特定技能外国人の雇用が増加するなか、受け入れ企業では、日本人従業員と同じように年末調整が必要になるのか判断に迷うケースがあります。
年末調整にあたっては、書類の準備や納税状況の確認などが必要になり、対象者を正確に把握していないと、提出期限に間に合わないといった事態も招きかねません。
特定技能外国人は納税区分に関する注意点もあるため、年末調整を正しく実施できるよう、対象者や計算に影響を与える要素を理解しておきましょう。
本記事では、特定技能外国人に年末調整が必要となるケースをはじめ、適用される納税区分、扶養控除の条件と注意点を詳しく解説します。
目次
特定技能外国人も年末調整は必要
特定技能外国人も、日本人従業員と同様に年末調整が必要な場合があります。
ただし、外国人の納税区分や扶養控除の条件には、日本人と異なるルールが適用されており、違いを理解しておかないと年末調整にも大きな影響を与えかねません。
まずは、特定技能外国人が年末調整の対象となる条件と納税区分を見てみましょう。
年末調整が必要な特定技能外国人
特定技能外国人も、一定の条件を満たせば年末調整の対象となります。
具体的には、雇用主に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出を済ませている場合には、外国人であっても年末調整の対象です。
企業で働く日本人従業員も同様に、申告書の提出が年末調整の要否に関わります。
この点で、特定技能外国人と日本人従業員は、基本的に同じように年末調整の実施を判断して良いといえるでしょう。
ただし、年末調整の計算に用いられる納税区分や扶養控除の扱い方には、明確な違いがあります。
特定技能外国人を雇用する企業は、申告書の提出状況とともに、年末調整に影響を与えるその他の要素の確認も必要です。
特定技能外国人の納税区分
特定技能外国人の納税区分は、大きく以下3つに分かれています。
- 居住者:日本に住所がある、または日本に1年以上住んでいる人
- 非永住者:居住者のなかでも日本国籍がなく、過去10年以内で日本に住んでいた期間(または住所があった期間)が合計5年以下の人
- 非居住者以外の居住者:居住者のうち非永住者にも該当しない人
区分ごとで所得税・住民税の課税範囲や徴収方法が違っており、年末調整の正確性にも関わる要素です。
特定技能外国人を受け入れている企業は、人材の在留資格や在留期間を確認し、適切な納税区分を把握しておきましょう。
特定技能外国人の年末調整は扶養控除に注意
特定技能外国人の年末調整を行う際、特に注意したいのが扶養控除の取り扱いです。
日本国外に居住する親族が扶養控除の対象となる場合、申告時にはさまざまな提出書類が求められます。
ここでは、特定技能外国人に扶養控除が適用される条件と、申告時の必要書類を確認していきましょう。
扶養親族の条件
特定技能の在留資格に限らず、日本に居住する外国人が扶養控除の対象となるには、いくつかの条件を満たす必要があります。
そもそも扶養控除は、納税者と扶養親族の生計が同一であることが前提ですが、必ずしも同居が求められるわけではありません。
国外に居住する外国人の親族に扶養控除が適用されるのは、以下のいずれかの条件を満たす場合です。
- 16歳以上30歳未満、または70歳以上の親族
- 30歳以上70歳未満で、以下のいずれかを満たす親族
a. 留学によって日本に居住地を持たなくなった
b. 障害がある
c. 日本に在留する外国人本人(給与所得者)から、生活費や教育費を目的とした送金を年間38万円以上受けている
いずれの条件にも該当しない親族は、扶養控除が適用されません。
雇用主は、特定技能外国人から提出された書類をもとに、上記の条件と合致しているか慎重に判断しましょう。
扶養控除手続きの必要書類
特定技能外国人が国外居住の親族を扶養控除の対象とする場合、申告手続きの際には、次のような書類を提出してもらう必要があります。
- 親族関係書類
- 留学ビザ等書類
- 送金関係書類
- 38万円送金書類
それぞれどのような書類が該当するのか、どのような条件で必要になるのか確認してみましょう。
親族関係書類
親族関係書類は、特定技能外国人から「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を受け取る際には原則必須となる重要な書類です。
具体的な該当書類には、戸籍謄本や出生証明書などが挙げられます。
非居住者である親族が特定技能外国人の実際の親族であり、扶養控除の適用対象となることを証明するためのものです。
雇用主は、特定技能外国人から提出された親族関係書類が適切であることを確認し、必要によっては翻訳文などの追加書類も用意してもらってください。
留学ビザ等書類
留学ビザ等書類は、非居住者である親族が30歳以上70歳未満で、なおかつ留学のために日本国外で暮らしているという条件下で必要になる書類です。
該当書類には、外国政府・地方公共団体が発行した査証(ビザ)のコピー、または在留カードにあたる書類のコピーなどが挙げられます。
扶養控除の対象となる特定技能外国人の親族が、留学ビザで国外に在留している場合、これらの書類が適切に提出されているか確認しましょう。
送金関係書類
送金関係書類は、非居住者である親族の生活費や教育費とするため、特定技能外国人が年間38万円以上の送金をしている場合に必要な書類です。
具体的には、実際の送金状況を証明できる次のような書類が該当します。
- 金融機関が発行した送金に関する書類
- クレジット会社などが発行した送金に関する書類
- 電子決済手段等取引業者が発行した送金に関する書類
自社で雇用する特定技能外国人が扶養親族に送金を行っている場合、申告書とあわせて、上記書類のいずれかのコピーなどを提出してもらいましょう。
38万円送金書類
38万円送金書類は、国外の親族に年間38万円以上の送金をしており、扶養控除の申告書を提出した特定技能外国人の年末調整で必要になる書類です。
扶養控除の適用を受ける年の送金状況がわかる書類は、基本的にすべて提出してもらわなければなりません。
ただし、送金回数が3回以上となる場合、一定の事項が記載された明細書と、その年最初の送金・最後の送金状況がわかる書類のみで問題ない可能性もあります。
企業側では、特定技能外国人から提出された38万円送金書類に不足がないこと、送金額が基準を満たしていることをチェックしましょう。
特定技能外国人の年末調整のポイント
特定技能外国人の年末調整を正確に実施するには、以下4つのポイントを念頭に置いておく必要があります。
- 年金や国保の納付状況を確認する
- 生命保険などの加入状況を確認する
- 虚偽の報告がないか確認する
- 区分に間違いがないか確認する
順に詳しく見てみましょう。
年金や国保の納付状況を確認する
年末調整にあたって、特定技能外国人の国民健康保険や年金の納付状況をきちんと把握しておくことが重要です。
日本で就労する外国人のなかには、税制を十分に理解できていない方も少なくありません。
納付していたとしても、領収書などの必要性がわからずに捨ててしまう場合もあるでしょう。
納付状況によっては、年末調整の際の控除に影響を与える可能性があります。
特定技能外国人を雇用する企業は、相手の理解度に合わせて年金や国保の重要性を説明し、早めに納付状況をヒアリングしておくのがベターです。
生命保険などの加入状況を確認する
特定技能外国人は、生命保険や地震保険などの日本の任意保険に関する知識も十分でない可能性があります。
日本のアパートなどに入居する際に加入した火災保険に地震保険が付帯しており、外国人本人は加入状況を把握していなかったというケースも考えられるでしょう。
火災保険は原則控除の対象となりませんが、生命保険や地震保険は控除できる場合があります。
特定技能外国人を雇用している企業は、本人に任意保険の加入有無や加入している場合の保険の種類、保険料の支払い状況を確認しておいてください。
虚偽の報告がないか確認する
年末調整に虚偽の内容が見つかった場合、不足分の納付が求められるだけでなく、重加算税などのペナルティが科されるリスクもあります。
ペナルティを避けるためにも、企業は特定技能外国人から提出された書類の正確性を慎重に判断しなければなりません。
意図的に虚偽の報告を行う場合だけでなく、悪意なく書類の内容を間違ってしまう可能性も想定し、情報を精査したうえで必要に応じて追加書類も求めましょう。
区分に間違いがないか確認する
特定技能外国人の年末調整で、雇用主を混乱させやすいのが、居住者や永住者の納税区分です。
区分の間違いは、課税される税金の徴収額に関わり、結果として年末調整の計算にも影響を与えます。
また、本来なら年末調整が必要な外国人の申告を失念する、不適切に年末調整を実施してしまうといった事態は、人材のモチベーション低下にもつながるでしょう。
良好な雇用関係を築くためにも、企業は特定技能外国人の在留資格や生活状況をヒアリングし、正しい納税区分を把握することが大切です。
特定技能外国人も年末調整について理解して参考にしよう
特定技能外国人の年末調整が必要になるのは、日本人従業員と同様に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を雇用主に提出した場合です。
ただし、納税区分や扶養控除の判断基準には、日本人と異なるポイントがあり、適切な年末調整の進め方をあらかじめ理解しておく必要があります。
扶養控除の申告時には、特定技能外国人本人と親族の状況に応じた書類を提出してもらいましょう。
また、年末調整の実施にあたっては、公的保険・任意保険の納付状況を本人から聞き取るほか、虚偽報告を防止できるよう、企業側でも慎重な確認作業が求められます。
年末調整による適切な税務処理で、企業のコンプライアンスを維持するとともに、特定技能外国人が安心して働ける環境整備をめざしてみてください。