企業内転勤は、グローバル化が進む現代のビジネス世界において重要な役割を果たしています。
こうした現状を受けて認定されている在留資格が、海外の事業所から日本の関連事業所へ一定期間転勤する外国人のための企業内転勤ビザです。
このビザは、国際的な人材の流動性を促進し、企業の成長や技術移転を支援する重要なツールとなっています。
しかし、その取得には特定の条件を満たし、手続きを行うことが必要です。
本記事では、企業内転勤の概要や条件、ビザ申請方法について詳しく解説していきます。
海外人材の受け入れを検討している企業や、日本での勤務を希望する外国人にとって、有益な情報となるでしょう。
目次
企業内転勤とは
企業内転勤は、グローバル企業や多国籍企業が活用する人材戦略の一つです。
この制度により、企業は海外の優秀な人材を日本国内で活用することができます。
企業内転勤の概要や特徴、ビザ取得のパターン、そして審査期間について、以下で詳しく見ていきましょう。
企業内転勤の概要
企業内転勤ビザは、外国の事業所から日本の関連事業所に一定期間転勤する外国人のための在留資格です。
企業内転勤の概要は、以下のとおりです。
ビザの対象となる異動・出向 | 本店(本社)と支店(支社、営業所)での異動 親会社と子会社での異動 子会社と孫会社での異動 親会社と孫会社での異動 子会社での異動 孫会社での異動 関連会社での異動 |
仕事内容 | 在留資格の技術・人文知識・国際業務と同じ内容 |
給料 | 日本人と同等以上 |
雇用期間 | 制限あり |
在留期間 | 5年、3年、1年、または、3ヵ月 |
このビザの目的は、同一企業グループ内での国際的な人材移動を可能にすることです。
同一企業内での異動だけでなく、子会社から関連会社への出向なども対象となります。
具体的には、部署内での異動や支店間での異動はもちろんのこと、親会社から子会社への異動も可能です。
さらに、企業グループ内での異動も認められています。
仕事内容は、技術・人文知識・国際業務の在留資格と同じ内容であることが必要です。
給与に関しては、日本人と同等以上の水準が条件となります。
雇用期間には制限があり、在留期間は5年、3年、1年、または3ヵ月のいずれかとなります。
この柔軟な期間設定により、企業のニーズに応じた人材活用が可能となるのです。
企業内転勤ビザで転勤できるパターン
企業内転勤ビザの適用範囲は、一般的に想像される以上に広範囲です。
対象となる異動や出向は多岐にわたり、以下のようなパターンが考えられます。
- 本店(本社)と支店(支社、営業所)間の異動
- 親会社と子会社、孫会社間の異動
- 子会社、孫会社間の異動
- 関連会社間での異動
この柔軟性により、企業は国際的な事業展開において、人材を効果的に配置することができます。
例えば、海外で培った専門知識や技術を日本の事業所で活かしたり、逆に日本の事業モデルを海外拠点に展開したりする際に、この制度が有効に機能します。
ただし、転勤元と転勤先の企業間に一定の資本関係や業務上の関連性が必要となるため、完全に無関係な企業間での転勤は認められません。
企業内転勤ビザの審査期間
企業内転勤ビザの取得にあたっては、一定の審査期間が必要です。
法務省が公表している令和2年4月~6月に許可した在留審査処理期間のデータによると、企業内転勤ビザの在留資格認定証明書が交付されるまでに、平均57.2日かかっています。
しかし、この審査期間は固定されたものではありません。
出入国在留管理局の時期的な混み具合や、申請を行う会社の規模などにより変動する可能性があります。
そのため、入国予定日に間に合うよう、なるべく早めに申請を行うことが重要です。
また、申請書類に不備がある場合は審査期間が延長される可能性もあるため、提出前に慎重に確認することも求められます。
企業内転勤の条件
企業内転勤ビザの取得には、いくつかの重要な条件があります。
これらの条件は、適切な人材の移動を確保し、日本の労働市場や経済に貢献することを目的とするものです。
以下の企業内転勤ビザの主要な条件について、それぞれ詳しくみていきましょう。
- 異動元で1年以上の勤務実績が必要
- 転勤、出向期間が定められていること
- 企業の経営が適正かつ安定していること
- 異動元での業務が技術・人文知識・国際業務ビザ相当であること
- 日本の事業所がすでにあること
- 日本人と同等以上の給与水準であること
- 素行不良ではないこと
異動元で1年以上の勤務実績が必要
企業内転勤ビザを申請する上で基本的な条件の一つが、異動元での一定期間の勤務実績です。
具体的には、転勤の直前までに海外にある本店や支店、事業所などで、継続して1年以上勤務していることが求められます。
この条件は、海外子会社や関連会社での勤務にも適用されます。
つまり、日本へ転勤する外国人社員は、同一企業グループ内で最低1年間の勤務経験を積んでいる必要があるということです。
この要件の背景には、転勤者が企業文化や業務内容を十分に理解し、日本での業務にスムーズに適応できることを担保する意図があります。
また、短期的な雇用ではなく、企業との長期的な関係性を持つ人材を優先的に受け入れる狙いも考えられます。
転勤、出向期間が定められていること
企業内転勤ビザの取得には、転勤や出向の期間が明確に定められていることが必要です。
対象の外国人に対し、雇用契約書や辞令などで、いつまで日本で勤務するかという期限を明確に示さなければなりません。
期間の設定には柔軟性があり、企業のニーズに応じて3ヵ月から最長5年までの範囲で設定することができます。
ただし、無期限の転勤や、期間が不明確な転勤は認められません。
この条件により、日本への定住を目的とした転勤を防ぎ、真に必要な期間だけ外国人材を受け入れることが可能となります。
また、定期的に人員配置の状況を見直す機会にもなり、企業にとっても効率的な人材活用につながります。
企業の経営が適正かつ安定していること
企業内転勤ビザの取得において、受け入れ企業の経営状態も重要な審査ポイントとなります。
具体的には、企業の経営が適正かつ安定していることが必要です。
この条件は、過去や現在における法令遵守の状況を含みます。
出入国管理及び難民認定法はもちろん、労働法や最低賃金法などの関連法規を遵守していなければなりません。
また、企業の財務状況も審査の対象です。
安定した収益や健全な財務体質は、転勤者に適切な労働環境と報酬を提供できることの証明となります。
この条件は、転勤者の権利を保護し、不適切な労働環境での就労を防ぐ役割を果たしています。
同時に、日本の労働市場や経済に悪影響を与える可能性のある企業での転勤者の受け入れを制限する効果もあるのです。
企業側としては、コンプライアンス体制の整備や財務状況の健全化に努めることが、スムーズな企業内転勤ビザの取得につながるといえるでしょう。
異動元での業務が技術・人文知識・国際業務ビザ相当であること
企業内転勤ビザの取得には、対象者が従事する業務の内容も重要な条件です。
具体的には、転勤前後の業務が技術・人文知識・国際業務ビザで定められている水準を満たす内容であることが求められます。
この条件は、日本での仕事内容だけでなく、異動元での業務にも適用されます。
つまり、転勤前から専門的・技術的分野での業務に従事していたという事実が必要です。
技術・人文知識・国際業務ビザに相当する業務には、例えば以下のようなものが含まれます。
- 工学、物理学、化学などの自然科学分野での専門的な業務
- 法律、経済、社会学などの人文科学分野での専門的な業務
- 外国の文化に基づく思考等を必要とする業務
この条件により、高度な専門性を持つ人材の移動が促進され、日本企業の国際競争力向上につながることが期待されています。
日本の事業所がすでにあること
企業内転勤ビザの取得には、転勤先となる日本の事業所がすでに存在していることが必須条件となります。
つまり、日本で勤務する場所があらかじめ確保されていなければ、このビザは許可されません。
日本の事業所は、法人登記されていることが一般的です。
ただし、支店や営業所など、必ずしも独立した法人格を持つ必要はありません。
重要なのは、実際に事業活動が行われている実態があることです。
この条件により、架空の事業所を利用した不正な入国を防ぐことができます。
また、転勤者が適切な労働環境を確保する効果もあります。
企業側としては、日本での事業展開計画と連動して、企業内転勤の戦略を立てることが重要となるでしょう。
日本人と同等以上の給与水準であること
企業内転勤ビザの取得において、給与水準は重要な審査ポイントの一つです。
具体的には、転勤者が日本人従業員と同等以上の報酬を受け取ることが求められます。
この条件は、日本人と同じかそれ以上の賃金規定に則った給与の支払いを受けることを意味します。
つまり、同様の職務や経験を持つ日本人従業員と比較して、不当に低い給与で雇用することは認められません。
給与水準の具体的な基準は、業種や業界によって異なりますが、一般的には大卒の初任給程度が最低ラインとされています。
企業側としては、転勤者の給与を設定する際に、日本人従業員との公平性を考慮しつつ、転勤者の能力や貢献度を適切に評価することが求められます。
素行不良ではないこと
企業内転勤ビザの取得において、申請者の素行も重要な審査ポイントとなります。
基本的に、申請者の素行が善良であることが前提です。
具体的には、以下のような点が考慮されます。
- 過去の犯罪歴の有無
- 日本の法令遵守状況
- 社会的規範の遵守状況
上記のほか、過去に日本に滞在した経験がある申請者の場合、その際の在留状況も審査の対象となります。
例えば、以前の滞在中に在留資格外活動を行っていたり、出入国管理法に違反したりした記録がある場合、それは不利な要素として扱われます。
企業側としては、転勤候補者の選定において、業務能力だけでなく、個人の素行や法令遵守の姿勢も考慮することが重要です。
また、転勤者に対して日本の法律や社会規範についての事前教育を行うことも、スムーズなビザ取得と日本への適応を支援する上で有効でしょう。
企業内転勤ビザの申請方法
企業内転勤ビザの取得には、出入国在留管理庁が定める手続きに従った申請が必要です。
具体的には、在留資格認定証明書交付申請を行うことが基本的なステップとなります。
主な提出書類には以下のようなものがあります。
- 在留資格認定証明書交付申請書
- 申請者の写真
- 返信用封筒(切手貼付)
- 企業の概要を示す資料
- 転勤元での勤務証明書
- 日本での職務内容を示す資料
- 給与証明書
上記のほか、カテゴリごとに定められた追加書類も必要です。
例えば、前年分の職員の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表の写しなどが求められる場合があります。
申請書類の作成には専門的な知識が必要な場合もあるため、行政書士や弁護士などの専門家に相談することも検討すると良いでしょう。
申請後は、審査期間を経て結果が通知されます。
許可された場合は在留資格認定証明書が交付されますが、これはビザそのものではありません。
ビザを取得するには、この証明書を持って在外日本大使館でビザ申請を行う必要があります。
企業内転勤の条件やビザの申請方法を知って参考にしよう
企業内転勤ビザは、グローバルビジネスにおいて重要な役割を果たす制度です。
企業内転勤を申請するには、異動元で1年以上の勤務実績があることや、転勤・出向期間が明確に定められていることなどが条件となります。
また、受け入れ企業の経営状態や、転勤者の給与水準、素行なども重要な審査ポイントです。
申請手続きは、出入国在留管理庁が定める方法に従って行います。
申請書類の作成に戸惑う場合は、専門家のサポートを受けることも有効な選択肢です。
これらの条件や手続きを理解し、適切に対応することで、スムーズな企業内転勤の実現が可能となります。
企業内転勤制度は、日本の産業競争力強化や国際化推進に寄与する重要な仕組みです。
この制度を適切に活用することで、企業の成長はもちろん、日本経済全体の発展にもつながるでしょう。