化のため、外国人従業員の受け入れを支援する制度です。
日本と海外それぞれに事業所を持つ企業がこの制度を利用することで、外国人労働者に日本のノウハウを移転させたうえで帰国させ、その技術を海外に普及させられます。
受け入れ企業は、あらかじめ製造特定活動計画を作成し、経済産業省の認定を受けなければなりません。
また、受け入れた外国人従業員の帰国後1年間は、解雇が禁じられています。
外国人雇用管理アドバイザー制度
外国人雇用管理アドバイザー制度は、企業が外国人労働者を受け入れるにあたって生じる雇用上・業務上の問題について、無料で助言や支援を受けられる国の支援制度です。
外国人雇用に関する法律や手続き、文化的な違いに関する専門知識を持ったアドバイザーが、企業に適切な助言をしてくれます。
日本語の理解がまだ浅い外国人労働者への教育方法や職務配置、退職時の対応などに疑問があるとき、アドバイザーの力を借りることでより適切な雇用管理ができるでしょう。
相談したい場合、最寄りのハローワークで申し込みをしてみてください。
国際研修協力機構(JITCO)
国際研修協力機構(JITCO)は、外国人技能実習制度全般のサポートを行っている内閣府所管の公益財団法人です。
外国人の技能実習生や特定技能外国人の受け入れを支援しており、入国時に必要な出入国在留管理局の手続きから外国人労働者の日本語教育まで、幅広くサポートしています。
また、外国人労働者受け入れを検討している企業に向けて、受け入れ制度の概要や覚えておきたい法令、申請手続きの進め方などを解説するセミナーを実施している点も特徴です。
外国人雇用の助成金を利用する際の注意点
外国人雇用による助成金の活用を検討している場合、以下3つの注意点を念頭に置いておきましょう。
- 就労可能な人材か確認する
- 外国人雇用状況の届出を必ず行う
- 明確な計画を立てて雇用する
雇用する外国人労働者が適切な在留資格を持っていなければ、助成金を受け取るばかりか、自社で働いてもらうこともできません。
不法就労が発覚した場合、罰則の対象ともなりうるため注意が必要です。
就労可能な人材か確認する
助成金や支援制度のなかには、外国人労働者の受け入れを促進する目的のものもありますが、採用にあたっては外国人労働者が就労可能かどうかをきちんと確認しましょう。
就労するための適切なビザや資格がない場合は、助成金の対象外になるだけでなく、法的なリスクも生じる恐れがあります。
外国人の方の在留資格(就労ビザ)は、大きく以下の3つに分類可能です。
- 在留資格に定められた範囲で就労が認められる18種類の在留資格(外交や公用、教授、芸術など)
- 原則、就労が認められない5種類の在留資格(文化活動や短期滞在、留学など)
- 就労活動に制限のない4種類の在留資格(永住者、日本人の配偶者など)
在留資格によっては、就労活動に制限があるため注意しなければなりません。
外国人の方が就労できる業務は在留資格によって決まり、該当しない業務に従事した場合は不法就労です。
企業側が在留資格について理解していなかったとしても、罰則の対象となる可能性があるため、在留カードやパスポートの定期的な確認をおすすめします。
外国人雇用状況の届出を必ず行う
外国人労働者を受け入れるときには、外国人雇用状況の届出が必要です。
企業が外国人労働者を雇用した場合、その労働者の氏名や在留資格などを、外国人雇用状況の届出としてハローワークに提出する義務があります。
雇用開始時だけでなく、終了時にも手続きが必要です。
届け出を怠ったり虚偽の届け出を行ったりした場合、30万円以下の罰金が科せられる恐れがあります。
また、過去1年間に労働関連の違反を行った企業は、助成金の受給対象とならないケースもあるため注意しましょう。
明確な計画を立てて雇用する
外国人雇用に関する助成金は政府による公的なものであり、申請時には計画書などの提出を求められます。
確認事項の多いものだと、支給可否の判断には時間がかかるケースも想定されるでしょう。
また、事業実績報告書などその他の必要書類を求められることもあるため、申請は計画的に進めることが大切です。
また、新たに外国人労働者を受け入れる場合にも、余裕を持ったスケジュールで採用活動を行う必要があります。
求人に対し多くの応募が集まっても、条件に合う人材がすぐに見つかるとは限らず、さらに渡航や入国・在留資格の手続きなどが発生します。
言葉や文化が異なることから、日本人スタッフより育成にも時間がかかる可能性があるため、採用は計画的に進めてみてください。
外国人雇用には助成金制度を活用しよう
多くの企業が直面している人手不足の課題に対し、外国人労働者の受け入れは有効な解決策となるでしょう。
政府もまた、高い技能を持った外国人労働者の受け入れを推進しており、雇用の安定や教育体制の整備といった目的で、企業にさまざまな助成金を用意しています。
現在は外国人雇用管理アドバイザー制度などの支援制度も充実しており、外国人雇用が初めてという企業でも受け入れ体制を整えやすくなりました。
外国人雇用は製造業や飲食業、医療・介護業界など幅広い分野で進んでいるため、コストの面で不安がある方は、助成金の条件やいくらもらえるのかを確認してみましょう。