少子高齢化による人手不足から、外国人労働者の受け入れを進める企業が増えています。
特定の在留資格を持つ外国人労働者は、単純労働だけでなく介護や宿泊業、農業など専門的な業務にも従事でき、人材確保に悩む産業分野にとって今や欠かせない存在です。
ただし、外国人材の雇用手続きや就労ルールは複雑であり、不法就労を防ぐにも幅広い知識が必要になります。
これに対し活躍を期待されているのが、2022年に新しく誕生した外国人雇用労務士(外労士)の資格です。
本記事では、外国人雇用労務士の役割や取得のメリット、外国人雇用管理主任者との違いなどを解説します。
外国人雇用労務士の資格取得を検討している方や、外国人雇用について理解を深めたい方は、参考にしてみてください。
目次
外国人雇用労務士(外労士)とは
外国人雇用労務士(外労士)の資格は、外国人労働者を適切な形で雇用するために必要な知識が備わっていることの証明になります。
外国人雇用労務士の概要を理解したうえで、外国人雇用管理主任者との違い、資格を活かせる業界をチェックしてみましょう。
外国人雇用労務士とはどのような資格?
外国人雇用労務士は、一般社団法⼈全国外国⼈雇⽤推進機構が認定している、2022年に誕生したばかりの⺠間資格です。
外国人労働者の人権や取り巻く環境、採用・労務手続きなど、外国人労働者に関わる幅広い知識を有することを証明できます。
外国⼈雇⽤に関する専門的な知識を習得できるだけでなく、自社における雇用手続きや就労支援などさまざまな実務場面で役立つでしょう。
また、「外国人材受け入れに必要な手続きがわからない」「不法就労のリスクが気になる」など、外国人雇用に関する悩みがある方をサポートすることも役割の一つです。
そのため、外国人材の受け入れを考えている企業の人事労務担当者、キャリアコンサルタント・人材サービス会社の担当者、教育機関の職員などにとって有力な資格といえます。
外国人雇用管理主任者とは何が違う?
外国人雇用労務士は、2022年に認定がスタートした新しい資格です。
混同されやすい資格として2019年に誕生した外国人雇用管理主任者がありますが、いずれも外国人の雇用に関する資格という点では共通しています。
外国人雇用管理主任者も、外国人雇用全体の流れから就労に必要な在留資格、採用後の育成まで、外国人雇用に関する専門知識を習得していることを証明する民間資格です。
ただし、資格の認定団体や試験方法において以下のような違いがあります。
比較項目 | 外国人雇用労務士 | 外国人雇用管理主任者 |
実施団体 | 一般社団法人全国外国人雇用推進機構 | 株式会社東京リーガルマインド |
試験方式 | IBT方式(自宅のパソコンから受験) | CBT方式(全国のテストセンターで受験) |
資格更新頻度 | 2年ごと | 3年ごと |
外国人雇用管理主任者も外国人雇用労務士と同様、外国人材の雇用に携わる方や外国人雇用に関する幅広い知識やノウハウを身につけたい方が対象となります。
外国人雇用労務士を活かせる仕事や業界とは?
外国人雇用労務士は、外国人労働者の雇用に関係するすべての方が対象となる資格です。
【外国人雇用労務士の資格が活かせる仕事】
- 人事労務担当者
- キャリアコンサルタント
- 人材紹介サービス会社の担当者
- 教育機関や日本語学校の職員
- 国際交流を促進するNPO職員
- 社会保険労務士
- 行政書士
- 中小企業診断士 など
例えば、外国人雇用を実施する企業の人事労務担当者がこの資格を取得した場合、履歴書の内容から在留資格や就労できる業務内容が予測できます。
また、キャリアコンサルタントの場合、外国人労働者のキャリア支援に関する専門性が証明でき、より的確なコンサルティングが可能となるでしょう。
国際情勢や外国語を勉強したい大学生や専門学生も、資格取得の対象者です。
これらの知識を深めることで、将来の選択肢や視野を広げられる可能性があります。
外国人雇用労務士が設⽴された背景
外国人雇用労務士が生まれた背景には、言葉や文化の違いから発生するトラブル、過酷な労働環境など、外国人雇用において日本が改善すべき課題があります。
少子高齢化が進む日本では、今後ますます外国人労働者が重要視される見込みです。
しかし、外国人労働者の雇用状況を見ると、不法就労をはじめとした問題点も指摘されています。
令和4年に厚生労働省が発表した調査結果によると、技能実習生が在籍する事業所の約7割で、労働環境の安全性や労働時間に関する労働基準関係法令違反が認められました。
外国人を雇用するにあたって、差別的な待遇をすることは禁じられています。
外国人労働者および企業の双方にとって、クリアな状態で雇用関係を構築するには、グローバル基準での受け入れ体制が必要になるでしょう。
知らず知らずのうちに、誤った価値観で外国人労働者を働かせてしまわないためにも、外国人雇用労務士の専門性が必要となります。
外国人雇用労務士資格の試験概要
外国人雇用労務士試験は、インターネット環境とパソコンがあれば受験できます。
資格認定まで完全オンラインで完結しているため、自宅での受験も可能です。
試験合格後、外国人雇用労務士登録講習を受講すると、外国人雇用労務士を名乗ることが認められます。
外国人雇用労務士の試験概要は、以下のとおりです。
【試験概要】
- 試験方法:IBT方式(自宅で受験可能)
- 問題形式:四肢択一式(80問)
- 試験時間:2時間30分(試験時間120分・本人認証30分)
- 受験料:8,900円(税込)
- 更新時の登録講習:5,000円(税込)
試験時間として2時間30分が設けられていますが、そのうち30分は本人認証のため、問題の解答に使えるのは実際には2時間です。
受験料は8,900円で、認定後も資格を所有し続けるには、2年ごとの登録講習の受講が必要になります。
試験から資格認定までの流れ
外国人雇用労務士試験は、申し込みから受験まですべてオンラインで行われます。
資格認定までの流れは、以下のとおりです。
- 会員登録
- 試験申込
- 試験当日(オンライン受験)
- 登録講習(オンライン視聴)
- 資格認定
試験は年2回に開催され、試験の申込日は公式サイトにて公開されます。
試験当日、公式サイトのマイページから受験しましょう。
合格発表は、約1ヵ月後に会員登録したメールアドレスの案内から確認が可能です。
試験合格後、資格を認定するための登録講習(オンライン)のお知らせが届くため、案内に従って受講してください。
受講したのち外国人雇用労務士の資格が付与され、後日資格証が郵送されます。
試験の範囲
外国人雇用労務士試験の範囲は、外国人雇用労務士公認テキストブックに記載されている以下の内容です。
- 外国人雇用総論
- 外国人労働者の人権
- 外国人労働者の採用と入管法
- 外国人労働者の労務と法務
- 人事制度と人事管理
人材採用や人事に関する内容だけでなく、入管法および労務・法務といった幅広い法律知識も試験の対象範囲となっています。
外国人雇用に関する包括的な知識の習得が必要になるでしょう。
2024年3月時点で問題集や過去問などは販売されていないため、公式テキストを基本として試験対策を進めてみてください。
外国人雇用労務士資格の難易度
外国人雇用労務士資格の難易度を、過去3回の試験合格率から見てみましょう。
試験開催年月 | 受験者数 | 合格者 | 合格率 |
第1回(2022年11月) | 320人 | 186人 | 58.1% |
第2回(2023年5月) | 173人 | 116人 | 67.05% |
第3回(2023年11月) | 141人 | 102人 | 71.33% |
試験合格率はおおよそ60%前後となっており、しっかりと対策をすれば合格可能な難易度といえます。
とはいえ、外国人材の雇用に対する全体的な知識が試験範囲となっているため学習範囲は広く、事前知識がない方は戸惑うこともあるかもしれません。
公式テキストを活用した事前学習のほか、試験実施2週間前から直前対策講座として、弁護士や行政書士による解説動画を視聴できるようになります。
外国人雇用労務士のホームページから10分程度のサンプル動画も閲覧できるため、試験範囲や難易度が気になる方は参考にしてみましょう。
外国人雇用労務士のメリット
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外国人雇用労務士の資格取得には、次のようなメリットがあります。
- 外国人の雇用に関する包括的な知識が身につく
- 2年間有効な登録証によって専門性をアピールできる
外国人雇用労務士の資格は、一度試験に合格すれば名乗り続けられるわけではなく、2年ごとの登録講習の受講が必要です。
そのため、高い専門性があることだけでなく、継続的に知識を深めていることのアピールにもなるでしょう。
外国人の雇用に関する包括的な知識が身につく
外国人雇用労務士の資格取得にあたっては、外国人雇用時におさえておく必要のある法令や注意点など、包括的な知識が身につきます。
知識がつくことで、外国人労働者の受け入れ手続きやキャリアコンサルティングの指導方法など、より実践的な能力の習得もめざせるでしょう。
これらの知識・能力があれば、不法就労や内定後の在留資格申請の不交付・不許可など、さまざまなリスクを未然に防ぐことが可能です。
また、外国人雇用のノウハウを活かし、留学生の就職活動・進路指導のみならず、雇用側の企業に対しても的確なアドバイスができるようになります。
2年間有効な登録証によって専門性をアピールできる
外国人雇用労務士として登録された資格は2年間有効であり、その後も資格更新をし続ける限り、外国人労働者に関する専門家としてブランディングが可能です。
社労士や行政書士、中小企業診断士のような専門家業に就いている方は、外国人雇用についてあらためて知見を深め、取引先に対して専門性をアピールできます。
また、学生の場合は、就職活動で有利になる可能性があるほか、自身のキャリアを広げるきっかけになるかもしれません。
外国人労働者の雇用は今後も増えることが予想されており、外国人雇用労務士の役割もより重要になっていくでしょう。
外国人雇用労務士を取得して、外国人雇用の正しい知識を身につけましょう
外国人雇用労務士は2022年にスタートした新しい資格であり、外国人労働者に関する幅広い知識と実務スキルを身につけることが可能です。
人事労務担当者やキャリアコンサルタント、人材紹介サービス担当者、行政書士などさまざまな職業の方にとって、専門性をアピールできる有効な手段といえるでしょう。
資格試験の申請から認定まですべてオンラインで完結でき、自宅から受験できます。
ただし、試験範囲は専門的な内容となり、公式テキストなどを活用した自己学習は必須です。
資格認定後は名刺や履歴書にも記載できるため、外国人材雇用の実践能力を高めて業務や就職活動に活かしたい方は、取得を検討してみてはいかがでしょうか。